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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(二日目)
18/90

昼、食事前

「ふう、まだ慣れないなぁ」


 ムツミに渡された本から目を離し、大きく伸びをする。ひらがなとカタカナの二種類の文字だけで書かれているから、読むのに時間がかかる。

 ゆっくり読んで、どんな国があるのか、魔法についてはなんとなく理解。今読んでいる本は大まかな概要を書いているようだから、詳しく書いてある本でも借りてしっかりと理解しよう。

 気になったことは一応メモを取っている。


(でも、新鮮だな)


 個人的に魔剣については興味がある。

 トツカノツルギに魔力を込め、所有者ごとに異なる成長をする魔法の剣。だから俺のオハバリやナナミのフルンティングみたいに違う魔剣があるのだろう。

 読んだ本には有名な魔剣が書いてあったから魔剣は唯一無二の存在ではなく、同じ魔剣を持っている人がいるのだろう。

 フルンティングも書いてあったし。


――メッセージを受信しました。内容を確認してください。


 頭の中で音声が流れる。俺は机の上にあった時計を見る。

 もうすぐ昼か。

 ふと気づいた。

 時間の概念は地球と同じだな。一から十二の数字の盤面に形の異なる針。時間は十二進法と六十進法を使っているのかな。

 これだと暦の考え方も同じかもしれない。


 俺は時間の概念を考えつつメニュー画面を展開し、メッセージを開く。

 ムツミからだ。


「えっと「昼なので調理場に来て下さい」か。調理場ってどこだよ」


 俺が知っているのは食堂だ。調理場は知らない。

 そもそも食堂に流し台やコンロなど料理をする場所があったのに、別に調理場があるんだな。

 変な構造をしている研究所だと思う。

 ひとまず、ムツミには「どこだよ、それは」と返信。

 返答が来るまで本を読もうと思ったけど、これ以上読める気がしないな。


 読みにくくて、頭が痛い。


 時間を潰すためにメニュー画面を展開。自己能力画面に遷移。

 レーダーチャートに大きな変わりはない。

 渾名は「世界を知り始めた人間」に変化している。

 この渾名は無視しよう。何がしたいのか分からない。


「あ、そういえば」


 大国主から添付つきメッセージがあったんだ。

 俺はそのメッセージを開く。

 本文は「すまぬ」のみ。変わるわけがないので、本文は無視して俺は添付を開く。


――地図機能が拡張されました。これにより現在地の確認を行うことができるようになります。


「……マジか」


 最初に添付を展開すれば良かった。

 でもどうして添付を開かなかったんだっけ?

 ……ああ、開こうとした時に魔物に遭遇したアラートが頭の中で響いたんだった。


 地図を開く。この世界の地理地図だ。

 これで勉強していた国の場所がイメージしやすいな。

 俺のいるフヨウの山はアキツにあるから……本当に東の端だな。


 使っていて問題が発覚。

 俺の居場所は逆三角形のアイコンでフヨウを示しているから分かるけど、拡大ができないから詳細な場所が分からない。

 どうやら俺は世界地図のみを大国主からもらったようだ。

 現在地が分かってもこれでは正直なところ、不便だ。


――ムツミから返信が届きました。内容を確認してください。


 返信が届いた。俺はメッセージを開く。


「自分で探してください。十分以内にたどり着かなかったら、セタさんを三枚におろします」


 理不尽な内容。


「ふざけるなっ」


 思わず叫んでしまった。行ったことのない場所を制限時間内にどう探せばいいんだよ。

 研究所内を歩き回るしかないのか。


「どうしたの? 叫んでいたけど」


 背後から声をかけられた。振り向くとそこにナナミがいた。

 いつ部屋に入ってきたんだ?

 まあここはナナミの部屋だし、入ってくるのは当然か。


「ナナミ、助けてくれっ」

「一体どうしたのよ」

「調理場の場所を教えてくれ。このままだとムツミに三枚におろされる!」

「……私がおろそうか?」

「おっと!?」

――敵意、殺意を察知。「背水」を発動します。


 想定外の反応。まさかムツミと同じ事を言うとは。

 けど、この反応……

 目付きもおかしい。

 狂気に支配されているようにみえる。

 それに「背水」の能力が発動しているからなぁ。

 理由は一つしかない。


「ナナミ、精神剤飲んだ?」

「精神剤……飲んでないわね」

「飲んでくれ」

「飲んだら、おろしていい?」

「おろされるのは困る……いや、飲んだらおろしていいから」


 フルンティングを抜き、今すぐにでも斬りかかろうとする勢い。慌てて言い直す。

 ナナミは机の横にあった棚の引き出しから瓶を取り出し、中身を一気に飲み干した。


「これでいい?」

「次に深呼吸」

「すぅ……はぁ……」

「落ち着いたか?」

「……えっと、ごめんなさい」


 すごい即効性だな。そんなに早く効くものなのか。

 抜き身のフルンティングを鞘に収めながら、ナナミは俺に謝った。


「あれだろ、今日は飲んでなかったんだろ」

「ごめん」

「……まあいいや。それより調理場の場所を教えてくれ」

「昼御飯を作るの?」

「ああ。ムツミに呼ばれたんだけど、場所が分からない」


 ついでにムツミのメッセージも見せる。それをみたナナミはため息を吐いた。


「そういうことね。じゃあ行きましょう」

「連れていってくれるのか?」

「説明するより早いわ」

「そうか。じゃあお願い」


 俺とナナミは部屋を出る。


「勉強は捗ってる?」

「国については何となく分かったかな。昨日も少しナナミから教えてもらっていたし」

「私が昨日教えた五つの国を覚えていたら問題ないわ。下山して五つの国以外に行くのなら別かもしれないけど」

「当分なさそうだから、覚えてなくていいや」


 とりあえず一週間は研究所にいることになりそうだし、その後はその時に考えよう。

 談笑しながら研究所内を歩く。


「はい、ここが調理場よ」


 五分もしないうちにたどり着いた。場所は食堂の真横の部屋。

 よく考えれば食堂の近くに調理場があるのは当然か。

 ドアを開き、中へと入る。


 中は居酒屋の厨房のようだった。流し台とガスレンジが並ぶように壁に沿って配置され、中央には作業台が置かれている。

 作業台を中心にして、ガスレンジの反対側に大型の冷蔵庫もある。

 それ以外の機器は知らない。

 ムツミはと言うと、作業台に置いてある肉の塊を見ながら腕を組んでいる。


「ムツミ、時間内に来たぞ」


 声をかけるとムツミは振り向いた。そして長く息を吐いた。


「セタさん。私はあなたが時間内に来たので、非常に残念です」

「三枚におろされるのは、御免だからな」

「食料確保のために、ここは死んでください」

「断る。そもそも人間の肉は不味いらしいぞ」

「本当に仲が良いわね、二人とも」


 俺たちのやり取りを見てナナミが言う。


「気が合うんだよ」

「そうですね。ナナミよりも古くから知っている友達ような感じです」

「同郷のあなたに言われたら悲しいわ」

「同郷なんだ」


 研究所にいるから研究の対象が同じで、共同で研究することになったから知り合ったと勝手に考えていた。

 昨日のムツミのナナミに対して茶化しているのを見ると、かなり親しいとは思っていたけど。


「そうよ。ムツミは私の昔からの友達」

「剣の稽古や勉強は一緒にしてきました」

「へぇ。それで今も一緒に研究をしているんだ」


 長い付き合いの友達っていいよな。互いのことをよく知っていて、安心できるというか。

 俺もそんな友達はいたけど、もう会えない。

 俺の場合は転生したんだから割り切らないと。


 ナナミとムツミの二人は顔を見合わせたあと、うなずいた。


「そうね。いつの間にか一緒にいるというか……」

「そうですね。まあ、今も変わらずナナミの世話をしているのは私ですが」

「何をその言い方」

「昔はあの手この手を使って勉強から逃げていたのを連れ戻すのが私の役目でしたし、今はナナミの日常の世話をしているではないですか」

「もう」

「はは……」


 頬を膨らますナナミを見て俺は笑う。

 仲かが良いことはいいことだ。


「おしゃべりはここまでにして、セタさん。昼御飯を作りましょう」

「そうだな」

「私も手伝おうか?」


 手を上げてナナミが言う。


「いえ、結構です。ナナミは食堂にいてください」

「……あくまでも料理をさせないつもりね」


 一瞬殺気立ったナナミだけど、俺の方を見て殺気を霧散させた。


「まあいいわ。昼御飯はセタのお手並み拝見といくわ」

「期待はす――」

「いいでしょう。ナナミを唸らせる料理を持っていきます」

「ちょ」


 ちょっと待て。なんでムツミはハードルを上げているんだ。

 そしてムツミは俺に向かって親指を立てているし。

 ナナミはというと、俺を馬鹿にしたような笑みを浮かべている。

 何だかムカつくな。

 とりあえず、ムツミの言う通りならナナミよりもちゃんとした料理を作ることができるはずだ。


「じゃあ、セタ。頑張って作ってね」


 ナナミは手を振って調理場から出ていった。

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