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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(四日目)
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午後の練習(実戦形式)

 金属のぶつかる音が模擬戦場に響く。

 午後はムツミと魔法を織り交ぜた実戦形式の練習だった。俺は借りたトツカのツルギを使い、ムツミは魔剣を使っている。

 確か名前はクルタナとか言っていたか。

 剣先が平たい不思議な形状の剣だ。

 ムツミは「私の持っている魔剣の一つです」って言っていたから、他にも何本か魔剣を持っているのだろう。


 練習はこれで三本目。先の二本は俺の負け。武器を使っての攻撃と魔法を使うタイミングが俺自身の中で噛み合っていない。

 明らかに魔法に慣れていないんだろうな。魔法に対する頭の回転が遅い。

 一方で剣技については朝にナナミと鍛錬をしているおかげか、成長をしていることを実感できていた。

 初期能力「成長する力(刀剣)」があるからだと思うけど、どんどん上達している。

 たぶんこの能力は常時発動型の能力なのだろう。


「っは」


 数回刃を交錯させ、俺はツルギを弾かれた。直後蹴りを入れられる。俺は両手を交差させ、蹴りを受け止める。華奢な体のなのに力強い蹴りだった。勢いで俺は数メートル後方に下がる。

 距離ができた。ツルギが届かない距離。

 魔法を使う距離。

 ムツミはクルタナを振るい、風の斬撃の魔法を俺に飛ばす。俺は横に転がり攻撃を回避。伏せた状態で地面に「水前」と描き、魔力を全力で込める。

 ムツミに向かって大量の水が流れていく。さながら洪水のようだ。


「ちっ」


 ムツミは舌打ちをすると剣を振るって風の壁を作り俺の攻撃を防ぐ。俺の水の攻撃に防戦一方となっている。

 俺は好機だと判断し、魔力を込めるのを止め水の魔法を止める。水を追いかけるように駆け出しムツミに接近した。

 だけどムツミに刃が届くあと一歩のところで問題が発生。


 勢いよく走っていたため、踏み込みが甘くなり泥に足を取られる。


 体勢を崩して、ツルギを振るうことができない。止まることもできず俺を避けたムツミの横を通り過ぎ、慌てて足に力を入れた俺は足を滑らせた。

 泥の中に背中からダイブし、頭を地面に思い切りぶつける。


()てててて」

「……馬鹿ですか?」


 頭上から呆れた声と視界に見える喉元に突き付けられた剣先の無い魔剣。俺は寝転んだ状態で両手を挙げ、降参のポーズ。


「地面の土が泥濘んでいるので、勢いよく走ったらそうなりますよ」

「まあ、そうだな」


 立ち上がる。

 あー、どろどろだな。泥が撥ねて体の前まで汚している。

 背中は見なくてもいいな。服に染み込んで冷たい感覚が伝わってきている。


「……セタさん、後ろを向いてください」

「何だよって……うぉっ!?」


 クルタナの平たい剣先から水が飛び出してきた。水圧が強く、痛い。

 そのまま顔や体を洗われる。

 間違っても夏空の下、プール掃除をしている時の水を友達にかけているような楽しい状況ではない。

 これは洗車だ。


「早く後ろを向いてください。このままの水圧で下半身も洗いますよ」

「水圧を下げることはしないのかよ!」

「残念ながら水圧の調整はできません」

「じゃあ、調整出来そうなことを言うな!」


 次第に水は俺の下半身へと向かっていく。俺に痛みつけられて悦ぶ性癖はない。すぐに後ろを向いて背中を洗ってもらう。


「はい、終わりました」

「……というか、こんなんで泥が落ちるのか?」

「ある程度は落ちますよ。ブラシを使う代わりに水圧を強めにして、擦るようにして泥を取りました」

「なるほど……って、おい」


 強めにして、ということは水圧の調整ができるということじゃないか。

 ムツミを睨むと「よく気付きましたね」とでも言うように俺に向けて拍手をしていた。


 はぁ。


 俺がため息を吐いたのを見て、彼女は魔剣を片付ける。


「少し休憩しましょう」

「一回も勝てなかったな……」

「経験の差ですよ。ですが剣技だけで勝負していたら、負けていたかもしれません」

「そうなのか?」

「はい。剣技はナナミと互角……とまではいきませんが、剣筋が良くなっています」

「そう言われると嬉しいな」


 ムツミはじっと俺を見る。


「あとは魔法の発動するタイミングですね」

「ああ。なかなか難しい」

「今のセタさんの場合、描く必要があるので短距離で魔法を使うと攻撃される可能性があります。先程の水の魔法のように遠距離から使うのが一番ですね」


 ムツミの言う通りだ。

 魔法を使うなら、漢字を描くための時間と相手までの距離を計算する。

 そして戦いながらどんな魔法をどのタイミングで使うのかを考えなければならない。


 さて、どうしたものか。


 ムツミと相談した戦い方を思い出す。

 主体となる攻撃方法は剣術を使った方法。

 これはナナミが魔法よりも剣を振るうことが多いからだ。

 接近戦になることは必須だろう。

 接近戦に関しては朝の鍛練でもナナミと勝負しているし、彼女の癖もなんとなくだけど分かってきている。対応はできるはずだ。


 魔法の攻撃はどうするか。

 これはまともな魔法が使えるまで時間がかかりそうだったので、単純な魔法だけを練習することに決めた。

 あと魔力量の調整する練習は諦めた。

 ムツミに「時間の無駄です。漢字を描いたら思うように魔力を込めてください」と言われてしまった。

 妥当な判断かもしれないけど、何だか悲しい。

 魔力量の調整が下手というだけで、ここまで不便になるとは思っていなかった。


 さっきの「水前」と描いた魔法にも思うがままに魔力を込めたから、津波のごとく水がムツミを襲い、模擬戦場の大半を泥沼にした。

 そしてそれをムツミは防ぎ、対して俺は足を滑らせるという失態。

 実のところ、想定外の攻撃になったといってもいい。


「魔法を使ったあとのことを考えないとな」

「そうです。セタさん自身が行動を拘束されないよう、予測して魔法を使えばいいのです」


 それが難しいんだけどな。

 練習をして慣れるしかないのだろうけど。

 あと二日。できるだけのことをしなければならない。

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