表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(三日目)
34/90

簡略化

 俺は今、必死に魔法を練習している。


 食事を食べた後、昨日と同じように模擬戦場で火柱を作って魔法の練習。だけど結果は芳しくない。

 制御がなかなか難しい。一瞬でも気を抜くと魔力量に過不足が生じて魔法が失敗する。

 昨日できていた大きさの調整や方向の変更もたまに失敗する。

 魔法をマスターする道のりはまだ長そうだ。


「セタさん、火以外の魔法にしてくれませんか?」

「どうした?」

「模擬戦場を蒸し風呂にするつもりですか?」


 暑いらしく、額に浮かんだ汗を右手の甲で拭う。

 俺は目の前に燃え上がる火柱を消した。

 集中していたから気づかなかったな。

 指摘されて初めて暑いと感じる。

 涼しくするか。

 地面に描いている「火」を消し「水」を描く。

 ついでにミストにしてみようか。「水」の後ろに「霧」のを追加。

 範囲は……模擬戦場全体を意識してみるか。

 イメージして魔力を紋様に込める。紋様付近から霧が発生。魔力量が足りないらしく、発生範囲が狭い。

 魔力量を徐々に増やして霧の範囲を広げる。


「へぇ」


 俺の背後でムツミの感心した声が聞こえた。こういう魔法は思いつかなかったのだろう。

 俺は霧が模擬戦場を覆うまで紋様に魔力を流し続ける。

 しばらくして全体が白い靄で覆われた。

 魔力を込めるのを止め、周囲を見渡す。

 本当に真っ白だ。ムツミの姿形は見えるが表情までは見えない。

 服も濡れてしまったな。だけど涼しくなった。


「やり過ぎではないですか?」


 ムツミが顔が見えるぐらいまで近づいてきて文句を言ってきた。

 髪の毛の先から水滴を垂らしている。

 何だか色っぽいな。


「ごめん」

「涼しくなったので、構いませんけど」


 彼女はしゃがみこむと地面に「風」と描き、魔法を発動させる。強風が吹き、霧が晴れた。


「これが模擬戦場を覆わせたのですか?」


 俺の描いた「霧」を指差す。


「キリって読むんだ」

「空気中で水蒸気が水滴になる、あの「キリ」ですか」

「そう」


 俺がうなずくとムツミは「霧」の漢字を地面に何回か書く。書き順は適当で書いた漢字もバランスも悪いが、覚えようとしているのだろう。


「ムツミって左利きだったんだ」


 動かしている手を見て俺は言った。

 腕時計をしていれば、大抵は着けている腕の逆が利き腕になる。だけどナナミもムツミも時計を着けていないし、分からなかった。


 ……あれ? 食事のときに持っていた箸は右だったような……


「私は両利きですよ」

「両利き?」

「食事は右手で食べますし、文字を書くときは左ですね」

「器用だな」

「そうですか?」


 首をかしげられた。彼女にとって両手を使うことは普通なことらしい。

 食事と文字を両手を使い分ける人なんて滅多にいないと思うんだけど。

 ナナミは……右利きだろう。食事は右で食べていたし、剣を持っていた格好も俺と同じ。彼女が自身のステータス画面などを確認していたときも右手で操作していた。

 文字を書くのも右だろう。たぶん。


「ところでセタさん、あなたの魔法の使い方なのですけど、魔力量の調整が苦手ですか?」

「そうだな。それがどうした?」

「昨日は文字数を減らしてイメージで魔法を使った方がいいと言いましたが、セタさんの場合は描いたほうがいいのかもしれません」

「どうして?」


 昨日とは逆のことを言っている。

 確か文字数が増えて実践的じゃなくなるんだよな。


「長い時間をかけて練習するのならいいのですけど、直近の目標はナナミに勝つことです。でしたら知っている漢字を速記できるほうがいい気がします」

「画数が多い漢字だと、時間がかかるだろ?」

「ですが、セタさんの場合は描いたほうが現実的かと」

「現実的……」

「制御をしなくて済むので、セタさんだと存分に魔法を使えると思います」


 魔法の制御を漢字に任せるということか。確かにそのほうが楽だ。

 問題は速記ができるかどうか。

 ふと、大学の語学の講義を思い出す。

 腕を組んで考える。

 視線の先にはムツミの描いた「風」の漢字。


 確か……


 しゃがんで、地面に漢字を描く。


 风渦範囲十糎


 とりあえず一文字だけ変えてみる。


「何ですか、その漢字は?」

「まあ、見ててくれ。失敗しても何も起きないから」

「それが一番怖いのですけど……分かりました」


 警戒しているらしく、ムツミは俺と距離を取った。


「さて」


 紋様に魔力を込める。確かに魔法のイメージをせず、範囲も設定しているからミズカネに魔力を流し込みやすいな。

 すぐに魔法が発動し、紋様を中心とした風が渦巻き始めた。

 ただ少し威力が弱いかな。そよ風レベルの風だ。

 だけど、ほぼ考えていた通りの結果だ。


「どうして風の魔法が発動したのですか?」


 離れてみていたムツミが近寄ってきて尋ねてきた。

 見たことのない漢字だったのだろう。


「これは俺の住んでいた世界の国で使われている漢字――簡体字で表現した「風」の漢字なんだ」

「そうなのですか。セイカの文献で見たことがある気がします」


 セイカ……北東の大国か。魔法発祥の地。

 国家を上げて漢字の研究をしているのならば、簡体字も見つけるかもしれないな。


「速記もいいけど、簡体字を使えば画数が減ると思って」

「そうですね。ですが威力は普通に描いた時と比べて弱かったと思います。ナナミ相手には通用しませんよ」


 問題はそこだな。威力がないとナナミには無意味かもしれない。

 さっきの「風」の魔法もそよ風だったし。

 怪我をさせない、という意味では問題ないかもしれないが。


「目眩しできるような小技を覚えておくか。メインは剣になりそうだし」

「小技ですか。でしたら、昨日の雷三つの漢字はどうですか?」

「あれは諸刃の剣だろ」


 俺も鼓膜を破りかねない。勝つというよりは引き分け狙いの攻撃だ。

 しかも画数が多いし、速記なんてできないから描いている間にやられるだろう。


「とにかく、小技で速記できそうな魔法を考えるか」

「私も手伝います。それが終わったら魔法を含めた打ち込みをしましょう」

「了解」


 ナナミと戦う方法が決まった。あとは必要な魔法を覚えて剣技を鍛える。

 あと三日。できることだけはしておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ