ep25「カンパニュラ」
人は銃を握り、魔物は牙を赤く染める。
そこに変わりはない。
もっとも、ボクの周りには魔物なんてもういないけど。
──肉の焼ける音。
パチ、と脂が弾けることはない。
変色した煙に、くんくんと鼻を鳴らして、匂いを嗅ぐ。
「うん! とっても臭い!」
肉を片手に、辺りに散らばった死体たちへ向けて、隅々まで聞こえるように、文句を叫ぶ。
「まったく、なんて臭いなんだ。くっさいね〜」
今火に当てているのは、コボルト肉。
ゴブリンの肉はもう飽きるほど食べたからね。
大体……死肉の山一つ分くらい。
数え切れぬ程のゴブリンの焼肉を思い出して、吐き気が込み上げてくるが、まぁ、これはどうでもいい。
架空の、吐き気という概念そのものをどこかへ投げ飛ばす。
さて、そんなことよりもコボルト肉だ。
見た目は……赤、いや、紫か?
焦げ目の間からは、赤紫の肉が覗いている。
肉汁はもちろんのこと、そもそも肉を焼く時の、ジューっといった音すらも鳴らない。
赤紫色だから、赤紫身になるのかな……?
なんて考えながら、口の中に入れる。
濁りだらけのその物体を。
……その実、ボクは白く、灰のようになったのだった。
◇◆◇
「そこの君! 大丈夫か! そこで何が起き……」
1番不味いのは結局、コボルトの肉だった。
出来る調理方法が焼く以外ない、というのもあるだろうが、咀嚼した直後、あまりの不味さで気絶しかけたのは、コボルト肉以外なかった。
あれは劇物に分類してもいいと思う。
緑色の毛並みをした狼の肉は、ゴブリンと同じくらいで、オークの肉に関しては、むしろ美味しいとすら感じる程の味だった。
例えるなら、肉汁に浸した革ベルトみたいな。
豚肉には程遠いが、まぁ食えない程でもない。
そしてフィクションはやっぱりフィクションだったのだ。
オークが豚肉と同じように美味しく食べられる、なんてことはなかった。
「──聞こえていないのか、おい! そこの君! 大丈……」
しかしまぁ、また魔物の石が溜まってしまったね。
魔物の中から出た、宝石のような石を持ち上げる。
太陽の光に透かせば、濁った紫。
よくあるモノだったら、魔石とかになるのかな。
魔力が詰まってたりすら、アレだ。
魔物が持っていた魔力は、なんか汚そうだけど。
なんて思いながら、舌の上で転がしてみたり。
……うん、不味いというか、無味の汚れた魔力だ。
特に美味しくもないし、噛み砕く。
うげぇ、口の中に砂利が混じるような、とても気持ちが悪い。
魔力で臓物を強化して、椅子にしていたオークの血液で、口の中を洗う。
──ゴシャッ
砕けるような、破砕音。
魔力を、地面に散らばる石へ伸ばし、全て砕いた。
不味いモノはいらないのだよ。
じゃあ、そろそ「なぁ! 聞こえてないのか!」
とんでもない大音量。
それも耳元で、肩を握り締められながら。
……ふははっ、なんて失礼な奴なんだ。
振り返りざまに拳を突き上げる。
顎に、めり込む。
骨の鳴る音。ふふっ、いい音だ。気持ちがいいね。
大人はそのまま白目を剥いて倒れた。
眼下には、白目でぶっ倒れた大人。
…………。
どう調理してくれようか。フハハ。
◇◆◇
──バチバチ
音を鳴らす炎は、大きく、揺らめいて。
たくさんの死肉を、燃やし尽くす。
炎の中には、人型の影。
あぁ、勘違いしないで欲しいが、あの声のうるさい大人のモノではない。
ボクは心優しい人間だからね。
時には人助けもするのさ。
血まみれの、人の形をした肉塊。
息があった気もするけど、もう時間の問題だろうし、そのまま炎へ放り込む。
「ふぅ、こんなところかな?」
振り返り、ボロボロの装備を着た大人へと問いかける。
「あぁ、協力感謝する。面目ないな、大の大人が学生を頼んなんて」
「ふふっ、そうだね」
正直、どうでもよい話なので、聞き流す。
適当にした返事に、目の前の大人は、トホホといったふうに、落ち込んでいる。
少しは面白い反応をするじゃないか。
いじめ倒してしまおうか。
「疲れたものだね。こんな形だけ供養で、報われるものなのかな?」
横目に、情けない大人を見る。
「報われる、と言いたいところだがな。実際のところ、自己満足に過ぎないのかもしれない」
彼の胸元には、小さな花の徽章が付いていた。
釣鐘のような形をした、青い花だ。
彼は、目を伏せて──
「せめて、思い込みたいのだよ。散っていった仲間達が、浄土へと無事に辿り着いて、死後を謳歌しているということを」
悲しそうな表情を浮かべる彼の目に、涙はない。
「ふーん、そんなものなのかな? 分かんないや。ボク仲間作ったことないし」
興味無さげに、切り捨てる。
実際、興味がないのだ。
知りもしない他人の死なんて。
「ははっ、そうか。君からすれば、そんなものか。けどな、思いたいのだよ。守るために散っていった、勇敢な仲間達が、少しでも幸せであって欲しい、とな」
…………。
……なんというか、途中から読み始める物語ほどもどかしくて、つまらないモノはないね。
形が崩れていく人影を前に、ぼんやりと。
……ふと、気になって
「そういえば、キミの名前は?」
大人だろうが、敬語など、どうでもいいのだ。
少し目を丸くして、彼は立ち上っていく煙に目を向けて
「……この地域の、区域警備隊、第三班班長代理」
続けて、口を開き、
彼は顔を僕へ向けて──
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ep25「カンパニュラ」
ただのモブにも、ストーリーはあるものです。
特に、こんな世界なら。
気になる方は、カンパニュラ 悲劇 とかでお調べ下さい。




