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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(三日目)
32/90

幕間

別人、別視線の話です。

 この山に転送されて三日が経った。

 眩しいくらいに輝く太陽に熱され、汗を滴らせながら俺は彷徨っていた。

 一息つくために岩陰に腰掛け、革袋に入った水を飲み、これまでのことを振り返る。


 俺と同様に転送された奴らはあと二人いた。しかし二人とも魔物の群れに襲われて死んだ。

 魔物の群れは町でもよく見かける種類の亜種だということにすぐに気づいた。だから油断があったのだろう。

 近づいて手を伸ばした奴が腕を食いちぎられ、痛みに悶えている間に首に噛み付かれ、息絶えた。

 残った俺ともう一人はその光景を見て慌てて逃げ出したが、隣にいた奴は長い尻尾に捕らえられ、泡を吹きながら窒息死した。

 俺は二人を犠牲にして魔物の手から逃れることができたのだ。


 だけど光景や二人の悲鳴が脳裏から離れない。

 俺もあんな風に死ぬのだろうか。

 人の死には慣れているが、あんな殺され方を見るのは初めてで、不快だ。


 俺は忘れようと頭を強く振り、そして周囲を見渡す。

 大小の石や岩が転がる大地。所々に生えている草木。


 見飽きた光景だ。人間が住めるような土地ではない。

 早くこの山から脱出しなければならない。

 転送された時に渡された携帯食料もそこを尽きかけている。


 正面の大きな岩の陰から不意に何かが出てきた。俺は立ち上がり携えていた短剣を構える。

 俺は早まる鼓動を感じながら、相手をじっと見る。


 現れたのは二足歩行の魔物ーー違う、あれは人間だ。深くフードを被って男女の判別はできないが立っている格好、片手に剣を構えているから人間だ。

 三日ぶりの人間に俺は安堵する。

 よかった。俺と死んだ奴ら以外にも転送された人間がいたんだ。


「よ、よお。お、お前も、て、転送さてた、んだろ?」


 久しぶりに声を出したせいか、上手く言葉を紡げない。

 俺の言葉に訝しんだのか、フードを被った人間は俺に向けて剣先を向ける。


「ま、待てって! お、俺は魔物じゃない!」


 唾を飲み込み、鼓動を抑えつつ俺は叫んだ。構えていた短剣も鞘に入れ、両手を上げる。

 俺の意思が伝わったらしく、相手は剣先を下げた。

 俺は息を吐き、相手に近づく。

 殺気が消えていないから、警戒心は解かない。


「な、なあ、お前も転送されたんだろ? 一緒に行動しないか?」

「……コウセイ・マチハラ」


 少女の声が俺の名前を呟いた。どうして俺の名前を知っているのだろう。転送される前に会ったことがあるのだろうか。

 だけど話は早い。顔は見えないが、知り合いだったら行動も取りやすい。


「俺のことを知っているのか? だったらフードを外して……」

「北西の領地・エツの町で魔剣を使用した十数件の強盗及び殺人でフヨウに転送される」


 俺は再度短剣を構えた。

 なぜその事実をこいつは知っている。


「貴様は国の役人か?」

「魔剣・ハルペー。湾曲した刀身。内側にある刃で対象物を切り落とす」

「おい、聞いているのか」

「コウセイの所持する魔剣に設定されている魔法は移動速度向上系。敵の背後に回り、首を搔き切ることが得意」


 俺の問いかけには答えず、淡々と俺が構えた魔剣「ハルペー」の説明をする。

 詳しすぎる。俺の問いかけにも答えなかったことだし、国の役人だろう。


 だったら、こいつは敵だ。

 運悪く役人に捕まりこの山に転送されたが、下山すれば自由だと聞いている。

 捕まるわけにはいかない。

 俺は魔法を発動させるため、ハルペーに魔力を込める。


「他にも動体視力の向上などの魔法も設定されて――」

「ぐだぐだ説明してるんじゃねぇっ!」


 魔法を発動し、フードを被った少女の背後に移動する。反応できていない。俺はいつも通り、敵の首にハルペーを引っ掛ける。

 反応できていないはずの少女が振り向いた。


「遅い」


 彼女の言葉と同時に俺の両腕が軽くなった。腕を見る。

 腕が、ない。


「う、うわぁぁぁっ!」


 俺は驚いて叫ぶ。直後に腕の断面から鮮血が噴水のように溢れだし、同時に激痛。

 あまりにもの激痛で立っていることができなくなり、その場に膝をつく。


「魔法で高速移動しても私には敵いません。私に勝てるわけがありません」


 彼女を見上げる。彼女は片手にハルペーを握った俺の腕を持っていた。

 それを宙に数回投げて遊びハルペーを取ると、残った腕を俺の目の前に放り投げる。俺は反射的にまだ胴に繋がっている腕を伸ばすが届くはずもなく、斬られた腕は地面を転がる。


「ど、うして、腕を斬っ、た?」


 激痛をこらえ、吐き出すように聞く。正当防衛だとしても腕を斬るのは過剰な対応だ。

 役人だとしても異常な行動だ。


「この山がどんな場所か知っていますか?」

「ふ、フヨウのこと、か? アキツの、中心にある山、だろ?」


 答えると少女は首を横に振った。

 そして俺に向けて剣を振り上げる。

 紅い刀身が太陽の光に煌めく。


「そうです。そしてここは罪人の流刑地」

「る、流刑地?」

「そして私は処刑人。だからあなたを殺す」

「ま、待て、待ってくれ」

「待たない」


 彼女の言葉を聞いた瞬間、剣が空気を斬る音がして世界が反転した。

 首を、斬られた。

 痛みは無かったが地面に頭が落ち、頭蓋骨が凹むのを感じた。

 そして地面を転がり、彼女のフードの中を覗く状態で止まった。


 視線が合う。


 紅い、感情のない目。


(ああ、こいつは……)


 その紅い目、紅い刀身を見て俺はある噂を思い出した。


 こいつは南西の領主の町を一夜で滅ぼした殺――

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