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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(二日目)
24/90

気分転換という名の基礎練習

 どうしてこうなった。


 昨日と同じ場所、同じ光景がデジャヴする。

 昨日と違うことは対峙しているのがナナミではなく、ムツミ。あと真剣ではなく木でできた剣を互いに構えていることか。

 木剣が重い。真剣と同等の重さがあるって言っていたっけ。


「さあ、セタさん。始めましょう」

「えっと、俺は剣の握り方も知らないんだけど……」


 成長する力(刀剣)のスキルが発動していないから、俺は全くの素人状態だ。

 スキルの「基礎技術」発動しない理由は何だ? 真剣じゃないからか? 「背水」が発動しないのは、ムツミに殺意がないからだということは分かっている。


「そこは実戦で覚えてください。一応ナナミと渡り合えたんでしょう?」


 実戦で覚えるって……

 最低でも握り方ぐらいは教えてほしい。

 それにナナミと渡り合えたんじゃない。逃げ回っていたんだ。


「では……行きます!」

「ちょっと待てって!」


 掛け声とともにムツミは俺に接近してきた。彼女は剣を振り上げ、俺の頭へと振り下ろされる。

 俺は前方斜め上で剣を水平にし、彼女の攻撃を受ける。重い衝撃。小柄な体からは信じられない重量だ。

 そして彼女の腕力。どんどん押し切られ、頭に剣が触れるすれすれまで近づく。

 俺は押し返そうと力を入れる。しかしその直後世界が反転。地面に勢いよく後頭部をぶつけた。

 頭への激痛とともに足を払われたことに気付いた。


てててて……」

「弱いですね。昨日暴走したナナミの攻撃を回避していたとは思えません」


 剣を首元に突きつけられる。俺は起き上がることもできず、地面に転がったまま両手を頭上に持ち上げ、降参のポーズをとる。


「当たり前だ! あの時は「背水」のスキルが発動していたんだから!」

「「背水」のスキルですか。不便なスキルを持っているのですね」

「ふ、不便?」

「だってそうじゃないですか。「背水」のスキルは「敵に殺意・敵意がある場合に身体能力を上げる」スキル。練習では全く意味を持たないからです」

「まあ、そうだけど」

「それに不意打ちにも対応できないですよ」


 そうなんだ。

 俺の持っているスキルの欠点を初めて知る。


「対策としてはスキルに頼らず、基礎から学ぶこと。これに尽きます」


 剣が俺の首元から離れる。俺は体を起こし、地面にぶつけた後頭部をさする。

 瘤になっているな。


「うん。基礎は大切だよな。だから剣の持ち方から教えてくれ」

「自分自身の力で身に着けてやろう、という意地はないのですか?」

「持ち方すら知らないのに意地を張っても仕方がないだろ」


 何も知らない状態で頑なになっても意味がない。空回りして物事がうまくいくはずもない。

 知らないことは聞く。自己解決は基本動作ができるようになってからだ。

 これが一番。


「それがセタさんの考え方ですか」

「まぁね。意地やプライドなんて自信がないと生まれてこないし」

「自信がないのですか?」

「今は自信を持つ以前の問題だ」

「そうですか……」


 ムツミは右の頬を人差し指で叩く。

 そして彼女は俺に手を差し伸べた。


「持ち方から教えましょうか」

「……最初からそうしてくれ」

「実力の確認したかったんです」


 俺は彼女の手を握り、立ち上がる。


「っと」

「では、セタさんが考えるように剣を構えてください」


 指示を出され、俺は剣を構える。


「素人丸出しの持ち方ですね。柄はこう……」


 剣を持っている手にムツミの手が添えられ、剣の持つ位置を指示される。ムツミは頭一個分ほど背が低いから、自分の目の下で彼女の頭が揺れ動く。柔らかい優しい匂いが鼻腔をくすぐる。一瞬ドキッとしたが、呼吸を整えて集中力して剣を構える。

 左右の手は離して柄を持ち、小指と薬指を締める。

 手首は反らして体の中心で持つ。


「基本の持ち方はこうですね」

「違和感があるな」

「そこは慣れです。慣れるとこの持ち方が一番楽ですよ」

「ああ」


 教えられた持ち方をした状態で俺はムツミから離れ、剣を振る。

 剣を振った遠心力でたたらを踏む。


「腕だけで振っては駄目ですよ。体全体で振ってください」


 ムツミは剣を上から下に振って手本を見せる。俺よりも剣を振るスピードが早いのに体がぶれない。

 洗練された一線。

 無駄がない、と言えばいいのだろうか。


「セタさんは剣の練習もですが、基礎筋力も鍛えないといけないですね」

「やっぱりそう思うか?」

「剣を持つので精一杯になっていますよ」


 剣先を指される。剣先は小刻みに震えていた。

 腕力がないから、こういうことになるんだよな。

 腕立て、腹筋とか筋トレをしないといけない。


「セタさん、忙しいですね。勉強に魔法と剣技の練習、基礎筋力も鍛えないと」

「ああ大変だ」

「では、今からは腹筋、腕立て伏せ、素振りを各百回を三セット、その後は魔法の練習です」


 ……生きて帰れるだろうか。

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