氷面鏡《ひもかがみ》
ランスロットの初動。
それだけで、この突きの勝機は消えた。
なら、彼の上段からの振りをかわす?
それは悪手。
相打ち上等!
このまま進め! どうせ最初から、その覚悟よ!
そして、彼の上段に、突きは、弾かれた。そのままの勢いで右側面を狙う。
これは多分読まれてる。それからの、二撃、三撃も、簡単に対処された。
刃が重なるたび、力負けをしてしまう。それは、不利だけど、悪いことではないわ。受けきれない分をどこへ流すか、『六花』の位置、そして体勢を次につながる形へ。
彼に近づき、そのそばの、懐の内側を狙う。
やっぱり強いな。
距離をとった。息の乱れは、あたしの方がひどい。
ランスロットの位置は、初撃をぶつけた時と、ほぼ同じ……。
あの人、ちょっとズルくない?
「あたしのことを、覗いてたんでしょ?」
そういえば、セバス爺が、ランスロットは、あたしの剣の稽古を知っている、と言ってた。
あたしは、彼の稽古は、見れなかったのにぃ〜。
ズルい!
あら、あらあらあら?
顔を赤くしちゃって、怒っちゃった?
「お、俺は、風呂なんか覗いてない!」
「ウソをおっしゃい! セバス爺は、してたって言ってたわよ!」
あたしの稽古を、のぞいてたから、剣の癖を知ってるのよね?
「それは違う!」
「何が違うのよっ!」
全然、男らしくない!
「お、お、俺は、ちょっとしか見てない!」
「いいえ、ぜんぶですぅ」
そうじゃなきゃ、ぜったい、おかしいもん!
「はだかなんか見てない!」
「はだか……」
稽古は、全裸でしないわよ。それじゃ、ヘンタイじゃない?
「それは、着替えのちょっと。下着だけだぁ」
だぁー、だぁー、だぁーと脳内でリフレイン……。
なんか、ボソボソと「セバスの奴がぁ」とか言っちゃってる?
風呂、のぞき、着替え、のぞき……。
男子、さいてえーー!
怒りで頭に血がのぼり、大きな声が上手に出ない。
「ランスロットのばかっ!」
と小さな声、余った空気で、ほほを膨らます。
本当は、ポカポカとぶん殴りたい。
氷結でランスロットの全身を凍らす? でも、絶対、レジストするわよね……。
なら!
「うわっ、あぶねぇなあ!」
ちっ、避けたか……。
尖らせた氷柱を、彼のすくぞはで現出させた。
なんて、勘のいい、ヘンタイなのかしら?
「観念して、罰を受けなさい! ヘンタイ!」
「バーカ、お前のいちごパンツなんか興味ねぇよ!」
バカッ、そんな大声で叫ぶな!
「『氷の姫君』のパンツは、いちごパンツ」
こんな時だけ、しゃべるな観客!
「それは、十一歳の時のパンツよっ!」
あたしたらっ、大馬鹿!
「十一歳……」
「いちごパンツ……」
「なんて、可愛らしい!」
だから、繰り返さないでよ!
恥ずかしくて、泣きそうよ!
「責任とって、一発くらいなさい!」
「やだね! お前は、国へ帰れ!」
分からずや!
パンツ見たんだから、当然でしょ!
絶対、剣で殴ってやるんだから!
落ち着いて冷静に考えて。
ランスロットは、ほとんど動かずに、あたしをやり過ごした。
それは、あたしの癖を見て、先を読んでいるかのよう。稽古は……。着替えを、のぞかれたなんて知らなかったわ! セバスの奴、あたしに黙ってたわね!
「許さないんだから!」
「それは、ごめん……」
ランスロットのお仕置きは、今から。セバスだって、あとでとっちめてやる!
『六花』の持ち手に埋め込まれた宝石に魔力を集中。杖としても使えるサーベルなのよね。
あなたが、あたしにくれた剣。それは、あたしをもっと強くしてくれる。
宙に氷の板を作り出す。鏡のように景色を写す氷。マーリン先生は『氷面鏡』と名づけてくれた。
これを数十枚、ランスロットを囲むように現出させる。
「君は、器用なんだな」
また、そのキモい言葉遣い。
彼は、鏡を割ろうと剣を振るう。それは盾のように、剣を弾いた。
「その『氷面鏡』は、頑丈よ」
鏡を動かしながら、気配を殺すようにして、あたしは位置を変える。
「それと、あたしの名前を忘れたの?」
これは、あなたの混乱を誘うため。
位置の予測を狂わせるのが狙い。
そして、本音なのよ……。
鏡には、戸惑う彼が写る。数十枚の宙に浮かぶ『氷面鏡』は、万華鏡のように、あたしとランスロットを写していた。
反射の角度を調整するのはあたし。
彼も彼で、忍び足を駆使して動いているようだけど……。
無駄よ!
この空間の景色は、あたしが支配をしている。
剣撃の予測は、どこでする。
構えや体勢、それに視線、そしてわずかな挙動。
あたしは、それでする。
セバス爺は、自然にそうなるよう、幼い頃は、少し大袈裟に、最近は、そうね、隠すようにヒントを、それらで与えてくれた。
心の目で読む。なにそれ、夢でも見てるの? って感じよ!
氷一枚を隔てて、彼の背後。
それをずらして、あたしは上段から彼へ剣を振るう!
なんで?
彼は振り向きもせず、正確にそれを防いでくる。
次も、また次も、その次も……。
あらゆる角度から、思いつく限り、それでも簡単に防がれる。
まるで、全てが見えているかのように……。
「クラリス、僕も本気を出すよ」
名前を呼ばれた……、いつ以来だろう。
「剣神の加護を使う。これで、終わるなら、あきらめてくれ」
やだ、よそ見をしちゃった!
きゃっ!
まぶしい光、なにも見えない。
こんなので、終わりたくない!
距離を取らなきゃ!
全ての『氷面鏡』は消えていた。
神さまの加護は、やっぱ違うわね……。
「鏡なんか無駄だよ。そんなもの、僕には、加護があるから透けて見えている」
透けて見える?
「大きくなったんだなクラリス」
彼は、まっすぐ、あたしを見つめた。
透けて見えて、大きくなった?
とりあえず、胸を両手で隠す。
最近、胸の成長がいちじるしいと思うの。
そして、もう、あきれるしかないわね。
「ランスロットのえっち」
剣神の加護なんてウソよ。
このエロ神。
「バカッ、強いってことだよ」
はいはい、おっぱい最強説ですか。
そうですか、そうですか。
男って、大抵そうよね。
「ランスロットのえっち」




