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異世界で俺は諦めない  作者: カミサキハル
異世界導入編(初日)
12/90

無感情・無表情、精神剤

 俺の助命に、ムツミがため息を吐いた。


「ナナミに変わってください」

「ナナミ、ムツミが変わってだって」


 通話画面をナナミに戻す。何やら会話をしているようだったが、全身が痛くて聞き取る気にもなれない。

 大の字で寝転んだまま、なるべく体を動かさない。動かさなかったお陰かしばらくして痛みが引いたので、さっきのナナミとの勝負?に思考を巡らす。


 「背水」のスキルがあったときは回避は上手くできていた。一つも攻撃を受けなかった。

 さすが「背水」のスキル。敵と対等できる力を引き出すスキルだ。

 一方で「背水」が解除されたあとナナミに圧倒された。当然と言えば当然だな。能力皆無で戦ったから、やられるのは当たり前。

 基礎ステータスを上げるようトレーニングをしないとな。

 スキルありきの行動は控えよう。


 あとは刀剣の技術も鍛えたいな。素振りでもすればいいのだろうか?

 でもやっぱり刀剣の技術は対人で練習だよなぁ。

 殺傷設定の機械と勝負をしても死んでしまうのが目に見えているし、誰かの刀剣の技術を見るのが一番だろう。


「あの、セタ、さん」

「な、なに?」


 思いふけっているとナナミに声をかけられた。警戒して身構えたのは無理もない反応だと思いたい。


 さっき戦った時の雰囲気とは違うな。

 表情が戻っている。


「怪我、大丈夫ですか?」

「全身が痛い」

「すみません」


 頭を下げられた。やけにしおらしいな。

 それが逆に俺の警戒心を上げているけど。

 警戒している俺に弁明するようにナナミは口を開いた。


「……私、魔剣「フルンティング」を使うとたまに暴走してしまうのです」


 赤い刀はフルンティングというのか。

 確かイギリスの叙事詩に出てくる剣だったと思う。

 血をすすって強くなる剣だったか。


 それよりもナナミが持っていた刀は魔剣だったんだな。

 何だか雰囲気が違う武器だとは感じていたけど、特別な武器だったのか。

 ……いや、これは先入観か。この世界では魔剣が特別な武器だとは限らない。


「暴走って……大丈夫なのか、それ?」

「いつもは薬を使って抑えているのですけど、どうやら効き目が切れていたようで……すみません」


 歯切れが悪い口調。本気で反省しているようだ。

 言い方も丁寧になっているし。


 はぁ。


「もういいよ」

「本当にすみませんでした。セタさん」

「呼び捨てでいいよ」

「……分かったわ、セタ」


 よし。

 痛みで悲鳴を上げている体を無理やり起こし、俺は立ち上がる。

 服に土や埃が付いていてドロドロだな。風呂に入ったのが無駄になった。


「いててて……」

「……本当に大丈夫?」

「大丈夫じゃないとしても、どうしようもないだろ」

「ちょっと待って」


 フルンティングを取り出し、柄を俺に向けた。


「握ってくれる?」

「……何をする気だ? 怖いんだけど」

「応急処置だけど麻酔で痛みを和らげるわ。痛みが治まっている間に治療室に行きましょ」

「わかった」


 疑っていても仕方がないか。今のナナミが嘘を言う理由もない。

 そもそも彼女が嘘を言った覚えはないな。

 俺は柄を掴む。


「診療開始」


 ナナミの声とともに柄に紋様が描かれていく。「診療」や「確認」とか漢字が描かれているな。

 その紋様が俺の手に触れたとき、手先から体へと何かが流れ込んできた。

 ナナミの魔力だろうか。

 それは体全体を駆け巡り、体から抜けていく。


「診療終了。筋肉に異常なし。脳などの器官に異常なし。骨の複数箇所にひび有り……セタ、丈夫ね」

「うるせぇ」


 骨折していないのなんて、奇跡に近いだろ。


「これだと治療室ですぐに治せるわ――はい、麻酔も終わったわ」


 体を動かしてみる。痛くない。


「すげぇ」

「治った訳じゃないからね」

「分かってる」


 治療室に行こう。

 治せるのならすぐに治したい。

 俺とナナミは模擬戦場を後にする。


「薬って言っていたけど、どんな薬なんだ?」


 治療室に向かう途中、俺は尋ねた。

 薬が切れて暴走したって言っていたから、ナナミの持つ魔剣に関する薬なのだろう。


「精神剤かな。薬というよりは麻薬に近いけど」

「精神剤?」

「そう。簡単に言うと精神を支配されないようにする麻薬。私の所有する魔剣「フルンティング」は残虐性の強い魔剣で、その影響を受けやすいのよ」

「影響を受けるとどうなるんだ?」

「殺し合いを好むようになるわ」


 もしかして模擬戦をしていた時にはすでに魔剣の影響を受けていたのか?


「さっきの模擬戦場に入ったときにはだいぶ影響を受けていたわ」

「やっぱり」

「いつの間にかフルンティングに支配されるから、気づきにくいのよ」

「フルンティングを持たなければいいじゃないか」


 そう言うとナナミはうすら笑みを浮かべた。

 自嘲しているような笑み。


「無理よ。私はフルンティングと一心同体だから、持たなくても一緒。薬頼りよ」

「……そうか」


 深くは聞かない方がいい。自嘲していることを、ずかすがと聞くほど無神経じゃない。

 それよりも俺が気をつけないといけないことは、その支配されている状態を感じ取ることか。

 研究所にいる間は意識しないといけないからな。

 でないと俺が死ぬ。


「気づくにはどうしたらいいんだ?」

「そうね……精神剤の周期と感情かしら。精神剤は一日に三、四回服用かな」

「感情というのは?」

「フルンティングに支配されているときは、抑揚のない無感情・無表情になっているわ」


 さっき壁まで飛ばされたときか。あれが支配された状態だったのか。

 ……支配されていることに気づいたときには間に合わないな。彼女のその状態の時に声をかけたら、勝負を強制させられて次はきっと死んでいる。


(平常時と比べるとしたらどうしたらいいんだろう?)


 考えてふと思う。

 副作用とかあれば、そこから事前に判断できないかな。


「精神剤が切れたとき、何か症状はでないのか?」

「苛々しているかな。感情が不安定になる」

「禁断症状じゃないか」


 と言うことは、銭湯にいた時ぐらいから精神剤が切れかかっていたんじゃないか?

 あの時も苛々していたようだからな。

 俺に対してもかなり暴言を言ってた気がするし。

 これが正しいなら、早めに察知できる。


「禁断症状……そうか。だったら銭湯にいた時には精神剤の効果が薄まっていたのね」

「気づいていなかったのかよ」

「効果の強い精神剤を使い始めたのは最近なのよ」

「それまでは?」

「支配されたら、ムツミに止めてもらっていたわ」


 ああ、返り打ちにしたって、ムツミが言っていたやつか。

 フルンティングに支配されても戦えば正気に戻るのか。

 ……戦うだけじゃなくて何か条件がありそうだけど。


 まあ俺には到底真似できそうにない。

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