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45 無反応

 またしても特に何事も無いまま十五階に辿り着いた。

 相変わらず廊下はシンと静かだし……さて、さっきよりも注意深く研究所を見て回るか。

 再び十五階フロアにやって来たものの、そこで真っ先に違和感を口に出したのは森さんだった。


「ここって、こんなに静かだったかな~?」


 ボブとも面識がありそうだったようだし、ここの研究施設にもおとずれたことはあるんだろう。だが、森さん的には違和感だらけって顔で静かな廊下を眺めている。


「……って言うと?」


 その違和感が何なのか?と問い掛けていくと森さんは首を傾げては『う~ん』と唸っていた。


「う~ん?いくら研究所って言ってもそれなりに人が行き交うことは普通の会社と同じふうだったし……だって、ずーっとパソコンと睨めっこしているばっかっていうわけにもいかないでしょ?」


 いや、そもそも普通の会社をまず知らない。でも、こうして廊下を歩いていても誰とも……それこそ、ここで働いている人らしき人と一度も擦れ違うことが無いっていうのは確かに不思議な感じがする。


「さっき来たときも別に誰かと擦れ違うことなんて無かったよな?」


 樹も無人だった廊下を思い返していくと森さんはギョッとしていた。


「それ絶対おかしいじゃん!データが集まりましたー!サンプルが出来上がりましたー!ってなれば、人がデータなり書類なりを持ってあちこち移動するものでしょ?」


 忙しい研究施設ともなれば人がいない廊下なんて有り得ない!と森さんは言っているらしい。確かに多くの研究員は研究室とやらに籠もるイメージが強いけれど、誰にも会わない、擦れ違うことすらないっていうのは会社として……異様かもしれない。


「この部屋は、さっきも見たようにパソコンと研究員たちが過ごしている部屋らしいけれど……」


 ガラス張りになっている窓からじゅうぶんに室内を見ることが出来るから分かるが、俺たちがやって来ても特に誰も俺たちに反応するわけでもないし、ただ真っすぐにパソコン画面に向き合って静かにパソコン操作をしているって光景ばかりが広がっている。

 人数的には……二十人ぐらいはいるんだろうか?それだけの人がいるにも関わらず、雑談だとか余談をしている人は誰もいなくて、ただパソコンを操作しているカタカタ……といった音だけが聞こえてくる部屋に今更ながら不気味さを感じた。


「あー……やっぱ変だな。あれ、ホントに人間か?」


 樹は研究員そのものに対して『変』だと言っている。確かに、俺たちみたいな部外者がいればガラス越しであったとしても気が付くはず。それに、研究員でない者がこんなに堂々と出歩けるのもおかしい。先ほどはボブも一緒にいたからそこまで不思議には思わなかったものの、今になってみると不気味にしか感じない。


「ちょっと不気味、だね……」


 カスミは遠慮がちに『ちょっと』と言葉を付け足したようだったが、俺からすれば不気味そのものだった。なんだか、この階……いや、この研究施設そのものが異様な空間にでもなったかのようで、ぶるっと背筋が震えてしまった。


「そして、その部屋のドアから先が……実験室……森さんを見つけた場所だったのだけれど」


 多くの研究員たちがパソコンを操作している部屋にあるドアから繋がる先の部屋で人体実験を、そして森さんを救い出したんだった。


「うげ!?そう、だったんだ……」


 なんか悲鳴とはまた違うような声を上げた森さん。何処かぼんやりとパソコンを操作している研究員たちの姿も見ているし……不安、なんだろうか。


「……大丈夫か?」


「は、はは!全然平気平気!」


 俺からの言葉には笑って平気平気!と気張っているようだけれど、じゃっかん笑顔が引きつって見えているから平気じゃないんだろう。連れて来られた記憶でも蘇ってきたのか、それとも別の要因でも感じることがあるのか少しずつ森さんの表情が歪んでいくのが分かった。


「でも、森さんの前に実験椅子とやらに座らせられていた子どもがいたんだよなあ……」


 その子は、何処に連れて行かれてしまったんだろうか……。でも、見つけたらどうする?森さんのように救い出すか?でも、逆に失踪届けでも出されたらこっちがマズイ状況になるだろう……。


「……こ、子ども?い、いくつぐらい?」


 意外にも食いついたのは森さんで、やけに子どもの年齢を気にしているようだった。


「う~ん、小学生ぐらいだったとは思うけれど……って、顔青いぜ?」


 樹が小学生ぐらいだった……と言い始めていくと途端に顔色を悪くさせていく森さんだったからここに彼女を連れて来たのはマズかったのかも……と思いはじめていた。


「あー、はは!ほ、ホント平気平気!ちょっと自分が知らないうちに何かされてたのかな~って思うとちょっと怖くなったってだけ……」


「……ボブを見つけて、さっさとここから抜け出した方が良いんじゃないか?」


 まともに話が出来そうなヤツがいない。だったらボブを見つけて外で話した方が良いんじゃないだろうか。


「そうね。でも、その肝心のボブが見つからないのよ……」


「確かここって数階に渡って研究施設が入ってるんだったか?うへぇ……全フロア見て回るとなるとそれなりに時間掛かるぜ?」


 ここは十五階だが、確かビルの入り口にはこの上にも数階にわたって同じような施設が入っているような記載がされていたから全フロアを見て回るとなると時間も掛かるし、なによりも森さんの状態が悪そうだ。


「困ったわね……誰かに頼もうにも……話し掛けても反応が有りそうな感じは無さそうだし」


「校内放送っぽく呼び出しちゃうとかは?」


 カスミは天然なのか、それともマジだったのか分からないがそんなふうに呼び出せるならそうそう苦労もしないのだけれど……。


「……放送委員会かよ」


「試しに研究員の人に話し掛けてみましょうか……すみません、少しお尋ねしたいことがあるのですが……」


 パソコンを操作している研究員らしき人物の近くで渚さんが話し掛けていくものの聞く耳持たず、そしてパソコンを操作している手の動きは止めることが無い。

 ……コイツら、マジで人間なんだよな?


「…………」


「ダメだな、ありゃ。渚さんの声にも無反応じゃん」


 やれやれ、と樹も両手を上げてお手上げ状態といった感じに呆れた顔をしていた。

 

「でも、手元を見るとちゃんとパソコンの操作はしてるよね?」


 眠っているとか、意識がただ無いっていうのなら分かる。でも、きちんと目は開いているし、手元の動きはきちんと動いているものだから頭?脳だけが渚さんの声に反応していないのだろうか?それとも外部からの刺激には『反応しないように』されているんだろうか。


「……ワケが分からん」


「ここでミットくんたちってヴェイカントと戦闘になった?」


 不意に森さんからヴェイカントたちと遭遇したかどうかを聞かれたものだから……。


「……いや、それも無かったな」


 無かった、と言い終わるよりも前に森さんは思いっきり息を吸い出した。


「だったら……すぅーっ……おーい!ボブーっ!!!私だよーっ!森王林もり・おうりん!リンリンだよーっ!!ボブに話があるんだけれどーっ!!!」


 シン……と静かな廊下には森さんのバカデカイ……いや、普通にドデカイ声が響き渡っていった。しかも、自分で相変わらずリンリンって言っているんだな……。

 しばらく待ってみたが、誰かが出てくる様子は無いし、なんだったら物音一つも聞こえてこない廊下には諦めろ、と首を左右に振ることしか出来なかった。


「ガーンッ!!!ちょ、ボブー!?ホントに私のこと忘れちゃったのーっ!?」


 森さんは諦めていないようで、ちょっと進んだ先でまた大きな声を出し、またちょっと歩いた先で再び大声を出していくものの聞こえてくるのは森さんのドデカイ声ばかりだった。


「っつーか、この階にはいねぇんじゃね?」


 はぁ、と小さく溜め息を吐きながら後頭部に片手を置きつつ樹が口を出すものだから、もしかしたらその可能性もあるのかもしれない。コイツの、樹の勘みたいなモノはどんどん鋭くなってきているような気がするのは俺だけだろうか?


「……樹は、そう思うのか?」


「なんとなく……だけれどよ」


 だったら……樹がそう感じるのなら、そっちの案を採用してみるのも良いかもしれない。


「……森さん、森さん!他の階に行ってみるぞ」


 少々この階でも気になるところはあるが……ここは、他に行ってボブを探した方が良いかもしれない。

 ちょっとだけ顔色を悪くさせた森さん……何か、あるのかな??


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