気分転換という名の基礎練習
どうしてこうなった。
昨日と同じ場所、同じ光景がデジャヴする。
昨日と違うことは対峙しているのがナナミではなく、ムツミ。あと真剣ではなく木でできた剣を互いに構えていることか。
木剣が重い。真剣と同等の重さがあるって言っていたっけ。
「さあ、セタさん。始めましょう」
「えっと、俺は剣の握り方も知らないんだけど……」
成長する力(刀剣)のスキルが発動していないから、俺は全くの素人状態だ。
スキルの「基礎技術」発動しない理由は何だ? 真剣じゃないからか? 「背水」が発動しないのは、ムツミに殺意がないからだということは分かっている。
「そこは実戦で覚えてください。一応ナナミと渡り合えたんでしょう?」
実戦で覚えるって……
最低でも握り方ぐらいは教えてほしい。
それにナナミと渡り合えたんじゃない。逃げ回っていたんだ。
「では……行きます!」
「ちょっと待てって!」
掛け声とともにムツミは俺に接近してきた。彼女は剣を振り上げ、俺の頭へと振り下ろされる。
俺は前方斜め上で剣を水平にし、彼女の攻撃を受ける。重い衝撃。小柄な体からは信じられない重量だ。
そして彼女の腕力。どんどん押し切られ、頭に剣が触れるすれすれまで近づく。
俺は押し返そうと力を入れる。しかしその直後世界が反転。地面に勢いよく後頭部をぶつけた。
頭への激痛とともに足を払われたことに気付いた。
「痛てててて……」
「弱いですね。昨日暴走したナナミの攻撃を回避していたとは思えません」
剣を首元に突きつけられる。俺は起き上がることもできず、地面に転がったまま両手を頭上に持ち上げ、降参のポーズをとる。
「当たり前だ! あの時は「背水」のスキルが発動していたんだから!」
「「背水」のスキルですか。不便なスキルを持っているのですね」
「ふ、不便?」
「だってそうじゃないですか。「背水」のスキルは「敵に殺意・敵意がある場合に身体能力を上げる」スキル。練習では全く意味を持たないからです」
「まあ、そうだけど」
「それに不意打ちにも対応できないですよ」
そうなんだ。
俺の持っているスキルの欠点を初めて知る。
「対策としてはスキルに頼らず、基礎から学ぶこと。これに尽きます」
剣が俺の首元から離れる。俺は体を起こし、地面にぶつけた後頭部をさする。
瘤になっているな。
「うん。基礎は大切だよな。だから剣の持ち方から教えてくれ」
「自分自身の力で身に着けてやろう、という意地はないのですか?」
「持ち方すら知らないのに意地を張っても仕方がないだろ」
何も知らない状態で頑なになっても意味がない。空回りして物事がうまくいくはずもない。
知らないことは聞く。自己解決は基本動作ができるようになってからだ。
これが一番。
「それがセタさんの考え方ですか」
「まぁね。意地やプライドなんて自信がないと生まれてこないし」
「自信がないのですか?」
「今は自信を持つ以前の問題だ」
「そうですか……」
ムツミは右の頬を人差し指で叩く。
そして彼女は俺に手を差し伸べた。
「持ち方から教えましょうか」
「……最初からそうしてくれ」
「実力の確認したかったんです」
俺は彼女の手を握り、立ち上がる。
「っと」
「では、セタさんが考えるように剣を構えてください」
指示を出され、俺は剣を構える。
「素人丸出しの持ち方ですね。柄はこう……」
剣を持っている手にムツミの手が添えられ、剣の持つ位置を指示される。ムツミは頭一個分ほど背が低いから、自分の目の下で彼女の頭が揺れ動く。柔らかい優しい匂いが鼻腔をくすぐる。一瞬ドキッとしたが、呼吸を整えて集中力して剣を構える。
左右の手は離して柄を持ち、小指と薬指を締める。
手首は反らして体の中心で持つ。
「基本の持ち方はこうですね」
「違和感があるな」
「そこは慣れです。慣れるとこの持ち方が一番楽ですよ」
「ああ」
教えられた持ち方をした状態で俺はムツミから離れ、剣を振る。
剣を振った遠心力でたたらを踏む。
「腕だけで振っては駄目ですよ。体全体で振ってください」
ムツミは剣を上から下に振って手本を見せる。俺よりも剣を振るスピードが早いのに体がぶれない。
洗練された一線。
無駄がない、と言えばいいのだろうか。
「セタさんは剣の練習もですが、基礎筋力も鍛えないといけないですね」
「やっぱりそう思うか?」
「剣を持つので精一杯になっていますよ」
剣先を指される。剣先は小刻みに震えていた。
腕力がないから、こういうことになるんだよな。
腕立て、腹筋とか筋トレをしないといけない。
「セタさん、忙しいですね。勉強に魔法と剣技の練習、基礎筋力も鍛えないと」
「ああ大変だ」
「では、今からは腹筋、腕立て伏せ、素振りを各百回を三セット、その後は魔法の練習です」
……生きて帰れるだろうか。





