ep34:力こそが全てを解決するらしい。
「そうなんだね」
「橘、キミはそれでも、ボクに探索隊への加入を望むんだね!」
橘の目を、覗き込んで。
歪む口端はそのままに、ボクは──
「──で? だからなに?」
なんて、言い放つ。
言葉が、口の中から流れ出ていく。
「キミがボクを入らせようとする意志は、すごく、鮮明に伝わるさ」
「でもさぁ、それだけだよね」
「ボクが入りたいと思う何かを提示するでもなければ、ただ入って欲しいと望みを乞うだけ」
「それはちょっと……退屈だなぁ」
「…………」
橘は、口を閉ざしている。
その目は、しっかりとボクの目を見ているし、聞いていないわけでもないのだろう。
……だんまり、かぁ。
再度口を開いて、何を言うのかと期待していたら、まさか、望みをただ乞うだけ。
ボクが面白そうだと感じられるものは、全く無い。
「……はぁ」
小さく、息が漏れる。
橘ではなく、ボクの口から。
落胆、というやつかな。
ガッカリして、少し口元が戻る。
「……何か、言うことはあるかい?」
足先を後ろへ向けて、顔を僅かに逸らしつつ、彼に問う。
「…………」
橘は、喋らない。
僅かに、喉を動かしては、息を飲む。
ボクを見るその目には、感情が見て取れる。
少し待とうが、彼が言葉を話すことはなかった。
「……そうかい」
短く、そう呟く。
混じり気に絡まる落胆の色をそのままに、彼に背を向けて。
つまらなかった彼を忘れるように、別の事を考え始める。
……さて、近くのダンジョンにでも行って──
「……どうしても、駄目か?」
──橘は、まだ、食い下がる。
ボクはその言葉を、背中で受け止めた。
……足が、止まる。
◇◆◇
「確かに、つまんねぇかもしれねぇ」
「だが、国の役に立てる」
「……うん、それで?」
背を向けたまま、彼に言葉を返す。
彼は言葉を微かに早める。
「危険かもしれねぇが、この世界で生きていけるだけの給料だってでる」
「……うん、そうだね」
ゆっくりと、言葉を返す。
彼の声色に、震えが混じる。
「公的機関とも契約してる。少なくとも数年の間は死にさえしなければ安泰だ」
「……ふぅん」
鼻から空気が抜けるような、適当な返事。
そうして振り返り、彼を見て、言う。
「それでも、ボクはいいや。他の人に当たってみるといいよ」
彼の手は、握り締められていた。
口を開けようとしては、閉じて、ボクを見て。
ボクは、また振り返る。
空に浮かぶ太陽は、さっきよりも位置を落としていた。
そうして、歩を進めて──
「──そうか」
それは、酷く平坦な声だった。
◇◆◇
背後で、土が擦れる音が、僅かに響いた──
──その、瞬間。
「はっ、ぁ?」
視界が、反転した。
間の抜けた息が、ただ漏れる。
「グヘッ」
──衝撃。
目の前には、地面しかなくて。
うつ伏せのまま地面に落ちて、肺から、空気が突き抜ける。
「なにが……ッ」
……なにが、起きた?
理解が、追いつかない。
そんな疑問を漏らす間もなく、背中で、両手が縛られるような、そんな感覚。
──気づけば、もう身動きは取れなくなっていた。
背中の上が、重い。
重りのような、それにしては、暖かいような。
頭が上手く回らない。
自分でも、混乱しているのが理解できた。
「動くな」
短く、低い声。
それが、すぐ背後から降り落ちた。
背中に乗った重みが、僅かに位置を変える。
捻り上げられた腕に、じわりと力が込められる。
骨が、ミシリ、と嫌な音を立てた。
「抵抗するな、骨が折れちまうぞ」
冷たく、平坦な声だ。
──カチリ。
すぐ傍で、乾いた金属音が鳴る。
瞬間。
ボクの頭のすぐ横には、何かがあった。
ゆっくりと、目を横にやれば、そこには──
──黒い、銃口がいた。
…………。
……フハハ。
◇◆◇
「俺に背を向けたのは、失敗だったな。愚道戯楽」
事実の列挙。
温度のない、それはそんな声だった。
すぐ目の前には、黒い銃口。
それは、ゆっくりと持ち上がり、視界から消える。
後頭部には、硬質で冷たい何かが当たっていた。
……フハハ。
「なるほどね。武力行使ってやつかな」
ボクの両腕は、背中で強く拘束されている。
うつ伏せで、背中の上からは、橘の声。
……動こうにも、動くことができない。
そんな状況、か。
…………。
……まぁ、いいや。
今にも暴れ出しそうな程に蠢いていた体内の魔力を、放棄した。
「それで、ボクはどうなっちゃうのかな」
「その銃で、撃ち殺されちゃうのかい?」
「……必要ならば」
短く、淡々とした返事。
声色だけで、彼がどんな目でボクを見ているのか、わかってしまう気がするよ。
「……必要ならば、ねぇ」
そんな事を呟いて、小さく、笑う。
腕に、力を込める。
──ミシリ。
「……ッ」
……やっぱり、ダメそうだね。
骨の軋む音が、痛みが、ボクの中で響く。
それに反応するように、締め付ける力は、さらに強くなる。
「……抵抗するな」
念を押すような、それにしては、冷たいような。
そんな声だ。
「脅し、なんてもんじゃねぇ」
「これは、本気だ」
火薬の香りが、微かに漂う。
背中の上から、顔も見せずに、彼は言葉を紡ぐ。
「愚道戯楽、もう一度聞くぞ」
押し当てられている銃口が、圧を増す。
両腕の締め付けが、更にキツくなる。
そうして──
「──探索隊に加入しろ、愚道戯楽」
さもなくば殺す、と。
そんな意思を、銃口から感じてしまう。
橘の目的は、最初から何も変わらない。
何故か、彼はボクを入れたがっていた。
…………。
……ふふっ、ふふハッ、フハハ。
こう、なるのか。
どうやらボクは、橘という人間を、少し勘違いしていたらしい。
少し、昂る。
体内の魔力が蠢いていく。
それは、抑えが聞かない。
抑える気なんて、毛頭なくて、外へ。
「……ッ!?」
全身から不定形に飛び出ていく、魔力。
瞬時、背中の重みが消えた。
目を逸らせば、飛び退いている橘の姿を視界に端に。
ころり、と転がる。
視界が開けた。
目の前には、空。
そして──橘。
彼の顔が、ボクの目に映る。
「……ようやく、顔が見れたよ」
フハ──
「──ぐ、ァ゛ッ」
少し驚いた顔をした橘に笑い声を上げれば、また直ぐに、取り押さえられる。
……首元に、銃口。
目の前には、ボクの、一挙手一投足の全てを見逃さないようにボクを見る、男。
口元が、捻れる。
彼の目を見れば……
「……なんでキミが、そんな"目"をしているのさ」
彼の目は、やっぱり何処か、ボクを見ていなかった。
…………。
ゆっくりと、両手を上に上げる。
その瞬間にも、橘はボクを取り押さえようとして、ボクの腹を床に、膝立ちに。
足裏でグリグリと力を入れられ、起き上がる事など、出来そうにない。
……要するに。
サレンダー、というやつだ。
「橘、キミはボクに、探索隊への加入を望むんだね?」
そう言うと、彼は
「これは望みを乞ているんじゃねぇ。命令だ」
即座に、その銃口をボクの脳天へ突き立てて、橘は言葉を返す。
ボクの命を、いつでも奪うことが出来る状況。
なのに、そんな目をする彼を、橘を見て、ボクは──
「──仕方ないなぁ」
銃口を目の前にして、尊大に。
「入ってあげるよ、探索隊」
「感謝でもすることだね」
フハハッ。
盛大に、笑い声を上げてしまったよ。
◇◆◇
──とある部屋の一室。
目の前には、彼を含め、計6人。
男が4人、女が2人。
全員が、ボクを見ている。
国のじーでぃーぴーとかいうやつを気にするなら、バランスの悪い構成なのだろう。
彼らを前に、適当に、ボクは言い放つ。
「やぁ、ボクは愚道戯楽。よろしく頼むよ」
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ep34:力こそが全てを解決するらしい。




