閑話休題
――さて。
ここまで少し重たい話が続いたので、一旦ここで閑話休題としよう。
……と、作者なら言うところだろう。
俺だってそう思う。
思うんだけど。
「中央委員って忙しいんか?」
昼休み。
突然、毛利元基が俺の机の前にやって来た。
「……まぁ、それなりにって感じかな。」
「へぇ。」
毛利は腕を組み、意味ありげに頷く。
「ご苦労さんなこと。」
「……なんだ、その言い方。」
「いや?」
毛利はニヤッと笑った。
「中央委員になったのって、誰かさんに勝ちたかったからなんだろ?」
「…………。」
こいつ。
どこまで知ってるんだ。
「なんで知ってんの?」
「見てりゃ分かるだろ。」
「何を?」
「お前、小早川さんのことばっか見てるじゃん。」
「……。」
反論できない。
「しかも中央委員になった途端、やたら張り切ってたし。」
「まぁ……。」
「好きなんだろ?」
「……。」
俺は机に突っ伏した。
「お前ら、俺のこと何だと思ってんの?」
「分かりやすい男。」
即答だった。
「ひでぇ。」
「いや、マジで分かりやすいって。」
そこへ宍戸がやってくる。
「何の話だ?」
「吉川が小早川さんのこと好きって話。」
「知ってる。」
「お前までかよ!」
俺が叫ぶと、宍戸は鼻で笑った。
「見てりゃ分かる。」
「お前ら洞察力高すぎんだろ……。」
そのやり取りを少し離れたところから見ていた秋平が、苦笑しながらこちらへやって来る。
そして、そのさらに奥。
教室の入口付近で、ふと足を止めている人物がいた。
小早川景だ。
昼休みの喧騒の中で、彼女だけが少しだけ静かに立っている。
手には購買で買ったらしいパン。
でも、食べるのを忘れたまま、こちらを見ていた。
「……。」
景は一瞬、目を瞬かせる。
毛利たちの笑い声。
春一の「うるせぇ!」という声。
その全部が、彼女の耳に届いている。
(……春一くん。)
胸の奥が、少しだけくすぐったい。
さっきまでの重い空気とは違う。
彼が笑っている。
誰かと普通に言い合って、からかわれて、怒っている。
その姿が、なんだか少しだけ安心する。
――でも。
同時に、ほんの少しだけ胸がざわつく。
(私のこと……話してるのかな。)
そんな気がして、視線を逸らしそうになる。
けれど、逸らせない。
春一の横顔が、やけに楽しそうだったから。
「まぁまぁ。」
秋平が間に入る。
「吉川くんも大変だね。」
「何が?」
「中央委員になった以上、これから色々あるからさ。」
「……色々?」
俺が聞き返す。
秋平は毛利を見る。
毛利はニヤニヤしている。
「何だよ、その顔。」
「いやぁ。」
毛利が俺の肩を軽く叩いた。
「中央委員ってのはな。」
「クラス委員のまとめ役みたいなもんだろ?」
「まぁ、そうだけど。」
「だったら――。」
毛利は意味ありげに笑った。
「これからもっと、小早川さんと一緒にいる時間増えるんじゃね?」
「…………。」
その言葉に、景の指先がわずかに止まる。
(……一緒に、いる時間。)
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
嬉しいのか、恥ずかしいのか、自分でも分からない。
ただ一つ分かるのは。
春一くんが、少しだけ遠い存在じゃなくなっていく気がするということだった。
「……。」
俺は少しだけ顔を逸らした。
「……悪くないな。」
「おい。」
宍戸が呆れた顔をする。
「今、絶対顔に出てたぞ。」
「出てねぇよ。」
「出てた。」
「出てない。」
「出てたって。」
「うるせぇ!」
昼休みの教室に笑い声が響く。
その少し離れたところ。
小早川景は、そっと視線を落としたあと、小さく息を吐いた。
(……春一くん。)
そして、ほんの少しだけ口元を緩める。
誰にも気付かれないくらい、小さな笑みだった。
「春一くん。」
「ん?」
「楽しそうだね。」
「あぁ。」
俺は自然に笑っていた。
「まぁな。」
その返事を聞いて、景はもう一度だけ小さく頷く。
「……うん。」
それだけだった。
でも、その「うん」には、少しだけ安心が混じっていた。
――こうして。
俺の中央委員生活が始まった。
ここから先、どんな仕事が待っているのか。
正直、まだ何も知らない。
ただ一つだけ分かっていることがある。
中央委員になったことで。
俺と景の距離は、今まで以上に近くなる。
そして。
そのことを、彼女もどこかで感じ始めている。
それが後々、とんでもない騒動を引き起こすことになるとは。
この時の俺は、まだ知る由もなかった。




