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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(初日)
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状況確認

 落ち着いたのはしばらく経ってからのことだった。

 その間に魔物に襲われなかったことは幸いか。


「スキルとか調べたいことは色々あるけど……」


 周囲を見渡す。空気の流れが滞っているためか、鉄臭さと嘔吐の臭いで充満している。

 気持ち悪い。


(綺麗な場所に移動しないと)


 ふらつきながらも立ち上がり、剣をベルトとズボンの間に挟む。

 しばらく歩き、大きな岩の陰に座った。

 血で濡れたパーカーを脱いで傍らに置いた。幸いシャツはほとんど汚れていなかった。


「はぁ」


 岩に背を預け、ため息を吐く。

 どうして異世界でこんな辛い状況になっているのだろう。

 異世界に来てまだ一時間も経っていない。

 それなのに魔物と戦って服はドロドロ、精神もボロボロ。

 首は締められたし、背中にも一瞬激痛が走った。痛みからか首と背中は麻痺したような感覚だ。だけど直接見ることができないから状態は確認できない。

 泣きそうだ。

 この状況を脱したら、絶対に楽しんでやる。


(そのためにも状況を整理しないと……)


 泣きそうなのを堪え鼻をすすり、左手に魔力を込めメニュー画面を開く。

 メニュー画面を開きさっき見つけていた「メモ」の機能を起動する。同時にメモの機能とは別の画面でキーボードが出現。スマートフォンなどの端末と同じ仕組みで入力ができるようだ。


 問題は言葉を変換しても漢字にならないことか。

 文句を言っても仕方がない。考えていることを書き込む。


 イチ.チをヌグいたい

 ニ.ゲンザイチのカクニンとゲザン

 サン.シュウトクしたスキルのカクニン


 優先度で言うとサン、ニ、イチの順番か。

 魔物といつ遭遇するか分からない状況だからな。習得したスキルがどんなものなのか確認しておきたい。

 今すぐに確認して解決することができるし。

 俺は「トクシュノウリョク」から「セイチョウするチカラ(トウケン)」を選択する。


「えっと、習得したスキルは確か……」


「基礎技術」と「背水」だったか。

 見ると習得したスキルが「トクシュノウリョク」の画面に表示されていることに気づいた。

 スキルの詳細も書いてある。

 何て書いているんだ?

 頭の中で漢字に変換しながら読んでいく。


「「基本技術は刀剣を扱う基本的な技術(斬るなど)を素人以上に使用することが出来ます」……うん、まあ」


 確かに柄を握り直した時、初めて剣を持ったにしては妙にしっくりきたけどな。

 でも素人以上っていう表現はのは微妙だろ。


「続きは……「なお、素人が扱う時と異なることは「斬る時のためらいが低くなること」や「刀剣の持ち方がマシになること」です」って、これだけ読むと本当に素人技術に毛が生えた程度のスキルじゃないか」


 基本技術だから仕方ないのか?

 ため息を吐いてもう一つのスキルについて確認する。


「えっと「背水は敵が自分自身よりも強い時に発動します。攻撃、防御等が敵と戦える程度にまで上昇します」って……」


 強いって曖昧だな。何をもって強いと言っているのだろう。

 強い、弱いの判断をするものといえばレーダーチャートか?

 俺は「ジコノウリョク」画面を開く。

 この画面で最初に目に入ってきたのは渾名だった。


 ナマエ:セタ ナオヤ

 アダナ:フウンなニンゲン


 渾名が変わっている。フウン……不運か?

 異世界で俺の身に起きたことは不運なことなのか?

 端的な言葉にまとめられるのは癪だな。

 渾名だから端的に名付けているのか?

 そもそも渾名の付け方の基準は何なんだ?

 それに渾名が何かの拍子にころころと変わるのだろうか。

 それほど重要じゃないけど、渾名について誰かに聞いてみないと分からないことだな。

 とりあえずメモに残しておこう。


 ステータスを表示しているレーダーチャートの形も変化していた。

 平均的な値だったのが少しだけ攻撃力のステータスが偏って上がっているように見える。

 ……ちょっと待てよ。

 ステータスって、何を基準に上がる?

 ゲームならジョブに依存してステータスが上がるものがある。戦士なら攻撃力、魔法士なら魔力のステータスが優先的に上がるみたいな。

 けど、俺はジョブを決めた覚えはない。

 他に考えられることとしたら倒した敵に依存するもの。

 敵に攻撃力や魔力のポイントがあらかじめ設定されていて、倒すことでそのポイントを取得する。

 某ゲームの努力値みたいなものか。


 後者のように見えるけど、あくまでもゲームでの話だ。ゲームだから事前に敵に設定ができるけど、今回みたいに「亜種」の場合だとポイントを設定できることは難しいだろう。

 これは現実。ゲームじゃないんだ。痛みも実際に経験したんだ。

 ……感覚について、今考えるのはよそう。気分が悪くなってきた。


――自己能力に変化がありました。ステータスを確認してください。


 頭の中で声がした。それと同時に見ていたレーダーチャートに変化が現れた。

「メンタル」の能力が下がっている。


(えっと、もしかして……)


 試しに地面に落ちていた石を投げてみる。一度では何も反応がなかったが何回か投げていると、さっきと同じように頭の中で音声が流れた。同時にレーダーチャートにも変化。

「キンリョク」が上昇している。

 あ、「セイド」が下がった。これは適当に投げていたから「精度」が下がったのだろう。


(なるほど)


 このレーダーチャート、日々の経験で取得したポイントをグラフ化したものか。しかも上昇するだけではなく、減少もするようだ。

 地道に経験を積めば強くなれる。しかも今の状況だと筋トレをするだけで襲ってくるだろう敵に対抗する力を身につけることができる。

 これは重要な発見だな。地道な努力が必要だけど、それが反映されるなら頑張るだけだ。

 ひとまず能力確認はこれぐらいか。


 次は「現在地の確認と下山」か。

 問題はマップがないから今の場所をどう調べるか。

 この山を登るか?

 山で遭難した場合、頂上を目指して登ることが常套手段だ。

 高いところから見渡せばどんな場所か分かるかもしれないし、頂上に到達すれば登山道が見つかるかもしれない。

 登山道が分かれば山を下ることができる。

 本当はすぐに下山したいけど、リスクを考えると登るほうがいいな。

 山を登ることを決める。


 最後の「血を拭いたい」はどうするかな。


「これは山を登りながら川でも探すかって……え?」


 不意に頭の中でアラートが鳴った。


――テイルウルフの亜種の群れが接近中。敵愾心あり。戦闘の準備をしてください。


 群れだと?

 辺りを見渡す。見当たらない。

 俺はそっと岩陰から顔を覗かせ、テイルウルフの死体がある場所を見る。

 テイルウルフが三匹いる。大型が一匹、小型が二匹だ。

 俺が斃したテイルウルフの仲間だろうか。

 鼻をひくつかせ辺りの臭いを嗅ぎ、確実に俺のほうへと近づいてきている。

 奴らはは犬のように臭いを嗅ぎ分けることができるようだ。だとしたら逃げることは難しいだろう。

 倒すしかないのか。

 でもどうやって?

 一匹でも苦労したんだぞ。三匹なんてリスクが高すぎる。


「逃げきれる可能性は低いし、倒せる可能性も低い、か」


 岩陰からテイルウルフを見ながらため息を吐く。異世界に来て良くないことが立て続けに起きている。

 昔読んだことのあるライトノベルの主人公みたいに「不幸だ」と叫びたい。

 叫んだらすぐに飛びかかってくるだろうから、叫ばないけど。


「お困りですか?」

「現在進行形で死に向かっているからな。かなり困っている」

「あなた、死ぬのですか?」

「死にたくないけど、あの魔物を倒すための力が俺にはないって……」


 俺は誰と話をしている?

 振り向くとそこには黒衣を纏った少女が俺と同じように岩陰から顔をのぞかせていた。

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