44 再び研究所へ
すっかり体調が良くなったらしい森さんを連れて、再び研究所に向かうことになった。
それにしても……やっぱ高ぇー……。
「いい?少しでも危ないと感じたら逃げることを最優先にして行動していくこと!」
再び研究所に行くためにエレベーターを待っている間、渚さんからは怖いぐらい真面目な顔をされて注意を受けることになってしまった。
もちろん安全が第一。何かあれば森さんだけでなくカスミや渚さんだって抱えて逃げる覚悟は出来ているつもりだ。
「……あぁ、分かってる」
「大丈夫大丈夫!こっちには、危険察知クンがいるから~!何かあったら教えてくれるって~!」
不意に森さんが肘でツンツンと樹のことを突っつきながら言っているものだからまさかとは思うけれど……。
「……それって、まさか」
「って、俺かよ!?」
まさか樹も自分のことだとは思わなかったらしくぎょっと驚きながら新たに付けられた不思議なあだ名に困惑していた。
「もちもち~!だって、イッキくんの勘の鋭さとか違和感とかってかなり敏感っぽいし、勘とかもかなり当たってると思うよ~!かなーり期待しているから危なくなったらすぐに教えてね~!」
渋谷でも感じたのか森さんは樹の勘の鋭さのようなモノに注目しているらしい。
俺も樹の勘の良さだとか、俺たちにはちょっと分からない違和感といったものを見つけるのが得意らしいから樹をあちこちに連れて行けば些細なことでも違和感があれば気付くのかもしれない。森さんが危険察知クンとかって名付けたあだ名も……まあ、分からないでも無いかもな。
「ま、まあ危なくなったりしたらすぐに言うようにするけれどさ」
「……さっき言っていたみたいに研究員に違和感を抱くことでもあったらすぐに教えてくれ。具体的に言葉で説明することが出来ないことでも何かあればこっちでも察することは出来ると思うから」
樹はどうにも違和感だとか不思議に思うことがあっても、それを上手く自分の言葉にあらわすことが苦手らしく、時間が掛かっていることが多いみたいだ。だから、今回は上手く言葉で説明することが出来ないことだとしても違和感だったり、変なことでも見つければその場で知らせるように言っておいた。たぶん、その方が俺たちは気付くことは早まる気がする。
「分かった分かったっつーの!」
何度も何度も大きく頷きながら応えていく樹に、取り敢えず安心することにした。が……。
「……それにしても女子が増えて、目の保養だよなあ」
樹がぼんやりとしながら、そしてだらしなく口元を緩めながら呟いているから呆れてしまった。これから研究所に乗り込むんだぞ?俺たちは。それなのに、なんで急に女子の話になるんだか……。
「……アホか。だいたい学校に行けばほぼ半分は女子だろ?女子なんて見慣れてるじゃねえか」
学校に行けば男女の比率はほぼ半々ぐらいなのだから学校に行けば自然と女子の姿は目に入ってくる。それを樹は感じていないのだろうか?……まあ、普段から女子よりも食べ物のことばっかり興味がわいているようなヤツだし仕方ないのかもしれないけれど、それでも今になって女子がどうこう話し始めるなんて……変なヤツだな。
「ばっかだねぇ!同年代の女子とは話す機会はあっても年上の女性たちと出会ったり話したりする機会なんて無いじゃないか!」
あー……それは、なんとなく分かる。
森さんや渚さんはめちゃくちゃ年上ってわけでもないけれど、同年代の女子とはまた違った雰囲気っつーか、大人っぽさっていうのがあるのは分かる。それでも、そこまで楽しく思うものなんだろうか?
「……そんなに楽しいことか?」
「あのなあ!俺たち現役の男子高校生なんだぜ!?お前もうちょっと女子に興味持った方が良いんじゃねえか?誤解されるぞ?」
俺が不思議そうにたずねていけば樹は物凄い勢いで自分たちが現役の男子高校生だってことを主張してきた。いや、それぐらい分かってるっつーの。
「……誤解も何も、今はそれどころじゃないだろ」
「なになに!?ミットくんって女子に興味無いの~!?」
俺と樹があまりにも大きな声で騒いでいたものだから森さんの耳に入っちまったじゃねえか。きっと森さんのことだから面白おかしく話を広げていくのかもしれない。
「ほ~ら!みろ!森さんだって興味持ちはじめちまったじゃねえか!」
「……だーから。今は渚さんを守ることだとかカスミを守ることを考えなきゃいけないんだから女子に構っている暇なんて無いっつの」
別に女子を嫌いだとかってわけじゃなくて、今はやるべきことがあるだろうが。
渚さんは裏の人間から狙われている、そしてカスミだって似たようなものだ。だからこそ近くにいる俺たちが守ってやる必要があるんだって樹だって分かっているだろうに。
「!み、ミットくんミットくん!それはかなりの口説き文句なのでは~!?」
ただ、俺の発言を耳にした森さんは今にもキャアキャア言いそうなぐらいに興奮し始めてしまった。そんな、変なこと言ったか?俺。
「……はぁ!?」
「あなたたち、これから研究所に乗り込んで行こうってときなのに、元気なのねえ……」
少しばかり離れたところから俺・樹・森さんの会話を耳にしていたらしい渚さんとカスミは呆れた顔をしていた。
まあ、場所も場所だし、俺たちがこんなに呑気にしていられることも疑問に感じていたのかもしれない。
「湊くんも樹くんも森さんが加わって楽しそうですよねぇ」
カスミは自分とはまったくタイプの違う森さんが樹と俺と話し込んでいる光景に微笑ましく感じているのかもしれないが、別にカスミが嫌いとかそういうわけじゃないからそこのところは誤解してほしくはないんだよなあ……。
「あ!こらこらカスミん!ここにはナギっち、そしてカスミんもいるんだから!このメンツがいるからこうして賑やかに楽しく過ごすことが出来ているんだからね!?」
お。
森さんも言うときには、ちゃんとしたことを言ってくれるらしい。
そうだ。
この場に、みんながいるからこうして楽しく過ごすことが出来ているんだろう。きっと誰か欠けたりしていたらこのように和気藹々となんて過ごせていないと思う。
「……行くところは、さっきの十五階で良いんだよな?」
「そうね。きっとボブもいると思うし」
エレベーターに乗り込むと迷わずに十五階のボタンを押して上階に向かっていった。
「ボブ……どうしちゃったんだろう?ほんとに私のこと忘れちゃったのならショックで寝込んじゃうよ~」
やはり、森さんとしてはボブのことが気がかりなんだろう。もしくは、本当にボブなのか?と疑問を抱いているのかもしれない。
「……ショックは受けるかもしれないけれど、アンタが寝込むとか想像つかねえなあ」
樹は森さんがいつもこんな明るい雰囲気だからショックだとか、寝込むとかっていうのが想像つかないのかもしれない。
「失礼な!私だって傷付くことがあればそれなりに寝込むことだってあるんだからね!?ふんっ!」
いや、そこで顔を背けられて拗ねられてもなぁ……。でも、一応俺たちよりも年上のはずの森さんが樹の言葉で拗ねるとかっていう光景もなかなかに面白くてついつい失笑してしまった。もちろんそれを目ざとく視界に入れた森さんからはミットく~ん?とじろっと睨まれてしまったけれど、森さんの睨みは全然睨まれているって感じがしないから逆に面白い図になるだけだった。
「さ~て、着いた着いた。先にボブを探すのが先ってか?」
特に何事も無く無事に十五階にやってきたエレベーターから下りると廊下はシン……と静かなのに、施設の部屋のなかではパソコンに向かってあれこれデータと向き合っている人、そして実験をしている人がいっぱいいるんだよな……。
「簡単に探せるのなら、その方が良いのだけれど……まずは、施設を見回ってみましょうか。もしかしたら、樹くんの言っていた研究員たちの違和感っていうものも分かるかもしれないし」
「……なるほどな」
前に見た少女は、無事……だろうか。
もしも見つけたら救出してやるべきだろうか……でも、病院から患者として送られた人だとしたら?本当に治療目的のために何かしら施されていたとしたら、俺たちが下手に手を出せばそれこそ誘拐犯とかに間違われて通報されるんだろうか……。
森さん元気になって良かった良かった!それに歳の違う女性陣がいるとどうしたって意識してしまうのは……樹が健全なのか、それとも湊が他にやることがあるから気にする余裕が無いっていうのが普通なのか……難しいとこですなぁ(苦笑)
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