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40 救出

 所謂、実験室に連れて行かれた俺たちの視界に入ったのは椅子に座らされ、頭には何本ものコードが付けられている人間……子どもがいた。

 だが、目は開いているはずなのにカスミからすると意識や反応が無いらしい……。

 相変わらず電気信号が送られているのかは分からないけれど、近くにいる研究員たちはあれこれ操作をしているが、椅子に座っている人間……小学生ぐらいの子どもは目は開いているというのにぴくりとも反応する気配が見られない。

 コレ……マジで、ヤバい施設だったりするんじゃないだろうか。

 なにが治療のため、だよ。

 ……むしろ、人間を壊す実験をしているんじゃないのか?


「ボブ、これは必要な治療の一環なの?」


 渚さんだって違和感があるだろうに、未だに治療という言葉を用いてボブにたずねている。


「モチロンダヨ!意識ノ無イ人間ニ電気信号ヲ送ッテ、強制的ニ意識ヲ取リ戻サセルンダヨ」


 もちろんボブは何の疑いも無いままに説明してくれているのだが、どうにも怪しい。

 意識の無い人間に刺激を与えて意識を取り戻させるだとかって話なら何となく分からんでもない。それでも、電気信号を頭に送って……害は無いんだろうか。


「……あの子、まだ幼い子どもだよね……」


 カスミは、じっと椅子に座らされている人間……歳は、おそらく俺たちよりも遥かに年下。小学生ぐらいだろうか。


「別に大人を使えってわけじゃないけれど、実験されているのが子どもなのかよ……」


 樹も子どもが実験で大人たちに言いように使われているということに怒りを感じているようで、軽く舌打ちをしている。


「……そっちで、寝かされている人は?」


 実験室は以外と広いようで、人が横になれるベッドもいくつか設置されているようだった。

 そこには、一人が既に寝かされているようで足元がこちらにも見えている。


「今ハ、薬デ休マセテイル人間ダヨ!コノ子ノ実験ガ終ワレバ、次ニ、ソッチノ人間ヲ試スノサ!」


 薬とかも使うのかよ……睡眠薬とかだろうか。

 しかも、この幼い子どもの実験が済んだら次はそっちって……アンタたちホント人間を何だと思っているんだ?実験道具扱いなのかよ。


「つか、……髪型は、ちょい違うけれど……あれ、森さんじゃね?」


 樹の発言に以前に会った森さんの恰好を思い出していった。

 森さんは長い黒髪をツインテールにして結い上げていた。しかし、寝かされている人は長い髪をだらりと流し、そして特徴的だった首元に掛かっているヘッドフォンとかも外されてダボついていた白衣も脱がされてしまっているようだけれど、その人の着ている服は、以前に見た森さんの恰好そのものだった。


「ええ!?」


 カスミも驚きの声を上げていく。

 森さんに連絡が付かなかったのはこういう理由だったのかよ……。つか、渋谷にいるんじゃなかったのか?あの人。

 

「た、確かに……あの細身に、あの恰好は……」


 全体的に線が細く、流行の服を着こなしていた森さん。

 実験に邪魔だと判断されたヘッドフォンとかは今はしていないようだが、やっぱり服装からして森さんで間違いないだろう。


「ン?知リ合イナノカイ?」


 ボブは不思議そうにたずねていくが、それはこっちが言ってやりたいことだった。


「何言ってるの!ボブ、あの子は同じ研究員の一人じゃないの!」


 渚さんも同じ研究員である森さんのことをまさか忘れているんじゃないわよね!?と大きな声を出してボブに詰め寄っていくが、ボブは首を傾げてばかりいて知らないようだった。


「僕トハ、面識ガ無イカラ分カラナイヨー……」


 困ったように眉を下げて応えていくボブ。しかし渚さんからの言葉は止まらなかった。


「な、なに言って……あなたに秋葉原を案内してあげたのも森さんだったじゃないの!」


 なに……?そんな人と面識が無い、だと?

 普通、単なる研究員とかであれば他支部で働いている者同士よっぽど仲良くなけりゃ分からないかもしれないが、渚さんが言うには秋葉原を案内してくれていたのは森さんだったという話らしい。それを、ボブが知らないなんてことがあるんだろうか?それとも……何かがあって、忘れている?


「待って!待ちなさい!ボブ!彼らを止めさせて!」


 幼い子どもの頭部から何本ものコードを取り外していき、ひょいっと小さな体を持ち上げて空いているベッドに横たわらせていくと、次には森さんへと手を伸ばしていこうとしている研究員たち。

 それを見た渚さんは大慌てでボブに止めるように必死になって言葉を掛けていくもののボブは無理無理、と首を左右に動かすばかりだった。


「彼ラハ、実験ノコトシカ考エテイナイヨ……僕ノ言ウコトナンテ聞イテクレナイヨ……」


 同じ研究施設で働いている人間の言葉も通じないのかよ……。

 だったら……。


「ちっ、だったら強行突破でもするか!?」


 樹とはやはり意見が合うらしい。

 軽く拳を握り締めながら気合いを入れて両手を合わせている樹を見るとニィッと口端を上げて見せた。


「……相手はヴェイカントじゃないんだし、適度な力で無力化させるしかないだろうな」


 たぶん例の装置も無所持。そして、研究員ってことは大して体力とか力も無さそうだ。

 だからどうしたって力はセーブしていく必要があるかもしれないけれど、ここで何もせずにいたら森さんがどんな目に遭うか分からない。


「ちょ、二人とも!?」


 施設であまり大事を起こすのもどうかと躊躇っている渚さんだったが、ここで、ただ森さんが実験をされるのを指を咥えて見ていろっていうのか?だったらアンタはそうすれば良い。だが、あいにく俺も樹もこんな胸糞悪い実験を見せられて、ただ黙って見ていられるほど大人じゃないんだよ。


「森さんをあのままにしておけるのかよ!?下手すれば実験の材料にされるんだぜ!?」


 研究員たちの手は止まることはなく、専用の椅子に眠ったままの森さんの体を座らせていくと頭部には何本ものコードを付けようとしているところだった。


「……っ……」


「……止めた方が良いと思います」


 カスミもそう言うし、なにより森さんは知らない人ってわけじゃない。あの電気信号ってヤツがどの程度のモノで頭にどれぐらいの刺激をもたらすものなのかは分からないが、無事で済まなさそうなのは明確だ。


「……分かった。ボブが止めないなら、私たちが入って止めるしかないわね」


 渚さんもやっとやる気になってくれたらしく真面目な顔をしてうん、と頷くと逆に近くで戸惑っているボブには構っていられずに実験室に入り込んでいけば(なんと実験室のドアは無施錠で簡単に開くことが出来てしまった)軽く研究員たちを殴り飛ばしていくと簡単に研究員たちはぶっ倒れてそのまま動かなくなった。つか、手ごたえが無さすぎねえか?……取り敢えず森さんの無事を確認するようにぺちぺちと軽く森さんの頬を叩いていった。


「……森さん、森さん!おい、分かるか!?」


 こういうとき体はあまり揺さぶらない方が良いんだっけか?

 だからこそ森さんの肩を強く掴みながら大きな声を掛けて話し掛けていく。


「……ぁ、ぅ……っ……ミット……く、ん……?」


 最初は静かで、ぐったりと椅子に座らされていたようだったが俺の声が届いたのか、時間を掛けながらもゆっくりと目を開いていくと俺の姿を視界に捉えたらしく、森さんらしいあだ名で俺のことを呼んだことに気が付いた。


「……歩けそうか?」


 取り敢えず意識は取り戻して、会話には不憫が無さそうだ。良かった……。


「……ちょ、っと……無理っぽい、かなぁ……はは……力が、入らなくて……」


 どんな薬を使われたのかは分からないが、どうやら体の感覚がおかしいらしく手足に力を入れたくてもだらり、と下がったまま持ち上げることが出来ないらしい。

 ……まあ、森さんぐらい細身だったらなんとかなりそうだな。


「……分かった。少しの間、辛抱してくれ」


 そう言うと俺は森さんの背と膝裏に両手を回して、お姫様抱っこという形で森さんを抱き上げると急ぎ実験室から出て行った。先ほど実験されていた幼い子どもも多少気にはなったものの、さすがにそちらにまで気を回している余裕は今は無かった。


「お!湊もなかなかやるねぇ!」


 森さんの体は見た目通りに軽くて、とても同じ人間とは思えなかった。

 お姫様抱っこをしている様子を見て樹はヒュゥ!と口笛を吹いてみるが、突っ込んでいる暇は無い。


「急いでここを離れるわよ!」


「ナ、渚!ボ、ボクハ……っ……」


 ボブは、どうして良いのか分からないのだろう……。

 いきなり実験を止められて、どうして良いのか分からないようだ。でも、アンタだって意志のある人間なんだろう?なら、これからどうすれば良いかぐらい分かれよ。


「こちらには、またお邪魔させていただくから、その時ににでもゆっくりお話しすることにしましょう?それまで、……なるべく無駄な実験はしないでちょうだい!」


 渚さんはボブに振り返りつつ一言二言述べていたようだったが、先に施設を……そして、ビルから飛び出していった森さんを抱えた俺と樹、そしてカスミ。少し経ってから渚さんも戻って来たようだった。

 まさか森さん捕まってたの!?危うく実験されそうになるし、危なかったじゃない!!(汗)でも、間一髪!助けてもらって良かったねぇ!


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