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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(六日目、日記)
58/90

日記(潜入、捕縛)

 ※六の月四の日から九の日までは書く余裕が無かったため記載なし。


【六の月十の日】

 やっと状況を整理できる。後日談となるが記載ておく。


 四の日

 城下町を脱出した後、町外れの森の中に身を隠した。

 移動したいのは山々だったけどナナミ様が虚ろなため、迅速に移動できなかったからだ。

 ここなら首都へと繋がる道にも近いし、援軍が来たら合流できると判断。

 身を潜め、援軍を待つ。


 五の日

 援軍が来ないことを知る。

 様子を見に行った者からの報告だと途中まで来ていたけど、ヒゴの城下町が占領されたことを知ると引き返したそうだ。

 これでは援軍と合流できない。

 急いで首都へと向かうことを決める。


 六の日

 朝起きるとナナミ様がいなくなっていた。

 周囲を捜し、離れた場所で夜に見張りをしていた者を発見。重傷を負っていた。

 介抱し話を聞くと、夜間にナナミ様が目覚め、隠れている場所から抜け出そうとし、それを止めようとすると斬られたそうだ。

 ナナミ様は見張りを助けることなく、その場から去った。向かった場所は分からない。

 だけど「助けなきゃ」という言葉を見張りは聞いていた。

 恐らく向かった先は城下町。


 七の日

 城下町に潜入。占領される前の活気に満ちた光景はなく、淀んだ空気が満ちていた。

 人々の表情は恐怖に支配されている。

 城下町の中心にたどり着く。そこには処刑台があった。

 ナナミ様や私を逃がしてくれた重鎮たちが磔にされている。晒し首になっている者もいた。

 その中に領主様の首。

 目を逸らす。見るに耐えない。

 ナナミ様を処刑台に向かわせないために早く見つけないと。


 八の日

 ナナミ様を発見。片手には見たこともない武器を持っている。

 赤い刀身の武器。一目でそれが魔剣だと分かった。

 声をかけようとしたけど、雰囲気がいつもと違った。

 殺意を身に纏い、誰も寄せ付けない雰囲気。

 私は怖気ついて声をかけることができない。

 離れたところからナナミ様を追跡する。ナナミ様は処刑台の方へと向かっていた。

 そして迷うことなく処刑台に上がり、皆の遺体を解放していく。

 当然、ホラズム軍の兵士に囲まれる。それでもナナミ様は手を止めない。

 無視をされた兵士の一人が激昂しナナミ様の背後から斬りかかる。私は助けようとと思ったけど、距離が遠く、間に合わない。

 ナナミ様が斬られると思った矢先、剣を握っていた兵士の腕が宙に舞った。目に見えない速さの斬撃。腕を斬られた兵士も何が起きたのか分からず、呆然としている。


 斬ったのはナナミ様。


 赤い刀を振り上げたナナミ様は、それを腕を斬った兵士に振り下ろす。それだけで兵士は縦に二分された。続けて横薙ぎ。傍にいた兵士が今度は胴の部分で横に二分される。


 あっという間の出来事。


 兵士から溢れ出た鮮血でナナミ様の体は赤く染まっている。血を浴びたナナミ様は眉一つ動かさず、無表情だ。

 あれは本当にナナミ様なのだろうか。


 九の日

 ナナミ様と私は城下町から逃げ出した。

 追っ手が来ていないことを確認して、ナナミ様から城下町に戻った理由、そして魔剣について話を聞く。

 城下町に戻った理由は「ホラズム軍に復讐し、城下町の人々を助けたかった」から。

 城下町の人々を助ける、という心意気は素晴らしいことだと思う。領主の姫としての自覚もある。

 だけど一人で解決できることではない。

 せめて途中まで来ていた援軍を呼び止めて、無理矢理にでも城下町へ向かわせるとか他の方法があったはずだ。


 無謀すぎることを言うとナナミ様は「フルンティングならできる」と答えた。


 魔剣フルンティングの意志は「身を賭した復讐」

 確かにフルンティングの意志に身を任せれば殺戮の戦闘狂となり敵を殲滅し、城下町を解放できるかもしれない。

 だけどそれは憶測の域を出ない。可能性が高くなるだけで確実とは言えない。

 ナナミ様が無事でいる保証も全くなかった。

 それにフルンティングの意志に身を任せたところで、ナナミ様にこれ以上人間を殺させたらいけない。


 鏡を突きつけてナナミ様に自分の表情を見て欲しい。

 土気色だし、魔剣を握っていた手が未だに震えている。


 十の日

 ホラズム軍に捕まった。

 ナナミ様と私が逃げた方角を昼夜問わずしらみつぶしに捜索したらしい。

 一人のヒゴの姫に一個大隊を壊滅させられたのだから当然のことかもしれない。ホラズム軍が自国に戻った時、最大の汚点になった可能性がある。

 ホラズム軍にとってナナミ様の捕縛は優先度の高い課題となったのだろう。

 そして捕まったナナミ様と私はヒゴの城の地下にある牢屋に別々に入れられている。

 近くの牢屋ではないので、ナナミ様の状況は分からない。

 この日記は「どうせ死ぬなら、死ぬ日まで書かせろ」と言ったら、あっさりと許可が出た。

 ホラズム軍に見られることは否定できないから悪口は書けないけど、死ぬ直前まで日記は書き続けよう。


【六の月十一の日】

 以前出会ったイジンが私に会いに来た。彼の顔を見ただけで怒りが込み上げてきた。

 彼に対してもだけど自分自身に対しても、そう。

 ホラズム軍の先陣を切っていた彼自身、城下町でコソコソと行動をしていたことに違和感を持たなかった私自身に。

 牢屋の中に入ってきたので私は思い切り彼を殴った。彼は私の拳を避けることをせず、顔で受け止めた。

 私はすぐにイジンの取り巻きに取り押さえられた。彼らに数回殴り蹴られたけど、すぐにイジンが止めた。

 そして一言。


「ごめん」と。


【六の月十二の日】

 ナナミ様の処刑が三日後に決まったらしい。

 私はどうしたらいい。


【六の月十三の日】

 イジンがまた来た。今日は取り巻きを連れておらず、一人だった。

 今なら殴っても報服はないかもしれない。だけどナナミ様の処刑が決まって気力を無くしていた私は、彼に対する怒りも込み上げて来なかった。

 そんな状態の私にイジンは取り上げられたトツカのツルギを返してきた。

 予想外の出来事。

 なぜ返すのかを尋ねると、イジンは「こんなはずじゃなかった」とか「これは間違っている」とか言ってきた。

 そして明後日のナナミ様の処刑の際にに乱入し、救出を手伝ってくれるという。

 正直信用はできない。だけど頼るしかない。


【六の月十四の日】

 トツカのツルギが魔剣に変化した。

 名前は「アゾット」

 治癒魔法や薬品の作製に特化した魔剣だ。

 正直なところ、攻撃に特化した魔剣に変化して欲しかったけど、これは「ナナミ様を守りたい」とか「傍にいたい」とか考えていたからだろうか。

 魔力をトツカのツルギに込めていたときのことを思い返していると、ナナミ様がよく怪我をしていたことを時々脳裏に浮かべていたことがあった。

 それがトツカのツルギをアゾットに変化させた要因になったのだろうか。

 今はどちらでもいい。

 アゾットの意志とすぐに対話を始める。

 明日ナナミ様を救出し逃げる成功率を上げるためのいい魔法がないかを。


【六の月十五の日】

 これから処刑台に向かう。

 大丈夫。全て上手くいく。

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