襲来
「ここで迎え撃ちます。お嬢さまは、シンディーさまのそばを離れないように」
セバス爺が剣を抜いた。
手に意識を集中。氷剣が型どられるまでが、もどかしい。
シンディーちゃんの誘拐を思い出した。
でも、犯人たちは、きっちりと処刑されたんじゃ……。
生暖かい空気が頬を撫でた。
辺りの風景が一変する。
そよ風が揺らす、木漏れ日や葉音は、きっと、さっきまでと同じ。
冷静な部分は、そう声をあげ、感情は、それを否定する。それは潜み近よる、何者かの仕業だと訴えた。
足音?
影が動いた?
そして、セバス爺の叫び声!
「来ます!」
「白髪の女を狙え! あとは、無視しろ!」
相手の動きが、はっきりと見える?
そして、白髪ってなによっ!
せめて、銀髪て呼んで!
ランスロットが試技で相手した人より弱いくせにっっ!
落ち着いて、呼吸を整えて!
それぐらい、あなたたちの動きは、隙だらけなのよ!
首を狙って水平に振られた剣を、少し屈んでかわす。左脇腹に迫ってきた突きは、後方へ下がり空を突かせた。その際、シンディーちゃんの肩を手で押して、彼女のイチを微調整。
セバス爺の方は?
もう、仕留めたのね。
「おい、この白髪の女、聞いていたより動くぞ!」
失礼ねっ!
「あたしのことを、元気なおばあちゃんみたいに、言わないでっ!」
ふところへ入る。
この人たちの剣は怖くない。ちゃんと見えている。しっかりとやり過ごすことも出来る。
拳で、みぞおちを叩く。
誰かが呼んだ?
その方向から、炎が飛んでくる気がした。
だから、宙に魔力で壁を築く。
やったっ! ビンゴッ!
空気に含まれる湿気を凍らせた壁が、炎を防いでくれた。
薄氷の壁は、すぐに砕け、キラキラと陽光を反射しながら風に流された。
応援にきたセバス爺が、さらに二人を斬ったところで、襲撃者たちは、森の奥へと逃げ込んでいく。
セバス爺が剣を収める。
「お嬢さま、逃がしましたね」
「そうね」
逃げられちゃった。
「あ、あなた、なかなか、やるわね」
シンディーちゃんたらっ、引きつった顔で、オホホホは、やめなさい。
セバス爺がため息をついた気がする……。
「出来ないことは、叱りません。今は、無事を喜びましょう」
な、なぁにー、セバス爺たらっ、かわいくない。
ちゃんと出来てたわ。シンディーちゃんを危険の位置からずらしたり、いろいろと、やれてたわ!
そりゃ、経験豊富なセバス爺から見たら、いろいろ不手際があったかもだけど……。
もっも、ほめてくれていいと思う。だって『ほめたら伸びる子』なんだからねっ!
その後、セバス爺が慎重すぎるせいで、予定より時間が経ってしまった。
年寄りのなんちゃらは、イヤね……。
道中、あれやこれや、おしゃべりをする内に、彼女は、牧場の娘になっていく。すごく楽しそうな彼女を見ていると、あたしの不満も薄れていく。
そして、「出来ないことって何かしら?」とセバス爺に聞いてみた。
「それが、出来るようになって頂きます」
とだけ、彼は答えた。
風景が、オレンジ色で支配されていく。
一日の終わりが近い。
この時間帯になると、時々思い出す。家々から香る夕飯の匂い。そこから、漏れ出す談笑の声。「早く帰らなきゃ」と急ぐわたし。
死は、ずっと来ないと信じていた幼い頃の記憶。
転生前の遠い遠い、消えてゆく風景。
死は、確かに、この身に降りかかり。あたしは、もの心ついてからずっと「死にたくない」と願っている。
夕暮れ時の日暮れ前に、シンディーちゃんの養父母が営む牧場に着くことができた。
「ラウル! リアラ! ルルル! エアロ!」
シンディーちゃんが柵を跳び越えた。
彼女を、出迎えたのは五匹のワンちゃんだ。
「もうっ、みんな、やめて!」
わあ、もみくちゃにされちゃってっ!
ちょっと、うらやましいわ!
「あら、あなたは行かないの?」
寄ってきた一匹のワンちゃんの頭をなでなで。彼? 彼女? は、あたしの手を一回、ぺろってなめてくれた。
杖をついたご老人が一人、お爺さまが、こちらへやって来た。
その姿は、あたしの想像より、遥かにご年配。
そんなご老人が、杖を捨て、シンディーちゃんに駆け寄った。
二人が抱き合う様子を、ワンちゃんたちは、尻尾をフリフリ、邪魔をしないで、ずっと見ている。
その光景は、とても尊く、あたしは、それだけで満足できた。
家に案内され、そこで、彼女の養母はベットに寝かされていた。
なんとなく、公爵さまが、この機会を利用した事情が理解できた。でも、それは、頭の中でも言葉には、したくない。
だって、あんなに嬉しそうじゃない。
きっと、ずっとずっと、先よ!
それは、来ないわ!




