38 アキバ支部ノ、ボブ、ダヨ!
上の階から下りてきたエレベーターからは一人の男が……。
だが、渚さんの顔を見て、渚さんも顔を見て反応していたから恐らく知り合いらしい。
「あら、ボブ!」
「渚!!」
上階から下りてきたエレベーターから出て来たのは一人の黒人の男だった。
黒人っていっても、それほど珍しくもなくなってきているし、ハーフだとかクォーターの血を引くヤツとかも身近にいたりするから海外の人が珍しいとは思えなくなってきている。
だが、話は可能なのだろうか?
「知り合いかあ?」
「……っぽいな」
やけに親密そうに渚さんと話を始めたものだから、顔を合わせるのは久しぶりなんだろう。
でも、雰囲気としては和気藹々って感じがしているからそこそこに仲は良いのかもしれない。
でも、同じ職場関連の人間ならここで話が聞けるチャンスだ。
「渚?彼ラハ?」
「えーっと……今、ワケがあって一緒に行動をしている人たちなの」
ちらっと黒人男から視線を向けられ、渚さんも説明の仕方に困惑しているようだったが、まさか狙われている危険がある……とは言えないよな。
「どうもー」
「初めまして」
ぺこり、とカスミが頭を下げていけば、途端に目をキラキラしはじめて興味を持ったらしい。俺や樹にはあまり興味を持っていないようで(まあ不良っぽい俺たちよりもカスミに興味を持つのは普通っぽいか)その目は真っすぐにカスミに向けられてしまった。
「!オオ!金髪美少女ネ!」
「え、私……ですか?」
なんだか次から次へとカスミの名前じゃない違う女の子の名前らしき名を口に出していくが、こちらとしてはちんぷんかんぷんで首を傾げるばかりだった。
「ちょいちょい、アンタなぁ~……」
まともに自己紹介をしないうちからカスミに迫る……迫っているように見えるものだから、とうとう樹がストップを掛けるものの、人間的には穏やかそうな感じだから問題は無さそう……か?
「……一応、日本語は通じるっぽいから平気じゃね?」
この人の言葉は、ちょい片言っぽい感じはするもののしっかりと日本語としては通じているようだから会話そのものには違和感を抱くことは無さそうだ。
「ソノ髪ハ、ウィッグ、デスカ?自毛デスカ!?」
「えっと、自毛……です」
「オオー!ビューティーネ!!」
ウィッグって……まさか、カスミのことをコスプレしている女の子とでも見えたんだろうか?
まさか、秋葉原文化が好きな同僚って……この人?
「いろいろ、ぶっ飛んだヤツっぽいのは分かったけれど、渚さんの同僚……なんだよな?」
森さんもなかなかの個性があったとは思うが、この分だとこの男もそれなりの個性が強そうな気がする。
……渚さんの周りには、個性が強い研究員ばかりが集まっているんだろうか?
「そうよ。ボブ!ちょっと、こっちへ」
「二人トモ、クールガイネ!初メマシテ!ボブ・シュリアン、ダヨ!」
ボブ……と名乗る男は、初対面の俺たちを前にしても特別、眉を顰めるようなこともなく明るく自己紹介をしてきた。
俺や樹は、どうしても不良な素行が多いから遠巻きにしている連中だって少なくはない。だからこそ、何も知らないボブが気軽に自己紹介をしてくれたのは新鮮でもあり、こういうのが普通だったんだな……と改めて考えさせられた。
「……アンタは、ここの研究員なのか?」
森さんは如何にもな白衣を着ていたからまだそれっぽい感じはしていたが、ボブは私服だ。
ジャケットの下に着ているTシャツが秋葉原に来たときに見かけたキャラクターに似ているかも?と思ったけれど、きっと秋葉原文化を楽しんでいる一人なんだろう。
「ソウダヨ!」
「だったら、ちょっとお話を聞きたいのだけれど、今……良いかしら?」
どうやら何処かに向かおうをしていたようだが、それは良いんだろうか?
渚さんもボブの都合が悪ければ出直すつもりでいたらしく一応、都合を聞いてみるが何の問題も無いらしい。
「オーケーオーケー!」
言葉だけでもじゅうぶんに通じるのに、わざわざOKサインを片手で作ってくれるから人との接し方に関してはとても好感が持てる感じがした。
まあ研究員ってことは渚さんと同い年ぐらいか?それなりに人生経験も積んできているだろうから丁寧に、そして穏やかに人と接していることは日常茶飯事なのかもしれない。
「最近、こちらの支部に怪しい人が来たりしていなかったかしら?」
「怪シイ……人?」
いきなりそんな聞き方をするのかよ、と思わず心の中で突っ込んでしまったが、ボブもピンと来ていないらしく首を傾げている。普通、『怪しい人』だなんて聞いても素直に応えるヤツなんているんだろうか?……いないよな。
「研究データを悪用しようとしたりだとか、盗もうとしたりするような人がいたりだとか……」
つまりは普段は出入りしないような連中がいきなり推し掛けて来て、無理にデータをパクろうとしたりだとか、盗用するような怪しげな連中がいないかどうかを聞きたいらしいのだが渚さんの聞き方ってボブにきちんと通じているんだろうか?
「全然イナイヨ!」
ボブは、まったくそれらしい連中は見かけたことも無いのか、顔を横に振って否定してくる。
「?おっかしいなぁ……」
樹も秋葉原支部を何となく気になったからここを選んだと思うのに、ここは何とも無いんだろうか?
樹は一人、腕を組みながら『う~ん』と唸りはじめてしまった。
「……コイツとか、見たことないか?」
仕方なく、スマホを取り出すとこの国の首相の秘書をしており、裏社会のトップ的存在でもある水嶋の画像を用意していくとボブに見せてみるが……。
「テレビデ見タコトアルヨ!」
「……テレビで、か……」
あくまでもテレビを通じて見たことしかないらしく、面識とかは無いらしい。
……樹にしては珍しく、勘は外れてしまったんだろうか。
「普通に研究している施設なんでしょうか?」
カスミもボブは普通の研究員の一人だと思ったらしく、おこなわれている研究もごくごく普通のモノと考え出してしまったらしい。
だが、本当に『普通』で済ませて良いんだろうか……。
「……ボブ。ここでは、どのような研究をしているのかしら?」
そして、ついに渚さんが研究内容について追求していくことになった。
すると……。
「人間ノ意識ニ踏ミ込ムタメニハ、ドウスレバ良イカ……ッテイウ研究バカリダヨ」
意識に?
でも、それってどうやって研究するんだ?データ上だけでおこなえる研究だったりするんだろうか?
「……具体的には?マウスとかで実験するのか?」
マウスを強制的に眠らせるとか、麻酔を掛けさせてそこの意識に潜り込むとかって感じだろうか?
「イヤイヤ!マウスハ、話セナイ!人間ヲ使ウヨ!」
だが、ボブの口からははっきりと『人間を使う』と言った。
「なに!?」
「人体実験ってことかしら?」
「ソウダヨ!」
「待て待て、人体実験ってそんなホイホイ出来るモンなのかよ!?」
いや、出来ねえだろ。
渚さんもようやく警戒し始めたようでじゃっかん怖いぐらいに顔がマジになっている。
「……その人間たちは、何処から連れてきているの?」
「刑務所ヤ、病院ダヨ!」
……ビンゴかよ。
っつーか、病院ってなんだ?
「病院って……まさか、患者を?」
カスミの呟きに、ヒヤリと背筋が冷えた気がしたが……まさか、人攫いでもしているんだろうか。
「?治療ノタメダヨ?」
ボブは、相変わらずけろっとした顔で言って退けている。
ボブは研究の内容を知らないとか……?でも、人間を使っているって口にしていたし……。なんで、こんなに明るいんだ?
「治療~!?」
「刑務所ニ、イル人間タチモ、心ヲ入レ替エテ万々歳ネ!患者ハ、チャント許可ヲ貰ッテイルヨ」
心?
患者たちからは許可も貰っているらしい……と、すれば別に後ろめたいってわけじゃないんだろうか……。
「……どう、思う?」
ちらり、と渚さんの様子を伺うが芳しくない表情をしているし、やっぱりここでは良からぬことをしているのでは……と顔に書いてあった。
「……なかに、見学に入ることは出来るかしら?」
渚さんは自分だけでなく、この子たちも……と俺たちを示しながらたずねてみれば。
「モチロンダヨ~!カンゲイスルヨ~!」
意外にもすんなりとOKを貰えてしまった。
……?それにしても……なんだ、このボブの明るさは。
取り敢えず、許可は貰えたから何をどう研究しているのか、見学させてもらおう……。
どうやらあっけなく許可を貰えてしまったようです。本当に、良いことのために研究をされているのでしょうか?
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