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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(二日目)
25/90

午後の終わり~晩御飯まで

「今日はこれで終わりですね」

「え、もう終わりなのか?」

「はい。晩御飯の準備をしないと」


 午後の練習はあっという間だったな。

 もう晩御飯の時間か。

 腕や背中に疲労があり、重い。


「鍛えが足りないです」


 体を伸ばしているとムツミに言われた。


 筋トレはムツミにお願いして、回数を減らしてもらった。

 だけど俺の体には過剰な筋トレだったようだ。

 まあ腕立て伏せをしていた時なんて、なぜか俺の背中に彼女が座っていたし。

 回数を減らしてもらった意味がない気がする。


 一方で魔法の練習は問題なかった。

 属性漢字「火」のみで柱をイメージした魔法ができるようになった。火柱の大きさも調整できるようになったし、方向も変えることができた。

 一種の火炎放射器だな。

 たまに魔力量を間違えることがあるから、もう少し調整が上手くできるようになれば渦を巻くようなものに変えてみよう。


「セタさんの魔力は無限にあるのですか?」


 途中から自身の魔法の練習を中断して、俺の魔法練習を見ていたムツミが尋ねてくる。


「初期スキルで「魔力量UP(特大)」があるから、まだ魔力量に余裕があるな」


 自分のステータス画面を見ながら俺は答える。

 まだ余裕があるな。午後に結構魔力を使ったと思っていたけど、まだ総魔力量の三分の二は残っているな。

 画面を見ていると、ムツミが覗いてきた。


「……何ですか、その総魔力量は?」

「おかしいか?」

「おかしいも何も……その魔力量、一般人の平均よりも十倍以上の量ですよ」


 そうなんだ。

 さすが魔力量UP(特大)。


「漢字を知っていて魔力量が多いとなると……魔法を使う仕事に向いているかもしれませんね」

「魔法を使う仕事、ね」

「興味ありませんか?」

「そうだなぁ……」


 興味がない、と言えば嘘になる。

 だけどこの世界についての知識を知ろうとしているところだ。

 まだ二日目だ。

 仕事については考えたくないな。

 研究所を出たなら、世界を見て回りたい。


「考えておく。またこの世界について知らないし」

「……そうですね。ここにいる間に沢山のことを知ってください」


 ステータス画面から視線を外した彼女は模擬戦場の出口へと向かう。

 俺も後を追う。


「晩御飯の準備か?」

「そうです。ですがセタさんは部屋の確認をしてください」


 メールの受信音が頭で響く。確認すると、ムツミから研究所の見取り図の添付、本文に鍵の解錠手順が書かれたメールが届いていた。

 添付の見取り図には赤い丸印で囲まれている部屋がある。

 ここが割り当てられた部屋か。


「晩御飯は私が作ります。セタさんは部屋の確認。あとナナミが部屋にいるはずなので、食堂に一緒に来てください」

「了解」


 魔力量の調整がまだ不安定だから、料理に関しては事実上の戦力外か。

 練習が順調だし、このままいけば明日にでも料理を手伝うことができるはずだ。


 ムツミと別れ、俺は割り当てられた部屋へと向かう。

 歩いていると見慣れた通路にたどり着き、準備された部屋の前に着く。見取り図をもう一度見る。

 ここはナナミの部屋の隣だな。

 ナナミを食堂に呼ぶにはちょうどいい。

 けど、まずは部屋の確認をするか。

 食事の準備はすぐにはできないだろうし。


 俺はメールに書かれていた手順で解錠し、部屋の中に入る。

 部屋の構造はナナミの部屋と一緒。

 机とベッド、奥に風呂場がある。

 当然ながらナナミの部屋にあった本棚はないけど。


 ホテルの一室に似ている。


 机の横にあるボタンを押す。インターネットらしきものが起動した。

 これなら本を借りれば彼女の部屋じゃなくても勉強できる。


 次にベッドを見る。シーツも新調したような白。

 今晩は気持ちよく寝ることができそうだ。


 ……着替えが欲しいな。


 今着ている服――学生服風の服――も昨日から着ているからな。

 替えの服が欲しい。

 だけどよく考えてみると、男性用の服はあるのだろうか。


「食事の時にムツミに聞いてみるか」


 今すぐ欲しいわけでもないから、あとで聞こう。

 他に確認することもなくなったので、部屋を出る。

 隣のナナミの部屋の前に立ち、ノックする。


 しかし反応がない。


「いないのか?」


 ドアを押してみる。鍵がかかっていない。

 俺はゆっくりと開き、中を覗く。


「ナナミー、いるのかー?」


 声をかけても返事はない。

 本当にいるのか?

 もしかして、ムツミにからかわれたのか?


 確認のため部屋の中へと入る。

 視界に入ってきたベッドの端から人の足が見えた。


「ナナミ?」


 声をかけるけど反応はない。ベッドに近づく。

 ナナミは顔を横に向けて俯せになって寝ていた。格好からして部屋に戻ってきて、そのままベッドに倒れたように見える。

 爆睡だな、これは。

 いつから寝ていたんだろうか。

 にしても、幸せそうな寝顔だ。

 ……っと見惚れている場合じゃないな。


「ナナミ、起きろ」


 肩を揺する。すると彼女はうすら目を開けた。

 これは寝ぼけているな。


「ふにゃ?」

「ふにゃ、じゃない。晩御飯の時間だぞ」

「……晩御飯!?」


 勢いよくナナミが顔を上げた。

 寝惚け眼はどこへやら。目が輝いている。


「おはよう、ナナミ」

「……えっ、あっ、おはよう……」


 声をかけると、ナナミが俺のほうを見て顔を赤らめた。


「どうした?」

「なんでもない。それより、今から晩御飯?」

「そうだよ。今ムツミが作っている」

「とうとう料理を作ることから追い出されたようね」

「うるさい。魔力量の出力調整が上手くいっていなかっただけだから、明日には料理を作れるようになる」

「……ちっ」


 舌打ちかよ。

 料理作りを完全に追い出されている彼女からすれば、俺のことは恨めしいのだろう。


「とりあえず行くぞ。ムツミが待っている」

「はいはい。じゃあ、外で待ってて」


 適当な返事をしてナナミはベッドから起き上がる。

 俺は彼女に言われた通り部屋の外で彼女を待つ。

 数分もしないうちにナナミが出てきた。

 髪を後ろでひとつにまとめ、黒の上着を着ている。

 学生服風の服ではなく、普段着に着替えたようだ。

 ただ長袖のインナーは変わっていない。


「お待たせ」

「着替えたのか?」

「ええ。午後の研究の際にちょっと汚したのよ」

「へぇ」


 薬品でもこぼしたのだろうか。

 詳しく聞くことでもないから簡単に相槌を打ち、食堂へと向かう。


 ~※~※~※~※~※~


 食堂に着くと、すでにムツミがテーブルにご飯を並べて待っていた。

 俺が部屋の確認をし、ナナミと一緒に食堂に着くまで三十分も経っていないんじゃないのか?

 料理を作る手際がいい。


「遅いです」


 ジト目でムツミに睨まれた。


「悪い。ナナミが寝ていたんだ」

「……それなら仕方ないですね」

「なにが仕方ない、よ!」


 ナナミがすぐに突っ込みを入れる。


「午後の研究が大変だったから、疲れていたのよ!」

「午後は……ああ。あの研究ですか」

「そうよ」

「何の研究何だ?」


 そう尋ねると、二人は顔を見合わせる。


「セタに教える研究じゃないわ」

「そうですね。部外者ですし」


 それは、そうだけど。

 たまに二人と距離を感じる時があるな。

 出会って二日目。当然かもしれない。

 俺は肩をすくめて聞くのをやめた。


「それで、今日の晩御飯は?」

「単純に肉を焼きました。私も疲れていたので、手抜きです」


 確かに手抜きだな。適当に肉を切り、それを焼いたというのがよく分かる。

 三人でも肉の大きさが違うし。

 もしかしたら俺を含めた三人は料理が得意ではないのかもしれないな。


 ナナミは根本的に作れない。

 ムツミは特に料理にこだわりがなく、食べれるものを作る。

 俺も料理は適当に作る。


「なんとなく、どういう風に料理をすればいいのか分かった」

「それは何よりです。では明日からよろしくお願いします」

「了解」

「……あの、私は?」

「ナナミは食べる専門です」

「えー」


 こうして食事の時間が過ぎていった。

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