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ep14『大厄災』


──深夜。


 老害が二徹後の深い睡眠に入ったのを見て、忍び歩く。

 このラボは、元病院付近の路地から地下に行った所にある。

 他には誰も知らない、秘密の場所だ。


 けれど、老害はボク一人が何をしようとどうでもいいようで、外出やらを禁止されたことはない。


 あくまでも、便利な仕分け機程度の扱いなのだろう。



 音を立てずに、重厚な扉を開ける。


 老害が言うに、ここは倉庫としての役割を果たす部屋で、最低限の保存方法が為された、器具や機械部品、それに魔物の素材なんかがある。


 ダンジョンが現れてから、凡そ1ヶ月の時が経過したらしいけど、良くもまぁ、これだけの素材を集められるものである。

 大方、何らかのツテがあるのだろうけど、まぁ、それは年の功というやつなのだろう。


 別に監視されようがされてなかろうがどうでも良いので、バチッと、音を立てて部屋の電灯を点ける。


 扉に関しては、あれは音がうるさいからだ。

 うるさいものをあえて鳴らそうとする酔狂な者なんて、そうそういないだろう。


 ……ガチャガチャと音を鳴らしまくって、ぶん殴られた後頭部に手を当てながら、そんなことを考える。


 人体から取れる素材、臓物や肉骨が並べられた空間を横目に、魔物の素材を取り出す。


 ……そこには、焦げた後すらも残らなかった。



◇◆◇



「……ダンジョン侵入直後での違和感、体内での拒否反応? 魔力は物質性を持つ? 急激なパワーアップは、暴走と見るべきかのぉ」


 老害からの取り調べを受けた後、老害は何やらブツブツと。

 今までも、魔力という存在に関する噂などはあったらしいが、真偽が分からなかったり、本人に話を聞く機会なんかはなかったらしい。


 無防備な姿を晒して、考えにフケている。

 未知への興味というのは、このジジィにとって、それほどまでのモノらしい。


「ふむ、分からんの。そもそも観測する方法がないのじゃ、理解できん」

「分からないことがわかったってやつ? それ何か意味あるのかな?」


 鬱陶しい者を見る目で、老害はボクを見る。


 ……フハッ♪


「意味、のぉ。強いて言うのならば、覚悟の後押し、じゃのぉ。」


 キリッ、と。決めゼリフ臭いセリフを発した老害を、茶化すように、ニマニマと覗き込む。



──痛いッ。

 ご老体で飛び膝蹴りとか、イカれてんのか……ッ。


「ゲホッ、ゴホッ。そ、それで? なんの、覚悟?」

「それ、流せ。儂の腕に。最悪害が出ようと、腕なら直ぐに切り落とせるからのぉ」



 …………。


「フハッ、フハハ! イカれてんなァ、クソジジィめ!」


 半ば自傷のような行為に、老害は躊躇う素振りを見せない。

 変化を最大限感じる為に、指先程度ではなく、腕一本、という訳かな。


 視界の中にあった黒色の濁りは、少し薄らいだ。



◇◆◇



 火山が、突然噴火するように。

 晴天に、水滴が落ちるように。


 人生とは、不条理が忽然と舞い込んでくるものらしい。


 ボクにとっては、違ったりもするけど。



◆◆◆



 ダンジョンが現れてから──一月と、少し。


 コップに水を注げば、やがて満杯になり。

 注ぎ続ければ、それはやがて溢れ出す。


 そんな、簡単なものだったのかもしれない。


 ただ、今を生きていた人々は、それに気づくことが出来なかった。


 一部、可能性を示唆した者もいた。


 けれど、それは妄想者の戯言でしかなく、夢見るバカの妄言としか受け取られなかった。


 人は、自分達にとって、都合の良い可能性にばかり目を向ける。


 ダンジョンだって、やがては収まり、平穏が訪れるのだと、世界は本気で、そう信じていた。



 ダンジョンが現れてから──一月と、少し。


──その日その時その瞬間、ダンジョンから、魔物の進出が、始まった。


 全世界の、全てのダンジョンから……。



──2XXX年X月X日X時X分X秒。


 天変地異復興記念日として祝われるはずだった、その日。


 その日は、後にこう呼ばれた。



────────────────────

ep14『大厄災』

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