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狼の声

 どこかで見た風景。


 あたしが王都で暮らしている屋敷とは違う。

 高い壁に囲まれ稽古で荒らされた庭は、芝が、かろうじて生えている程度だった。


 だから、このお屋敷は、かわいくて趣味がいい。

 理想のお屋敷、そして、見たことがある初めて。


 この世界は、もっといい加減で間違いだらけの異世界だったはず。それは、忘れたことはない。


 転生して十二年、そして、その知識は、十二年も前ということ……。


 お庭で椅子に腰掛ける。


 ここに来てから、シンディーちゃんの口数が少ない。


 緊張かな? と思う。


 少し高台となったそこは、テラスのようになっていて、お庭の花園を一望できる。


 色鮮やかな小鳥が、岩の上で羽繕はづくろいをしていた。小さなお顔を左右に一回、小刻みに揺らすと空へ羽ばたく。


 クレセント家当主、ロイ・クレセント公爵がいらした。


 腰をあげ、椅子から離れてご挨拶。


 彼は、型通りのあいさつをすると娘をまず抱きしめた。


 そして、公爵さまは、こっちを見てから、彼女の耳元でささやく


「相手は、辺境伯のご令嬢だ。田舎娘に、我が家を自慢して差し上げなさい」


 おーい、聞こえてるぞ。


 でも、その魔法の言葉で、シンディーちゃんの表情が、パァーッと、色鮮やかに花開く。


 満開の笑みを見せてくれた後、オホホホと笑ってくれた。


「この花園は、あたくしが手入れをしてたのよっ! 泣いて、喜びなさいっ!」

 フンと鼻から勢いよく勢いを出す彼女。


 とても抱きしめたい。


 でも、がまん、がまん。


「さあ、初めて案内をしてあげる。ついて、らっしゃい!」

 シンディーちゃん、ナイス!


 これで、公爵さまから離れられるわ!


 花園へと降りると、彼女は、両手を包むようにして、あたしの目の前に差し出してきた。


 ああ、なんかデジャブ……。


 その手を、開くまでは想像通りね。


 きゃっ!


 バッタがそこから跳ねてきた。あたしの鼻に着地。

 目を寄せてそこを見ると、バッタと目が合う。


 嫌がらせのつもりかな?


 なんて可愛らしいいたずら。六歳のランスロットみたい。


 えいっとバッタをつかんで、彼女に渡す。


 ふん、こっちは、昆虫と野山に住む小さな爬虫類には慣れてるのよっ!


 その後、二人とも少し泥だらけになったので公爵さまに叱られちゃった。


 それでも、数日、ここで滞在することになった。


 馬車と徒歩で目的地に向かう。


 人数は、三人。

 セバス爺とシンディーちゃん、それに、あたし。


 森を徒歩で抜けると目指す場所に着くらしい。


「メアリーちゃん、大丈夫かしら?」

 公爵さまのお屋敷に残したメイドの彼女が気になった。


「客人として扱うはずです。良くも悪くも、貴族とはそういうもの」

 どういうものよ?


 でも、あの、公爵さまなら、大丈夫そうね。


「剣聖といっても、守れる者には、限りがある。殺すより、生かす方が難しい」

 セバス爺の腕でも、二人が限度ということかしら……。


 セバス爺以外、身分は隠すことになっている。

 それが、シンディーちゃんと養父母のためということ……。


 ん?


 オホホホ!


 シンディーちゃんは、とても元気。「あたくしは、山道は、初めてですのよ」と馬車の中で繰り返していた。


 ここに来て、さらに元気。


「ご覧なさい。スフルの実がありましてよ」

 彼女が指差す方、土手の上に、小さな赤色の実をつけた植物が生えていた。


 正直、雑草にしか見えよぉ!


「わたしくしが詰んでまいりましょう。感謝なさいっ」

 彼女たらっ、手足を上手に動かして、ズドドドと土手を駆け上がって、スフルの実を沢山、持ってきた。


「ほら、食べるよろし」

 なぜ? 片言かたことなのよっ!


 指でつまめる大きさの身は、触るとプニッとしていた。


 すっぱそうと思い、一気に口へ。


「甘いっ!」

 そして、


「にっがーいっ!」

 だから、もう一口、スフルの実を口へ運ぶ。良い意味でくせになる味ね。


 シンディーちゃんは、楽しそう。


「にがい、にがい」

 とはしゃいでいた。


 ふと、狼の遠吠え? が聞こえた気がした。


「今、何か、聞こえなかった?」

 シンディーちゃんは、キョトンとし、セバス爺は、

「良からぬ、気配がいたします」

 と返事した。


 遠吠えはそら耳だったのね。でも、セバス爺には同意だわ、あの声は「警戒」を告げていたように聞こえたんだから……。



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