食事と自己紹介
「この野菜炒め、ムツミが作ったでしょ」
出来上がった料理を食堂に持っていき、ナナミが一口食べた感想がこれだった。
一口食べただけで作った人物が分かるなんてすごいな。
「そうです。セタさんが作ったら、大変なことになりそうでしたので」
「セタが何か問題でも起こしたの?」
どうしてそんなに嬉しそうな表情をしているんだよ。
「言っとくけど、ナナミとは違うぞ」
「どういうことよ?」
「俺は魔法火力機の使い方が分からなかっただけだ」
「料理すら作れなかったってことね」
「……肉を切ったのと、白ごはんを茶碗には入れたぞ」
「それは料理にはいら……」
「私からすれば、どっちもどっちですよ」
ムツミが呆れた声で俺とナナミの会話に割り込む。
「ナナミは食べることができる料理を作ることができない。セタさんは魔法仕様の料理器具を使うことができない」
「どちらも期待できないのか?」
「……期待できるのは、セタさんですね」
少し考えたあと、ムツミは答えた。
「魔力の操作ができていないだけなので、魔法の練習をすれば料理は自然とできるようになると思います」
「私は?」
ムツミの答えにナナミが尋ねる。不満があるようだ。
「まず料理の基本を学ぶ努力をしてください」
「しているわよ」
「でしたら、食べる人に毒となるような料理はできません」
「むー」
「頬を膨らましても、料理は上手くなりませんよ」
ちらっと俺の方を見る。これは俺に対しても「努力しろ」と言っているのだろう。
俺も魔法の練習は頑張るし、怠るつもりはない。
そう心に刻みつつ、ご飯を食べる。
うん、旨い。
「さて、皆さん。ここで改めてしたいことがあります」
手を叩いて、ムツミが話題を変える。
「何をするんだ?」
「自己紹介です」
「自己紹介?」
俺とナナミは首をかしげる。
「今さらでしょ」
「今さらですけど、私たちは名前の交換しかしていません」
「確かにそうだな」
ムツミの言う通り、自己紹介は詳しくしていない。
ナナミからは名前と研究所で研究をしていることしか聞いていないし、ムツミからは名前しか聞いていないな。
よく考えたら、俺も名前と別世界から来たことした言っていないな。
「では早速セタさんから」
指名された。
「えー、はい。瀬田直也です。別世界ーー地球と呼ばれる世界から来ました」
「どうして敬語?」
「いや自己紹介だし、改めて丁寧にと思って」
「ふぅん。年齢は?」
年齢? 異世界の暦は分からないけど、とりあえず言っておくか。
「地球基準でもうすぐ二十歳です」
「地球基準?」
ナナミが首をかしげる。
この言い方だと当然伝わらないか。
「えっと、一年は何日あるんだ?」
「十三か月の三九〇日です」
「地球だと十二か月で三六五日かな」
「中途半端ね」
ナナミが言うのももっともだ。
太陽の周りを一周するのを一年として、十二か月で割り算しているから余りが出て中途半端になる。またその余りを積み重ねていくことで、四年に一度の閏年ができる。
仕方のないことだし、生活に問題が出る訳でもないので気にはしていなかったが。
異世界に来て、一年の日数が異なることで苦労するとは思わなかった。
自分の誕生日を計算して伝えるのが難しい。
そして計算してまで伝えるほど重要なことではないと思う。
「あと四日ぐらいで二十歳になるし、そこからはこっちの世界の基準で年齢を数える」
ナナミとムツミはうなずく。
自己紹介を続けるか。
「地球では大学と呼ばれる教育機関で勉強をしていました」
「何の勉強?」
「経済」
「地球の経済ですか?」
「地球の日本という国の経済かな。あ、でも内容はほどんど理解できなかったので、質問は無しの方向で」
「分かったわ。聞いても私たちも分からないし」
とりあえず、こんなところか。
敬語も止めよう。
「自己紹介で一方的に言うのも何だかな……経済以外で質問は?」
ナナミが手を上げた。
「所長には「この世界に生き返らせてくれた」と言っていたけど、どうして死んだの?」
死んだことか。
「交通事故。死んだ瞬間のことは覚えていない」
「死んだあとに神様に会ったって聞いたけど」
「大国主っていう幽冥界の主に出会って……」
大国主に出会い、異世界にやって来た経緯を説明する。
昨日のことだから詳しく説明できたな。
そのことを話すと、言うことがなくなった。
「では、次は私です」
今度はムツミが口を開く。
彼女はいつの間にか食事を終えている。
「私はムツミ、十六歳です。アキツ国南西部の城・ヒゴの領地出身です」
俺は午前中に勉強した世界の地図を頭の中に思い浮かべる。
アキツ国の中心に俺がいるフヨウの山があって、その南西部。
連邦国家ホラズムとの国境線の地域か。
「治癒魔法が得意で、薬品の調合なら任せてください」
俺の傷も治してくれたし、ナナミのフルンティングの支配を抑え込む薬を作ったのは彼女だったな。
医療系のことなら彼女にお願いしたほうがいいかも。
「治癒魔法を使うときは杖を使いますが、一応剣を使うことができます」
「昔から私の相手をしてくれていたから、使えるようになったのよね」
ナナミの言葉にムツミはうなずいた。
「ナナミにはみっちり鍛えられました」
「ナナミより強いのか?」
「フルンティングに支配された場合は勝てます。平常時は敵いません」
そうなのか。けどまあナナミが支配された時は攻撃が単純になるとか言っていたから、勝てるのか。
「そう言えば、この一週間はセタさんを管理することになりました」
俺ってムツミに管理されていることになったのか。
……あれ、これって自己紹介か?
「ただ、管理するだけでは面白くないので、目標を作りました。それは彼が平常時のナナミに勝つことです。ナナミ、負けませんよ」
「ムツミ、自己紹介じゃなくて、宣戦布告になっている」
「負けないわよ、ムツミ」
「ナナミ、ムツミに言うな。戦うのは俺だ」
「では、四日後――セタさんの誕生日をする日にしましょうか」
「そうね」
「おーい」
俺が間に声をかけて、聞こえているはずなのだが、完全に無視されている。
勝負する日程も決められているし。
はぁ。
「セタ? どうして頭を抱えているの?」
「なんでもない」
「そう? それでムツミの自己紹介は終わり?」
「ええ、最後はナナミです」
ムツミがナナミに言う。
するとナナミは立ち上がった。
「私はナナミ、十七歳よ。出身はムツミと同じアキツ国のヒゴ」
「どうして立った?」
「なんとなく」
「そうですか……」
「……こほん。それで私の得意なのは剣を扱うこと。一応槍や弓も使えるわ」
「武人なのか」
「ええ。あと、この研究所ではナギ所長のフォローで魔剣の研究をしているわ」
魔剣の研究。
俺も見てみたいな。
「目をキラキラさせて……見ても面白くないわよ」
ナナミは呆れたように言う。
「難しい専門用語を使うから、理解できないわよ」
「ナナミは?」
「理解できているわ」
「セタさん、嘘ですよ」
ナナミの返答に即座に反応したのはムツミだった。
「ナナミは所長の言われる通りに動いているので、理解できていないです」
「で、できているわよ」
「では魔剣には大きく分けて攻撃特化型、防御特化型、特殊特化型に分けられますが、攻撃特化型の特長は?」
「……破壊力の高い攻撃ができる」
「研究のフォローしている身としては落第レベルの回答ですね」
「う、うるさいわよ」
ナナミは落ち込んだように肩を落とし、椅子に座る。
ナナミってそれほど賢くないのだな。俺が経済を勉強していたと言っても興味がなさそうだったし。
そう言えば昼御飯を作る前にナナミとムツミの会話の中で「ナナミは勉強から逃げていた」とか言っていたっけ。





