日記(救出、首都)
【六の月十六の日】
ナナミ様の救出は無事完了。城下町からの脱出も成功。
今は首都に向かって移動している。
イジンは裏切ることなく陰から手伝ってくれていたようだ。
推測なのは脱出する際にホラズム軍の兵士が「イジン様が御乱心なされた」とか「止めに行くぞ」という会話を聞いたからだ。
暴れていたのは城下町の南西。城下町内では一番首都へ向かう門から離れている場所だった。
そのおかげでナナミ様と私は城下町を簡単に出ることができ、首都へと向かうことが容易になった。
結局イジンはナナミ様と直接会うことは無かった。
今後会うこともないかもしれない。
【六の月十七の日】
ナナミ様の様子がおかしい。
たまに口調が淡々としたものとなり、表情が消える時がある。
そしてその時は必ず好戦的な性格になる。
アゾットに尋ねると「フルンティングの性格ではないか?」と答えた。
確かにフルンティングの性格は「殺戮の戦闘狂」を基本にしている。
魔剣を顕現させていないのに影響が出ることがあるのだろうか。
【六の月十八の日】
ナナミ様に殺されかけた。
背後から斬りかかれられ、あと一歩で死ぬところだった。
アゾットが反応して私の体を動かしてくれたため、難を逃れた。
だけど心境は複雑。
アゾットが勝手に私の体を動かしてくれたということは、私もナナミ様と同じ。
魔剣を顕現させなくても魔剣の意志は体を自由に動かすことができる証拠。
アゾットの場合「ムツミによほどのことがない限り、体を動かさない」と言っていた。
ナナミ様のフルンティングはどう考えているのだろう。
【六の月十九の日】
首都が見える丘までたどり着いた。
十六の日から夜通し歩き続けたお陰か、ホラズムの軍に追いつかれることなく逃げ切ることができた。
ホッとして気が抜けそうになったけど、まだ早い。
傍にいるナナミ様を見る。フルンティングの意志と戦っているのか、時折苦しそうな表情をしている。
疲労の色も濃い。
だからこそ私が先に気を抜くわけにはいかない。
首都の中にあるヒゴの貴族が管理する屋敷にたどり着くまでは何が起きるか分からないから。
【六の月二十の日】
屋敷に無事到着し、ゆっくりすることができた。
湯船に浸かることができ、これまでの疲れが全て取れそうだった。
気持ちよく入っていると、途中ナナミ様が入ってきた。
やつれているけど、表情がある。今はフルンティングの意志を抑えることができているらしい。
「一緒に入ろう」と言われ、反対する理由もないので私は頷く。
ナナミ様の素肌を見て、私は言葉を失った。
体は傷だらけ。打撲に裂傷……様々な傷が全身を覆っていた。
明らかに暴力を振るわれた傷。
傷つけられた時期はホラズム軍に別々の牢屋で拘束されていた時だろう。
湯船に入るナナミ様は傷に沁みるらしく、痛みに耐える表情をしていた。
上がったら傷を治そうとナナミ様に提案したけど、拒否された。
ナナミ様曰く「この傷は私の罪だから」と。
【六の月二十一の日】
ナナミ様と私はアキツを頂点に立つ統王と面会した。
尋ねられたことは脱出する際のヒゴの状況とホラズム軍の規模。
そして軍をすぐに送ることができなかったことに対する謝罪。
統王はヒゴにいるホラズム軍を撃退する計画を考えているように感じ取れた。
その時は私も参軍するだろう。
【六の月二十二の日】
ナナミ様のフルンティングを抑える薬を作ることを決めた。
日記に書くとキリがなかったから書いていないけど、今日もフルンティングに支配されたナナミ様に五回殺されかけた。
未遂で止めた回数は十数回。昨日の統王との面会の時は大変だった。
体調不良で早期に退出させてもらって事なきことを得たけど。
一先ずは少しでもフルンティングの意志を抑える、簡単な薬をアゾットと一緒に作る。
【六の月三十の日】
薬の作成は順調。精神剤とでも命名しようか。
私が毒味し、アゾットが一定時間出てこないことで目的のものを作成できていることを確認。それをナナミ様に飲んでいただき、容態も安定している時間が増えた。
だけど猛毒のミズカネを使っているから、これを使わない薬はできないだろうか。
毒だと分かっていて毒味し、それをナナミ様に渡すことを続けるなんてできない。





