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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(二日目)
19/90

昼御飯作り

 調理場のドアが閉じるのを見て、俺はムツミのほうを見る。


「期待する料理はできないぞ」

「大丈夫です。普通に食べることができたら、ナナミは文句を言いません」

「本当か?」

「……この私の目が信じられませんか?」


 彼女は自身の目を指差す。俺はその黒い目をじっと見る。

 分かるわけがない。

 人の目を見て相手の心理を読める能力なんて持っていないからな。

 ただ分かるのは、ムツミは人をからかうのが好きなこと。


「信じられない」

「それは残念です」

「……とにかく、昼御飯を作るか」

「はい。今回はセタさんが自由に作ってみてください。私はセタさんの指示の下行動します」

「そうはいっても……」


 俺は作業台に置かれている肉の塊に目を向ける。

 どこかの部位のブロックの肉だな。綺麗な赤身をしている。

 料理人じゃないし、どこの肉なのか分かるわけがない。


「これって昨日ナナミが倒した魔物の肉?」

「はい」

「丸々使う?」

「それでもいいですが、明日は狩りに行くことになります」


 必要な分だけ使うか。


「野菜はあるのか?」

「あります」


 ムツミは冷蔵庫を開く。その中には色とりどりの野菜があった。

 見慣れない形の野菜がほとんどだけど。


 うーん……分からないことだらけだ。

 当然だけど。


「面倒だ。炒めよう」

「野菜炒めですか」

「手っ取り早いし、無難だ」

「チャレンジしないんですね」

「何も知らないでチャレンジすることは無謀だ」


 最低でもナナミに「美味しくない」と言われないようにしないと。

 だからこそチャレンジする必要はない。


 一先ずムツミに野菜炒めに合う野菜を選んでもらう。

 俺はその間に包丁を探す。包丁は作業台下の収納に置いてあった。


「セタさん、野菜を持ってきました」

「じゃあ、食べやすい大きさに切って」

「了解です」


 並んで肉と野菜を切る。


「そういえばどうして調理場で料理するんだ? 食堂にも料理できる場所があったと思うけど」


 単純作業は退屈なので、ムツミに疑問に思っていたことを質問をする。

 食堂で作れば運ぶ手間も抑えられそうだし。


「食堂では作りませんね。食材を保管できるのは調理場ですし、毎回持っていくのは面倒です」

「じゃあ、なんで食堂に流し台や作業台があるんだ?」

「あとから配置したそうです」

「どうして?」

「研究の合間に食堂で休憩するときに、飲み物を作るのにわざわざ調理場まで行くのが面倒だったからだと思います」

「そういうことか」


 一服するのにわざわざ調理場でお茶を作って食堂に行く……想像してみると、確かにムツミの言う通りだ。


「あと調理場の方が機器が揃っているので、料理がしやすいです」

「……これだけ機器が揃っていると、研究所に専属の料理人でもいたのか?」


 広いし、料理するための機器が十二分に揃っている。揃っている、というよりは揃いすぎているように思える。

 俺の疑問にムツミはうなずいた。


「ここは僻地ですし、研究所なので料理するための人を雇っていたそうです。今は三人――セタさん含めて四人なので必要ないですね」


 人数が少ないから料理人がいないのか。


「昔はどれくらいの研究員がいたんだ?」

「さあ?」

「さあって……」

「私とナナミが研究所に来たときは、所長しかいませんでしたから」


 そう言えばさっきからムツミは「思います」「らしい」とか推測の言葉しか使っていなかったな。


「部屋の数やベッド数を考えると、最大でも二十人くらいいたのではないでしょうか。銭湯があることも大人数がいたことの証明になっていると思います」


 三人で研究をしているのに銭湯がある一方で部屋にシャワーを浴びる場所もあるから、彼女が言う通りかもしれない。

 そうじゃないと研究所は僻地にあるホテルと変わりがない。


「ああ」

「どうした?」


 思い出したように声を上げたので俺は尋ねた。


「部屋が余っているので、今日からそこで寝てください」

「いいのか?」

「ずっと治療室の硬いベッドでもいいのなら、別ですけど」

「部屋を貸してください」


 自分の部屋があると落ち着く。ムツミの提案に異論なんてない。

 それに精神剤を作るためにナナミが治療室に来るだろうし。


 ……っと。会話をしている間に肉を切り終えた。ムツミはすでに野菜を切り終えている。


「遅いですね」

「料理慣れしてないんだよ」


 切り終えた肉と野菜を皿に載せ、ガスレンジへと持っていく。


「調味料は?」

「セタさんの右下にあります」


 言われた場所を見る。透明なボトルが並んでいた。

 蓋を開けて中を確認する。醤油やみりんみたいなもの、酒があった。

 他に俺の知らない調味料もある。

 今回は分からない調味料は使わない。


「フライパンはガスレンジに置いてあるのを使っていいのか?」

「ガスレンジ? 魔法火力機のことですか?」

「魔法火力機?」


 聞き慣れない単語を言われて俺はガスレンジだと思っていたものを見る。

 よく見るとガス栓を開けるつまみだと思っていた箇所は半球状の突起物だった。

 つまんで回すような構造をしていない。


「そこの半球に手を当てて、魔力を込めると火がつきます。火力の加減は魔力の込めた量によって変化します」


 ムツミが実際に火をつけたり消したりしながら説明をしてくれた。


「止める時は?」

「半球の左にある四角い突起物に魔力を込めてください」

「なるほど」


 俺も実践してみる。

 自分のステータスを見る時みたいに魔力を込めたが、反応がない。


「強めに魔力を込めて……」

「あ、ダメです。そんなに魔力を込めては……」


 ムツミが止めるのは一歩遅かった。

 魔法火力機に火柱が上がる。

 おお、置いてあったフライパンが炭になった。

 驚いている俺のそばで、ムツミが慌てて四角の突起物に魔力を込め、火を消した。

 そして脇腹を殴られる。


 痛い。


「どうしてそんな馬鹿なことをするのですか」

「わ、悪い」

「魔力の使い方は教わたことはないのですか?」

「教えてもらったことないな」


 魔力なんて、この世界で初めて身につけた力だ。地球にいるときに教えてもらえるはずがない。

 魔剣の暴走を止めたときや所長室でステータスを表示させたときは勘で魔力を込めたから、どうやったら上手くできるのか理解できていない。

 魔力を使おうとすると体の中で何が蠢くから、これが魔力だということは分かるけど。


 俺の返答を聞いたムツミはため息を吐いた。


「……午後は剣技を学ぶよりまず、魔法を使うための魔力操作練習です」

「了解」

「あと今のセタさんに魔力火力機を触らせるのは危険を伴うので、野菜炒めは私が作ります。セタさんはとりあえず白ご飯の準備をしてください」

「ナナミを納得させるのは?」

「それ以前の問題です。今のセタさんはナナミとは別の危険な臭いがします」

「……はい」


 バッサリと切り捨てられた。

 当然と言えば当然か。

 ムツミに従おう。

 フライパンを一つ使えなくしてしまったし、居候の身でこれ以上迷惑をかけられない。

 よく考えたら銭湯も使えないようにしたから、迷惑をかけすぎると立場がさらに悪くなる。

 俺はムツミの指示の下、調理場を動き回った。

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