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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(六日目、地下)
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魔剣アゾット

※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※


 これ以上精神剤の実験をしてほしくなかった。

 実験に彼女の身が持たなくなっていることもあったが、見ているこちらが辛かった。

 だから精神剤の副作用とは言え、入れ替わったことは好都合だった。

 副作用のせいでムツミの寿命が縮んでしまったが、その代償の分は取り返すことができるだろう。


 それは最近この研究所にやって来たセタ、という人間。

 ムツミからセタについて聞いた時、これは使えると直感した。

 精神剤よりも効果的な方法。

 我が考えていることを確実に成功させるためには、セタと勝負をして我が勝たないといけない。


 セタに本音を言うつもりはない。言っても躊躇う可能性があるから。

 嘘でも何でもいい。事実に嘘を盛り込めばある程度は信じるだろう。

 事実については、ムツミが書いている日記を参考に紙に写せばなんとかなるか。

 あとセタは死という言葉にも弱そうだし、殺傷の考え方も幼い。

 その面から精神的に傷つけることも可能か。

 逃げられない、勝てる勝負の場を作る。


※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※〜※


 アゾットと名乗った彼女は脇に差していた剣を抜く。

 以前ムツミに見せてもらった剣先の平たい魔剣「クルタナ」とは違う形状。

 普通の剣と同様に剣先があり、ただその刃渡りは短い。

 柄に蒼い宝石が埋め込まれた短剣だ。


(これ)を知っているか?」

「えっと……」


 彼女が持っている短剣がアゾットなのだろう。


(あれが本体、なのか?)


 だけど今はムツミの体に取り憑いていている。

 短剣のアゾットはどうなっているんだ?

 というかムツミの精神はどこいった?

 ……分かりそうにないな。考えるのをやめよう。

 とりあえず正面にいる彼女はアゾットだ。ムツミではなくアゾット。

 口調が違うし、別人だと思って会話をする。


(アゾット、か)


 俺はアゾットについて覚えていることを頭に浮かべる。

 地球では錬金術師パラケルススの持っていたという武器だったか。

 柄頭に「AZOTH」と刻まれていて、それが名前の由来になったという。


(そういえば、アラビア語の水銀が語源だというのもあった気がするな)


 今はどうでもいいか。重要なのは地球ではなく異世界でのアゾットを知っているかどうかだ。


「本や日記で見た程度だけど「治癒魔法や薬品の作製に特化した魔剣」じゃなかったか?」

「そうだ。ムツミの「ナナミ様の怪我を治したい」「フルンティングをどうにかしたい」という想いから、我は生まれた」

「へぇ」

「あとは「全てを失ったナナミ様の傷を埋めたい」という想いも含まれている」


 日記ではムツミが牢屋に入れられていた時期だったから、なぜ変化したのかは詳しく書いていなかったな。


「もしかして、アゾットが日記を俺に読ませたのか?」

「そうだ。我が夜な夜なムツミに気づかれずに書いたのだ」

「書いた?」

「日記が紙で書かれる訳がないだろう」


 アゾットは俺に彼女のメニュー画面を見せた。

 アイコンの一つに「ニッキ」というものがあり、アゾットはそれをタップした。

 日付の書かれた一覧が表示される。その中から俺の見た「紙の日記」の日付をアゾットは選んだ。

 そこには俺が読んだ内容の日記が書かれていた。


「我がセタさんに読んでほしかったのだ」

「なぜ?」

「ムツミの生きている証を残したくて、な」


 どうしてそんなことを言うんだ?

 それだとまるで……


「日記に関してはこれぐらいにして……セタさん、勝負しろ」


 混乱している俺を余所にアゾットは剣先を俺に向けた。

 駄目だ。アゾットのペースに呑まれている。どこかでこのペースを止めないと。


「……断る」

「何故断る?」

「戦う理由がない」

「言わなかったか?」

「アゾット自身の理由は聞いていない」


 さっきはナナミと勝負をして勝つ覚悟ができているか、と聞いてきた。だけどあれはムツミに扮してアゾットが聞いてきた。

 会話の前後も変だったし、噛み合っていなかったから、アゾットの別の理由があるはず。

 するとアゾットはため息を吐いた。


「無理矢理、話を繋ぎ合わせるのは駄目だな」

「嘘だったんだな。だったら、戦いたい理由はなんだ?」


 改めて聞く。

 するとアゾットはもう一度ため息を吐いた。


「戦う理由はな……ムツミを殺してもらうためだ」

「な」


 頭が真っ白になった。

 こいつは何を言っているんだ?


「ムツミの体がボロボロでな」


 そう言って袖をまくり、腕を見せる。青黒い色となっていた。

 少なくとも人間の肌の色ではない。

 不気味な色を見て血の気が引く。


「昨日行った精神剤の実験が原因だ」

「精神剤の、実験?」

「ムツミの研究の一つだ。知らなかったのか?」

「ああ」


 彼女の研究について俺が聞いたことがない。

 ナナミに勝つことで、彼女の研究の手伝いができることしか聞いていない。

 だけど精神剤の研究だとすれば納得できる。


「……治らないのか?」

「治らない。ムツミの体が受け付けるミズカネの毒の許容量を超えたのだ」


 ミズカネの毒。あれは触れると皮膚が爛れるほど強力なもののはず。

 ……だけど確かナナミが精神剤を作っていた時にミズカネを使っていたな。

 あの時は俺が異世界(このせかい)に来て初日かつ疲れ切っていた深夜だったから、何も違和感を感じていなかった。

 今考えればかなりのリスクがあることがよく分かる。

 薬品を間違った分量で作って飲めば効果がないどころか、死ぬ可能性がある。

 ムツミは分量を誤った精神剤を試飲してしまったということか。


「この状態では死んだ方がマシだ」

「……立っていることもしんどいんじゃないか?」

「まあな。だが、まだ大丈夫だ」


 淡々と答えるアゾット。


「……どうして俺なんだ?」

「ナナミ様だと絶対に拒否するし、あの所長は気に入らない」


 気に入らないって。

 そんな理由で殺してもらうように依頼をかけていないのか。


(いや、ちょっと待て)


 俺の思考もおかしい。

 何故ムツミが殺される前提で考えているんだよ。


「俺は殺さないぞ」

「……なら、これでどうだ?」


 俺の返答に苛立ちを覚えたのか、アゾットは眉間にしわを寄せ手元で何か操作をした。そして最後に雑にキーボードのエンターキーを押すような動作。

 直後ビービーという警告音が部屋の中に鳴り響いた。

 驚いて俺は周囲を見渡す。


――所定の二名の戦闘要員を確認しました。一分以内に戦闘を開始してください。


 音声案内とともに俺の背後にあった入口が閉じられた。慌てて駆け寄り開けようとするが開かない。

 俺はアゾットを睨む。


「おい!」

「我らのどちらかが死ぬまで開かない」

「俺は殺さないぞ!」

「だったら二人とも死ぬだけだ」


 上を指す。音声案内が続きをアナウンスしていた。


――戦闘が開始されない場合は戦闘放棄と見なし、粛清機械を展開、二名を排除します。

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