夜なべします
雨粒が落ちる、連続で、耐えることなく。それらが、水たまりに、無数の波紋を描いていた。
雨の日は嫌いだ。
湿った空気、その特有の匂い、カビ臭いとでもいうのかしら? それがいや。
そして、あいつらはしつこい。
傘をさし、頭上の防御は完璧。水たまりもちゃんと避けた。なのに、服が濡れ、靴の中は湿る。そして、靴の中のモアっとした感覚。びしょっびしょっではないモアっとだ。
それもいや。
メアリーちゃんと一緒に王都の商業区に来た。
今日こそは決める!
店舗の前で、傘をたたむ。
「あのあの、お嬢さま、やっぱり馬車の方が良いのでは?」
メアリーちゃんがタオルを差し出してくれた。
そんなのもらっちゃうと、それーっ!
「わ、わたしよりも、ご自身を、ふ、ふかれてくだしゃい」
「また風邪を引いたら困るでしょ、我慢なさいっ!」
わあー、たのしいぃ!
「あのぉ、お客さまぁ、入り口前ではちょっと……」
開いた扉から女性の方が顔をのぞかせた。
通りの人のクスクスという笑い声。
「申し訳ありません。すぐ、参ります」
急いでタオルをたたんで、メアリーちゃんに渡す。
メアリーちゃんは、タオルを広げた。
顔を赤くした彼女は、上目遣いであたしをにらむ。
あらあら、怒っちゃった?
「おじょうさまぁ〜」
両手で広げたタオルを、あたしにかぶせようとする。
「ごめんごめん」
そして店内へ。タオルは、間一髪かわす。
結局、なにをプレゼントすれば良いか決められず、ここに来た。
紳士淑女、御用達のお店。
「いらっしゃいませ!」
従業員たちが声を合わせた。
何人いるのかしら?
メアリーちゃんたらっ、素早い手つきでタオルをたたむと、綺麗なお辞儀を披露した。
「クラリスさま、お待ちしておりました。私が、グランデール商会、王都支部を任されております、ガトーと申します」
恰幅の良いおじさまが、あいさつしてくれた。
テーブルに案内され、様々な商品を持ってくる。
どれもこれもなんか……違う。
せっかくだけど、相談しといてだけど違う。
買うは何か違う。そういうわけではない。
あの人の専用武器はあたしじゃ作れない。もう不確かな記憶、幼いころにちゃんとメモをしとけば良かった。でも、いいの、どうせ、あたしじゃ、彼の専用武器は作ることができない、それだけは確実。主人公でもヒロインでもないしね。
試合の時を思い出す。
痛いときに痛いと言わなそう、というより聞いたことがない。骨が折れても我慢するのかしら? しそうね。ほんとっ、強がっちゃって、バカなんだから……。多分、いいえ、絶対に言わない。
なら、決めた。
材料を店主に伝える。あとは、急いでマーリン先生のところへ。
間違ってないかは、そこで確認。足りなければ、あとで屋敷に届けてもらいましょう。
専用武器は無理だけど、きっと役に立つもの。
そんなものを作ってあげたい。
裁縫が得意な女中さんに教えてもらいながら、その日から取り掛かった。
針仕事は初めてで、中々、進まない。
集中力のいる地味な作業。そういう時、色々と考えてしまう。
シンディーちゃんの牧場から王都に戻って以来、いろいろあったけど、物騒なことは無かった。公爵さまからも追加の情報はない……。
これは気にしてもしょうがないわよね。ゲームでいえば、まだチュートリアル、大きく動くことはないでしょう。
それよりも……。
つっ!
指を針で刺しちゃった。指先から血がでて、やがて小さな球状に膨らんでいく。口で吸い、止血の魔法で応急処置。
集中力を欠いちゃったかな。こういう地味な作業は得意なはずなんだけど……。
首すじをペロッとなめられた感覚。
もうっ、こそばゆいわね。
いつのまにか、肩に現出してた子犬姿のガルムのあたまをぎゅと撫でる。ふわふわと毛並み、そのまま、ほほに寄せると気持ちいい。
あたしの手をのがれ、彼は耳元へ。そこに、息がふきかかる。湿った鼻を、さらに密着させてきた。
お願いだから、もうっ、と手をそこにやる。
ただ、なんとなく、彼が、あたしに何かを言った気がした。
「そう、ならおねがい」
手が彼の毛にふれる。いつもの柔らかな感覚、それは一瞬。
ガルムは、もう消えていた。
ランスロットに帰ってくるようにお願いしたけど……。
実は、あまり期待していない。
だって、きっとそうよ。
数日後、やっと完成しました。
間に合いました。あたしってえらい!
早速、ジャジャーンとメアリーちゃんに披露!
「お嬢さま、流石です」
フンフンと彼女は絶賛してくれる。
「でしょ? でしょ?」
「です、です、すごくカッコいいです」
これは、久しぶりに『ほめたら伸びる子』が来たんじゃないかな? あたしの裁縫スキル、ガンガン伸びたんじゃないかな?
失敗して不細工になりそうになったけど、何度も修正して、納得の出来栄えです!
ちょっと厨二ぽいけど、きっと、あの人、こういうの好きよ!
清々しい朝ね!
今日が、あの人の誕生日、居場所は……。
「お嬢さま……」
遠くでメアリーちゃんの声が聞こえた。
次の瞬間、ベットの上で目を覚ました。
起きて窓の風景を見る。
雲が赤みかかっていた。庭は、屋敷の影になって暗い。
あらっ、もう夕方……。
準備してた紙袋にプレゼントを入れる。
あわてて部屋を飛び出た。
「あのあの」
引き止めようとしたメアリーちゃんを無視。
ごめんなさい、急いでるの!
「お嬢さまぁーー! お着替えしないと、パジャマのままですぅーー!」
パジャマ?
あらやだ、ほんとっ!
でも、急がなきゃ!
でもでも……。
あーん、もうっ、今日が終わっちゃうわ!




