表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/25

まずは俺のことについて話させてほしい(前編)

突然だけど、まずは俺のことについて話させてほしい。


 名前は吉川春一。


 今日から私立千石学園高等学校に通う高校一年生だ。


 趣味は読書……と言いたいところだけど、最近は”読書をしているフリ”のほうが得意になってしまった。


 理由?


 まあ、それも追々話す。


 その前に、一人だけ紹介しておかなきゃいけない人物がいる。


 俺の姉――吉川ひかり。


 こいつを知らないと、俺の高校生活は語れない。


◇◇◇


「あいつが生徒会長の吉川さんの弟か……」


 また、この話である。


 高校に入学してまだ一週間。


 なのに俺の自己紹介は、決まってこの一言から始まる。


 中学三年間で嫌というほど思い知った。


 完璧超人を姉に持つ弟という肩書きは、想像以上に生きづらい。


 俺が通う千石学園は、全国から受験生が集まる文武両道の名門校だ。


 勉強も部活動も全国トップクラス。


 制服に憧れて受験する生徒までいるらしい。


 そんな学校へ、姉は推薦ではなく一般入試で入学した。


 理由を聞いたことがある。


「推薦では、自分の実力を証明できないでしょう?」


 意味が分からない。


 普通は少しでも楽な道を選ぶだろ。


 俺なら迷わず推薦を選ぶ。


 ……まあ、推薦なんて来ないけど。


 そして姉が叩き出した結果。


 全教科満点。


「ゲームならチートキャラじゃねぇか。」


 思わず心の中でツッコんだ。


 それだけじゃ終わらない。


 入学式では新入生代表。


 定期テストは常に学年トップ。


 運動神経も抜群。


 文化祭では実行委員長。


 体育祭では応援団長。


 そして一年生にして生徒会長。


 二年生や三年生の立候補者を押しのけて、だ。


 どこの主人公だよ。


 漫画でもそんな設定、盛りすぎって言われるぞ。


 学校では『女王』なんて呼ばれているらしい。


 教師からも信頼され、生徒からは憧れの的。


 まさに千石学園の顔だ。


 ちなみに家でも基本的には変わらない。


 朝は誰より早く起きて朝食を作り、母さんの仕事を手伝い、妹の世話までこなす。


 勉強も家事も運動もできる。


 隙がない。


 本当に隙がない。


 だから俺は、本人には絶対聞こえないように、心の中だけでこう呼んでいる。


 メスゴリラ。


 別に見た目の話じゃない。


 圧だ。


 圧がゴリラなのだ。


 怒らせたら最後。


 大声なんて出さない。


 物も投げない。


 ただ静かに笑顔で、


「春一、少しお話があります」


 と言われる。


 その時点でゲームオーバーである。


 説教が始まると反論なんてできない。


 正論でじわじわ追い詰められ、最後には、


「……はい。」


 としか言えなくなる。


 あれは説教じゃない。


 尋問だ。


 だからメスゴリラ。


 愛を込めて言わせてもらう。


 ……本人にバレたら命はないけど。


◇◇◇


 そんな姉を持つ俺はというと、ごく普通。


 本当に普通だ。


 勉強はそこそこ。


 運動もそこそこ。


 顔も……まあ、普通。


 特別目立つことは何一つない。


 陽キャでもなければ陰キャでもない。


 だから中学時代につけられたあだ名が、


 『あ、いたの?系男子』


「ざけんな!」


「何だよ、その不名誉すぎる二つ名!」


 誰が好き好んで空気になるんだ。


 もっとこう……『縁の下の力持ち』とか、『影の実力者』とかあるだろ。


 ネーミングセンス終わってる。


 ……まあ、そのあだ名が妙にしっくりきてしまう自分が一番悔しいんだけど。


 教室を見渡す。


 入学して一週間しか経っていないというのに、もうグループは完成していた。


 後ろでは男子がゲームの話。


 窓際では女子が恋バナ。


 部活動の話で盛り上がる声も聞こえる。


(高校生って順応早すぎないか?)


 まだ一週間だぞ?


 俺なんか、隣の席の名前を覚えるだけで精一杯だったのに。


 コミュ力って、どこで売ってるんだろう。


 できれば学割で。


 そんなことを考えながら、文庫本を開く。


 もちろん、読むためじゃない。


 読書は好きだ。


 でも今は違う。


 読んでいるフリだ。


 本を開いていると、不思議と話しかけられにくくなる。


 ぼっち高校生が編み出した、涙ぐましい自己防衛術である。


 我ながら情けない。


「ねぇ、吉川くん」


 突然、隣の席の女子が話しかけてきた。


 危ない。


 俺の防御結界が破られた。


「吉川くんってさ」


「生徒会長の吉川先輩の弟なんでしょ?」


(……ほら来た。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ