瀬田直也、勉強中(魔剣)
〇まえがき
魔剣は無数にあると考えられている。
フルンティング、アゾット、エペタム……確認されている魔剣だけで五十種は下らない。
また同一の魔剣でも所有者によって設定される魔法の種類、特徴は異なる。
本書ではその魔剣について、現在分かっていることを記載する。
〇魔剣への変化
魔剣とはトツカのツルギが変化したものである。
トツカのツルギに魔力を流し、所有者をを認識させることで魔剣となる。その魔力の量や質から所有者の意志を見極め、所有者に適した魔剣と変化する。
以下に確認された意志の一例を挙げる。
フルンティングなら「身を賭した復讐」
アゾットなら「失ったものを取り戻す」
※あくまでも一例。同一の魔剣でも変化するための意志は多少異なる。
また魔剣に変化時、魔剣から所有者への「問いかけ」が行われる。
これは魔剣が所有する覚悟を聞いていると言われている。形式上とされ、実際に深く考えずに応えても問題はない。
ただしあまりにも見当違いな応えを行うと所有権が無効および所有者の殺害、そして魔剣は自壊する。
〇魔剣への魔法の設定
魔法は魔剣の変化時に設定される。
魔力を通して把握した所有者の特徴から属性漢字が含められた魔法が設定される。例えば身軽な人間ならば「風」の魔法、熱意を持つ人間なら「火」の属性になることが多い。
一方で「渦」や「縄」など物質漢字や動作漢字はどのような過程で設定されているのか分かっていない。
現在のところトツカのツルギが魔剣に変化後、調べることで初めてどのような魔法が設定されたのかが分かる。
これに関しては現在の研究課題となっている。
ただし漢字に対して博識な所有者の場合、設定される魔法が多いという傾向があることは分かっている。
では魔法が設定されていない魔剣が生まれることはあるのか。
答えは否。
漢字の知識が全くない人間にトツカのツルギを持たせ、魔剣に変化させるという実験は過去に何度も行われた。
実験の結果は属性漢字は設定されており、魔法は使うことができた。しかし物質漢字や動作漢字については全く設定されなかった。
魔法は確かに設定されていたが不完全なものだった。
その場合の用途は火種や飲料水として民間人の生活にとっては有効だったが、武器の「剣」として全く使うことができないものだった。
魔剣としては失敗の実験だったといえるだろう。
〇トツカのツルギおよび魔剣研究の歴史
トツカのツルギはセイカで魔法が発見されてから十数年後に東の国・アキツで開発されたとされている。
世界に流通し始めた当初は単なる武器であったが、しばらくして「魔剣」に変化するという現象が世界各国で現れた。
その現象について各国はアキツに問い合わせを行ったが、返答はなし。当然トツカのツルギの解明をするためアキツに接触を試みた研究者や国家機関があったが、すべて拒否されている。
それどころかさらにトツカのツルギを流通させ「知りたければ勝手に調べろ」とでも言っているようだった。
アキツの隣国・セイカはその態度に業を煮やし、攻め入ったこともあった。しかしすべて返り討ちにされ、しかもその時に使用していた武器はトツカのツルギを変化させた多種多様の「魔剣」だった。
それも世界では全く知られていない魔剣が使われていたという。
魔剣は一騎当千の武器となる。
魔法大国のセイカを打ち破ったことでそのような認識が世界で生まれた。
魔剣があれば、セイカに対抗できる、と。
各国では自身が抱える研究者に魔剣の研究を行うよう指示を出した。しかし結果は芳しくなかった。
現在解明できているのはトツカのツルギ全体の二割ほどとされている。中核とされている箇所は発見できているのだが、解読が全く進んでいないのだ。「まるで滅んだ古代文明の文字を解読しているようだ」とある研究者が言ったとされているが、全くのその通りだった。
明確に分かったことは「魔力を一定量流せば魔剣に変化する」ということで、それ以外はほとんど普通の剣と変わりがなかった。
同時に変化した後の魔剣の研究も行っていた。
こちらはトツカのツルギの研究よりは進んでいる。
・魔剣には魔法が設定されている。
・設定された魔法は所有者によって変化する。
・所有者を失った魔剣は自然に朽ちるか、朽ちる前に魔力を流し込むことで新たな所有者を選ぶ、など。
現在はセイカから各国に出された休戦協定、およびアキツ国内に魔法学院設立(※)により世界共同で魔剣の研究が進められている。
(※)魔法学院設立はアキツからの世界への申し出であり意図は不明だが、各国はトツカのツルギおよび魔剣の解明ができると考え、拒否することなく若者を留学させている。
なおトツカのツルギ・魔剣の構造についてはアキツ国内でも一部の人間のみが知っている。そのため魔法学院に属するアキツ出身の学生は何も知らない。
構造を知るための研究職に就くためには学院で好成績を残せばいい、と考えられているようだが……





