表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/32

夜なべします

 雨粒が落ちる、連続で、耐えることなく。それらが、水たまりに、無数の波紋を描いていた。


 雨の日は嫌いだ。


 湿った空気、その特有の匂い、カビ臭いとでもいうのかしら? それがいや。


 そして、あいつらはしつこい。

 傘をさし、頭上の防御は完璧。水たまりもちゃんと避けた。なのに、服が濡れ、靴の中は湿る。そして、靴の中のモアっとした感覚。びしょっびしょっではないモアっとだ。


 それもいや。


 メアリーちゃんと一緒に王都の商業区に来た。


 今日こそは決める!


 店舗の前で、傘をたたむ。


「あのあの、お嬢さま、やっぱり馬車の方が良いのでは?」

 メアリーちゃんがタオルを差し出してくれた。


 そんなのもらっちゃうと、それーっ!


「わ、わたしよりも、ご自身を、ふ、ふかれてくだしゃい」

「また風邪を引いたら困るでしょ、我慢なさいっ!」

 わあー、たのしいぃ!


「あのぉ、お客さまぁ、入り口前ではちょっと……」

 開いた扉から女性の方が顔をのぞかせた。


 通りの人のクスクスという笑い声。


「申し訳ありません。すぐ、参ります」

 急いでタオルをたたんで、メアリーちゃんに渡す。


 メアリーちゃんは、タオルを広げた。

 顔を赤くした彼女は、上目遣いであたしをにらむ。


 あらあら、怒っちゃった?


「おじょうさまぁ〜」

 両手で広げたタオルを、あたしにかぶせようとする。


「ごめんごめん」

 そして店内へ。タオルは、間一髪かわす。


 結局、なにをプレゼントすれば良いか決められず、ここに来た。


 紳士淑女、御用達のお店。


「いらっしゃいませ!」

 従業員たちが声を合わせた。

 何人いるのかしら?


 メアリーちゃんたらっ、素早い手つきでタオルをたたむと、綺麗なお辞儀を披露した。


「クラリスさま、お待ちしておりました。私が、グランデール商会、王都支部を任されております、ガトーと申します」

 恰幅かっぷくの良いおじさまが、あいさつしてくれた。


 テーブルに案内され、様々な商品を持ってくる。


 どれもこれもなんか……違う。

 せっかくだけど、相談しといてだけど違う。


 買うは何か違う。そういうわけではない。


 あの人の専用武器はあたしじゃ作れない。もう不確かな記憶、幼いころにちゃんとメモをしとけば良かった。でも、いいの、どうせ、あたしじゃ、彼の専用武器は作ることができない、それだけは確実。主人公でもヒロインでもないしね。


 試合の時を思い出す。


 痛いときに痛いと言わなそう、というより聞いたことがない。骨が折れても我慢するのかしら? しそうね。ほんとっ、強がっちゃって、バカなんだから……。多分、いいえ、絶対に言わない。


 なら、決めた。


 材料を店主に伝える。あとは、急いでマーリン先生のところへ。


 間違ってないかは、そこで確認。足りなければ、あとで屋敷に届けてもらいましょう。


 専用武器は無理だけど、きっと役に立つもの。

 そんなものを作ってあげたい。


 裁縫が得意な女中さんに教えてもらいながら、その日から取り掛かった。


 針仕事は初めてで、中々、進まない。

 集中力のいる地味な作業。そういう時、色々と考えてしまう。


 シンディーちゃんの牧場から王都に戻って以来、いろいろあったけど、物騒なことは無かった。公爵さまからも追加の情報はない……。


 これは気にしてもしょうがないわよね。ゲームでいえば、まだチュートリアル、大きく動くことはないでしょう。


 それよりも……。


 つっ!


 指を針で刺しちゃった。指先から血がでて、やがて小さな球状に膨らんでいく。口で吸い、止血の魔法で応急処置。


 集中力を欠いちゃったかな。こういう地味な作業は得意なはずなんだけど……。


 首すじをペロッとなめられた感覚。


 もうっ、こそばゆいわね。


 いつのまにか、肩に現出してた子犬姿のガルムのあたまをぎゅと撫でる。ふわふわと毛並み、そのまま、ほほに寄せると気持ちいい。


 あたしの手をのがれ、彼は耳元へ。そこに、息がふきかかる。湿った鼻を、さらに密着させてきた。


 お願いだから、もうっ、と手をそこにやる。


 ただ、なんとなく、彼が、あたしに何かを言った気がした。


「そう、ならおねがい」

 手が彼の毛にふれる。いつもの柔らかな感覚、それは一瞬。


 ガルムは、もう消えていた。


 ランスロットに帰ってくるようにお願いしたけど……。


 実は、あまり期待していない。

 だって、きっとそうよ。


 数日後、やっと完成しました。


 間に合いました。あたしってえらい!


 早速、ジャジャーンとメアリーちゃんに披露!


「お嬢さま、流石です」

 フンフンと彼女は絶賛してくれる。


「でしょ? でしょ?」

「です、です、すごくカッコいいです」


 これは、久しぶりに『ほめたら伸びる子』が来たんじゃないかな? あたしの裁縫スキル、ガンガン伸びたんじゃないかな?


 失敗して不細工になりそうになったけど、何度も修正して、納得の出来栄えです!


 ちょっと厨二ぽいけど、きっと、あの人、こういうの好きよ!


 清々しい朝ね!


 今日が、あの人の誕生日、居場所は……。


「お嬢さま……」

 遠くでメアリーちゃんの声が聞こえた。


 次の瞬間、ベットの上で目を覚ました。

 起きて窓の風景を見る。


 雲が赤みかかっていた。庭は、屋敷の影になって暗い。


 あらっ、もう夕方……。


 準備してた紙袋にプレゼントを入れる。

 あわてて部屋を飛び出た。


「あのあの」

 引き止めようとしたメアリーちゃんを無視。


 ごめんなさい、急いでるの!


「お嬢さまぁーー! お着替えしないと、パジャマのままですぅーー!」


 パジャマ?

 あらやだ、ほんとっ!


 でも、急がなきゃ!


 でもでも……。

 あーん、もうっ、今日が終わっちゃうわ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ