表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/48

46 森さんの中身

 樹の勘を頼って、他の階に移動することにした。

 今まではヴェイカントと遭遇しないことを当たり前のように感じていたけれど、本当に屋内って安全なんだろうか?

 結局、十六階に来ても廊下は静か。そこでも森さんはあっちこっちでデカイ声を出してボブの名を呼んで……叫んでいたものの反応らしき反応が無かったからとうとう十七階にまでやってきてしまった。わざわざエレベーターを使うのも面倒だったため非常階段を使って上がってきたのだが……さすがに疲れてきたかもな……。


「十六階でも無反応だったからつい十七階まで来ちまったけれどさ……アイツ、いるかな?」


 樹が言う『アイツ』とはもちろんボブのことだ。そもそもさっきからボブを探し続けているっていうのに、ちっとも見つかる気配が感じられない。ついつい樹の勘を信じてこっちまで来てしまったが、この施設から外出している……なんてオチにはならないだろうか。


「……これでいなかったら、俺らバカみたいだけれどな」


「っもう!ボブも研究員ならちゃんと施設にいなさいよーっ!!」


 十七階に来ても相変わらずデカイ声を出している森さんの体力には目を見張るものがあった。っつーか、めちゃくちゃ元気だな、この人。こんなに細っこい体しているくせに。


「あー、はは……でも、なかなか見つからないものなんですねぇ」


 カスミも一応ついてこられているが、少しばかり疲れを見せてきているようだ。まあ、普通に階段で上がってきたもんなあ。俺だって軽く息は上がってしまっている。


「森さんはあちこちで大騒ぎするし……それに静かな施設も施設だけれど……本当にここ、大丈夫なのかしら?」


 渚さんはもはや森さんの騒がしさがどうこうって感じはスルーしていて、研究施設はきちんと稼働しているのかどうかを怪しんでいるようだった。


「……今のところ誰とも会わないよな」


 そして、俺たちはこれだけ施設のなかをぐるぐると歩き回っているというのに誰とも遭遇していない。普通の会社なら絶対に有り得ないことだ。


「でも、パソコンがある部屋では作業没頭中の研究員は何人かいるだろ?」


 たまにガラス張りの部屋から見える研究員たちはずーっとパソコンと向き合っていて、誰かと会話をしているなんて様子は一度も見られない。静かなマネキンかとも思えるが、しっかりと手元は動いてパソコンを操作しているので、逆に不気味だった。


「……こっちには全然無反応だけれどな」


 無反応。

 まるで、俺たちの方が異質とでも言いたそうな状況に、頭が痛くなってきてしまう。ここ本当に秋葉原の研究施設で合っているんだよな?もっと騒がしい……研究員があちこち移動して回っているような施設をイメージしていたものだから真逆の景色がどこまでも続いているようで感覚がおかしくなってきそうだった。


「ボブー!ボブー!っもう、いい加減出てこーいっ!!」


「森さん、キレてね?」


「……キレてるな」


 森さんは大声を出すだけにとどまらず、ついには廊下をドンドン!と大きな音を立てて歩き出すようになってしまった。まあ、気持ちは分からんでもない。


「つか、これだけ歩いていてもタフだねぇ?カスミも意外だけれど渚さんと森さんなんて息一つ乱してねぇよな?」


 樹も俺も研究員のイメージとしては研究ばっかり、そして頭を使う職業。つまりは、体力はどちらかと言えば無さそうな感じがしてちょっと歩き回るだけでもゼェゼェ息を乱すのかと思っていたが、それが全然だった。むしろ体力ありまくりじゃね?


「研究員だってあちこち出歩くもの。意外と足を使うものなのよ?」


「そうそう!人によってはあっちの支部に出掛けて来い!って言われることもあるんだからね!?」


 そう聞くと、研究員ってめちゃくちゃ体力必要とする職業なんだな……ぜってぇなりたくねぇ。


「……そりゃお疲れさん」


「ん?ちょい、待ち!……この先、何かヤバい気がする……」


 樹がふと顔を上げてじっと物静かな廊下の先を見ながら呟いていた。……が、ヤバいって言うからには何かあるんだろう。俺から見ても、特に何かがあるってようには見えないけれど。


「へ?」


「……迂回してみるか」


 その分歩き回る必要があるが、それでも無駄に面倒なことを起こすよりかは多少歩き回った方が良いのかもしれない。


「え、え?ヤバいってなに!?若者よ!ちゃんとした日本語を使えーっ!!」


 俺と樹がくるりと方向を変えて別方向へと歩いていくものだから森さんはギャアギャアと騒いでいるがアンタもじゅうぶんまだまだ若いだろうに。


「渋谷で感じた違和感みたいなモンだよ!きっとヴェイカントがいるかもしれねえってこと!」


 仕方なく樹が森さんに向かって説明をしていくが、ヴェイカントがいた……んだろうか?


「無人、だったよね?」

 

 カスミも俺と同じく特に何かが見えていたってわけではなさそうだったようで不思議そうにしてはいるものの樹は引き返すつもりは無いらしい。


「……透明っつか、なんつーの?人の目には見えないようにする方法って今の技術で出来たりするのか?」


 スケルトンみたいな?なんて言うかよく知らないが、人の視覚には入らないように出来るような技術があるのならば、さきほど樹が見えていた廊下にはその技術を使ったヴェイカントが存在していたのかもしれない。


「どうだろ?」


 森さんもその辺にはあまり詳しく無いらしく首を傾げられてしまった。となると渚さんの方が詳しかったりするんだろうか?


「長時間は難しいんじゃないかしら。さすがにそこまで技術が発展していたらあちこちで犯罪が起きても不思議じゃないもの」


 確かに。監視カメラにも映らない、そして人の目にも映らない、そんなモノが堂々と道を歩いていたりしたら……そんなものを犯罪に使おうとする輩は絶対に増えていく気がする。


「こっちの階も一応施設が入っているっぽかったよな?……つか、誰もいなくね?」


 ビルの入り口に見えた看板にはこの十七階も一応は研究施設として使われているはずの階らしい。が、十五階や十六階のようにパソコン操作をしているような研究員たちの姿もまったく今のところ見られていないようだった。


「……それこそ、見えない部屋のなかで実験まみれだったりしてな」


「……っ……」


 ぎくり、と誰から見ても体を強張らせる森さんの姿があった。それに、たまーにこの人の様子が変わるときがある。このまま有耶無耶にしておくのもどうかと思うし、ここで聞いてみるとするか。


「森さん?あの、大丈夫ですか?」


「あ、う、うん!平気平気!」


「……さっきから、たまに何かに引っかかってるよな。……森さんも犠牲者だったりするのか?」


 研究の、と言葉を付け足していけば森さんの表情が一気に強張っていくのが分かった。これは、イエスだ、と言っているようなものだ。


「ちょ、湊くん!」


 カスミが俺の言葉を止めようとするものの、俺はここぞとばかりにはっきり聞いておきたかった。今までに森さんに接してきて不思議なことがあるところ。そして、異質なところも。


「……おかしいと思ってたんだ。アンタの体の軽さ。……それに、細さも。それ、単にダイエットとかしている範囲の細さじゃないだろ」


 小柄でも、あんなに簡単に持ち上げられるものだろうか。いや、人間なら多かれ少なかれ重さがある。多少は気合いを入れて持ち運ぶ意識を持って森さんを運ぶつもりだった。が、そんな気合いなんて必要ないぐらいに森さんの体は軽かった。いや、軽すぎだった。


「……森さんの体、一体どうなってるんだ?」


「わ、私は……」


 ここまで追究していけば、独特の明るさで誤魔化すなんてことも難しいだろう。じっと森さんの様子を伺い見ていけば躊躇いがちに森さんは口を開いていった。


「……っ……か、体の中身が……ほとんど、無いっぽくて……」


「中身?」


「……臓器とかか?」


 俺がそう指摘していくと、素直にこくこくと頷き返してきた。そうか……彼女の、森さんの体の軽さがようやく分かった気がする。臓器がほとんど無いのならば異様なまでに感じていた軽さも納得だ。


「そう、だったの?」


 渚さんも知らなかったようで顔を歪めている。


「ち、小さい頃に……事故に遭ったって聞いて……それで、ほとんどが使いモノにならなくなったからって取られたって……」


 小さくぶるぶると震えているのは気が付いたら臓器が無くなっていたことを知らされたときを思い出したのか、それとも事故のトラウマでも思い出したのか……。


「それ、マジな話か?いくら事故ったからって臓器を取り出すってそれ生きていられるのも大変なことなんじゃね?」


「そう、聞いたんだもん!目が覚めたらまともに食べられるモノも少なくなってて!人間にあって当たり前の臓器が少なくなっているって!」


 先ほどまでとは違い、悲鳴まじりの声を上げながら自分の細い体をぎゅっと抱きしめながら話す森さんは嘘をついているようには思えない。だったら……。


「……渚さん、どう思う?そんなことマジで可能なのか?臓器無し……っつーか、小さいままで生きているなんて」


 普通に考えていけば有り得ない。

 でも、いろいろな出来事を体験していくうちに有り得ない現象でも有り得るように考えられるようになってきてしまっているから、もしかしたら森さんの体も……何らかの影響で生きられるようにされている、とか?


「病院で、診てもらったことはあるの?」


 本当に臓器が無いのならば検査をすれば分かるだろう。なぜ、今までそれをしてこなかったんだろうか?誰かに止められたのか?


「…………無い、けれど」


 きっと真実を目にするのも怖いのかもしれない。それでも、はっきりさせておいた方が良いだろう。


「……ここは、研究施設だろ?だったら軽い医療機器ぐらいならあるんじゃないか?」


 別に血液検査だとか時間の掛かるモノをしようってわけじゃない。エックス線検査だとか内臓を見る機器ぐらいならば探せばあるんじゃないだろうか。


「それって……」


「……ボブが見つからないんじゃ他にやることもない。なら、森さんの体をはっきりさせておこう」

 本当に森さんの臓器はほとんど空なのか!?それをはっきりさせたいと思います!


 良ければ『ブックマーク』や『評価』などをしていただけると嬉しいです!もちろん全ての読者様には愛と感謝をお届けしていきますよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ