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ダンジョン が あらわれた  作者: 黒白のアレ。
ダンジョンマン
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ep63:あるあるな展開を嗤う。


 フラフラと、揺れ動く身体。

 視界の片方は壊れ、ひび割れた硝子越しに異常な世界を映し出し、正常なはずのもう片方も、電池切れのように暗くなりかけている。


 失った多量の血液のせいか、度重なり今も続く激痛のせいか、命の灯火が消えていくように、徐々に冷気が身体中を蝕んでいく。


「ゴホッ、エ゛ァ、あ〜死ぬ」


 そんな身体を、漲る魔力で無理矢理に操る。

 もって、あと数十秒。

 本能が言うそれは、正しいのかもしれない。

 動きはする……動きだけはする、一度の呼吸だけで激痛の奔る身体を確認して、そんなことを考える。


 今の状態で、ボクが何をどう足掻こうと、死ぬと思った。


 絶えずこちらに飛翔する光を、ギリギリのところで避けながら。


 だからこそ、少しでも面白く、スリリングで、かつ生き残れるかもしれない方法を──躊躇なく試せる。


 避けた先。

 脱力して、手のひらを額に置いて。

 全身の魔力を、一点に凝固する。


「さァ、一か八かだ……アハハ♪」


 このままではどちらにしろ死んでしまう。

 何をやるにしても、時間が足りない。

 考える時間すらも足りない。

 あれは、本能だから成せた行動なんだと思う。

 ボクがやろうとしても、失敗して死ぬ可能性の方が絶対に高い。


 でも──それでいい。


 瞬間。頭蓋の中を、全魔力が吹き荒れた。

 さァ、これが成功したら、タイムアタックの始まりだ。



◆◆◆



 光の残像だけが、視界の中を動いている。

 ただ魔法陣の方向と、水晶の面を見て、避ける。

 視界の端に映るのは、光が抉って、まるで消滅でもしてしまったような、灰色の地面。


 その度に、どうしようもなく心が震えてしまう。


 ……これに当たれば、死んじゃうんだ。

 一目見ただけで、そんなどうしようもない現実が理解できてしまった。


 怖い。すごく恐い。

 光を見る度に、震えようとする足を必死に抑える。

 過呼吸になっているのが、自分でもよくわかった。




──だからこそ、分からない。


 後退りもせず、真っ向から。

 一度でも当たれば死んじゃうかもしれない攻撃を容赦なく放つあの灰色の魔女に、臆すこともなく抗い続けている、探索隊のみんなが。


 私には、そんなことできないよ。

 臆せず、怯えもせず、真っ向から立ち向かうなんて、出来ない……。


 怯える心が、震えようとする身体が、放たれる光から逃げるように避け続ける。


 避けて、逃げて、避けて避けて。

 ヒールを使って。

 避けてヒールして、逃げて守られてヒールして、避けて逃げて、逃げて逃げて……自分にも、ヒールして。


 これが自分の役割で、自分に求められた行動だということも、よくわかっている。

 でも、彼らのような勇気を持てない自分に、心苦しいものを感じて仕方ない。


 ここまで来るのに、幾度となくレベルアップを重ねた。

 ステータスも、ダンジョン前とは比べ物にならない程に上がった。


 なのに、自分は逃げ続けることしか出来ない。

 真っ向から立ち向かおうだなんて、考える勇気すらなかった。


 ……自責の念が、恐れが、心の中を染め上げていく。


 魔法陣から、光の残像を避けた、その先で。

 視界の端にそれを捉えた。

 薄っすらと、青い光沢を放つ短剣であの恐ろしい敵を切りつける、早瀬さんの姿が。


──自分と、ステータスだけならほとんど変わらない、彼女の姿が。


 一呼吸の間に、幾度となく放たれる苛烈な光線群を避けて、目の前の敵へと刃を向けている。

 真横を通り過ぎる光をなどまるで眼中に無いと言わんばかりに、敵へと駆けて、その足を止めることはない。


 ……なんて、輝かしいんだろうか。

 敵を目の前に、ただ殺意だけを向けられる彼女が、探索隊のみんなが、輝かしくて──羨ましい。


 とても、私には出来ない。

 未だ震えようとする足に、逃げようと考える自分の思考に、嫌気が差してしまう。


 役立たずな訳じゃない。

 でも、与えられた特別な力を使う、自分にしか出来ないこと。

 それだけでしか存在意義を保てない自分が……あぁ、本当に、嫌になる。


 そんな自分を、変えたくて。

 変えたいと思うのに、体は動いてはくれなくて……。


(……あぁ、誰か。誰でもいいから、このヒールの力を持つ私じゃなくて、私自身を、認めて──)




「──あっ……」


 戦闘中に、考え事をしたから。

 余計な事を、考えちゃったから。

 ただでさえ役に立てない私は、こんな事になってしまうのかな。


 極端に、世界が遅くなる。

 鎖で縛り付けられたかのように、身体が動かない。

 目の前には、少し手を伸ばせば触れてしまえるくらいに近い──光。


(……嫌だなぁ、怖い。独りで、死にたくないよ)


 佐藤さんは、遠くにいて、あの大きな盾が私を守るには、あまりにも遠すぎる。

 間に合わない。

 それを理解したのかな。

 こちらに気づいていた佐藤さんは、今までに見たことの無い顔をしている。


 相馬くんは、何かこっちへ向けて叫んでるけど、この光に遮られているせいか、聞こえないや。

 早瀬さんは顔を顰めて、視線を逸らそうとするのを堪えて……悔しそうな顔で私を見てくれている。

 そんな顔、私なんかにしてくれるんだ。


 根暗くんは必死に私の前に迫る光を防ごうとしてか、電撃をこちらに向けるけど、もう間に合いそうにない。


 橘隊長は……貴方が、そんな顔をするんだ。

 銃を打つ手は止めていない。

 それでも、死に行く私に向ける感情は、ありありと感じられた。


 愚道くんは、見当たらないや。


 遅い世界の中。

 それでも止まることなく、光は着実に私へと迫っている。

 怖い、嫌だ、死にたくない、嫌だ嫌だ……っ、あぁ。


 もう無理なんだ。

 そんなこと、さっきから理解できていたはずなのに。

 改めて自覚して、変えようのない死が、苦しいよ。


 少しでも自分の体を守ろうとしたのか。

 光の方へ手を翳して、無意識の抵抗。

 そんな抵抗も、焼けていく手のひらを前に、呆気なく諦めてしまう。


(……死にたく、なかったなぁ)


 役に立てない弱い自分は、涙を流してしまう。


 白い光が、視界を埋めて。


 熱い。


 眩しい。


 嗚呼、もう──






「──せぃーーーっふ。危ないねェ、フハハ♪」



────────────────────

ep63:あるあるな展開を嗤う。


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