2話 デスゲームなんて俺には関係ないね!!
「うおおおおおおおおお!!」
目の前には、豊かに木々が生えている草原に、見たこともないような幻想的な色をしている空が広がっていた。
「異世界、キタァアアアアア!!」
まぁ実際はゲームだが。
「さて、ヴァルキリーさんはと」
……お?目の前が光り輝き、その光の中から一人の女性が出てきた。その姿はとても俺の語彙力じゃ言い表せないほど綺麗だった。
「……」
「––––。––––」
「うぇ?」
ヴァルキリーが口を開き、何かを言ったが、全く聞き取れなかった。
その時、ポーンと頭の中に音が鳴った。
『先程ぶりです。私、サリアはこの世界での一週間、カズマ様にこの世界のルールや妖精のことを解説させてもらいます』
「それは……ありがたいな。早速だが、何故俺はこの子の声が、聞こえないんだ?」
『それは信頼度が足りないからです。一緒にいることで、日々信頼度は上がっていくかもしれません』
「かもってどういうことなんです?」
『それは考えて下さい』
「そですか」
それにしても、綺麗だな。無装飾ではあるが、黄金の鎧に、ウェーブのかかった長い金髪。白く、美しい肌に、透き通るような青い瞳。
やっぱり似ている。忘れられないあの子に。代わりとは違うけど、大切にしたいからこそ、俺は名付ける。
『とにかく、まず名前を付けて下さい』
「アリスだ。ありきたりな名前かもしれないが、これは俺にとって最も大切だった人間の名前だ」
『だった……?』
「気にしないでくれ」
『……必要以上に干渉はしませんから、大丈夫ですよ?』
「あぁ」
『では。ヴァルキリーの名前を書き換えましたので、ステータスを確認して下さい。これで良ければ決定します』
「ん。大丈夫だ」
『では決定です』
「今日からよろしくな、アリス」
「––––」
やはり何を言っているのかわからないが、彼女は笑って頷いてくれた。
それから俺達はサリアさんに案内してもらいつつ、始まりの街、フェアリータウンに来ていた。
「すげぇな、こりゃ」
人がゴミのようだ。とまでは言わないが、かなりごった返している。だが、その賑わいは、田舎育ちの俺では見た事のない賑わい方で、凄く楽しそうだ。
「––––」
「行こうか、アリス」
「––––」
アリスが興味津々といった様子で、目を輝かしていたので、ゆっくり街を見て回ることにする。
「––––!––––?」
「おいおい、あんまり離れないでくれよ?俺だって来たばっかなんだからよ」
「––––!!」
今のはなんかわかった。何もわからないが、「はい!」って言った感あった。ヤバいすっげ可愛い。
「––––」
「––––」
ふと見ると、プレイヤーの妖精同志が全然わからない言葉で会話している。
一匹はオレンジ色の狐、もう一匹は黄色いリスのようだ。やっぱ普通の奴はこういう妖精を選んでるんだな。
「––––」
「おおう?」
不意にぐいっと掴まれ、そのまま一つの露店の前に連れ出された。
「––––!」
「ん?何々?。ペンダントか。欲しいのか?」
「––––!」
コクンと頷き、眩しいくらいの笑顔を浮かべているアリス。
「なぁおっちゃん!これ、いくらだ?」
「ん?おお!そりゃミミックからドロップしたブラックオパールだな。そうだなぁ。見たところ、初心者っぽいし、二万くらいでどうだ?ミミックはこの辺のダンジョンじゃ、滅多に出ない上に、ブラックオパールは超レアアイテムだ。これなら破格の値段といってもいいだろう」
「二万か……」
右を見るも、買ってもらえることを信じて疑わないといった感じのアリス。前を見れば、早く買え、買ってしまえ!!って感じの態度のおっちゃん。
「金、全然足らねぇ……」
最初に支給されている額は3000G。どう考えても無理だ。だが、この子の期待を裏切るのもなぁ。
「サリアさん、どうしよう?」
『?……お金ですか。サービスで30000Gをあげますよ。その代わり、そのブラックオパールは買わないで下さい。品質も悪ければ、付加能力も無いですし』
何そのサービス。嬉しいけど後で色々請求とかしないでくれよ?
「あ、そうだ。鑑定」
「なっ?!」
おっちゃんが目に見えて狼狽えている。
ブラックオパールのペンダント
宝箱やミミックからドロップする宝石の一つ。
品質は悪め。能力なし!使えないな!この装備!アリスにはもっと高い物を買ってあげたい。
「ちょっと、この説明、悪意があるような……」
『それはですね、鑑定の際出てくる説明文がその鑑定した本人が一番読みやすい文章に変化するからなんです』
「––––?」
「へぇ」
アリスが買ってくれないの?みたいな不安そうな視線を俺に送ってくる。
「すまん。アリス。俺の言葉がちゃんと伝わっているかわからないが、この宝石は買えない。質が悪いんだ。俺は君にもっと良い物を買ってあげたいからさ」
「にいちゃん、それはひでーよ……」
ガックリと項垂れているおっちゃん。まぁそれはいいや。ぼったくろうとしてたわけだしな。それよりも、だ。
「……」
ちょ、ショボンってしちゃってるよ。くっそ〜。可愛いし。なんかねぇかな。ひたすら鑑定してくか。
ブラックパールのネックレス
屑。
パールの腕輪
却下。ダメダメ。
フェアリークリスタルのネックレス
これはちっと良いかも。綺麗だし。光の加減によっては七色に変化する。
全属性耐性小上昇。
これは……いいんとちゃう!?
「おっちゃん!これ5000Gてなってるけど、買っていい!?」
「ん?あぁ!毎度あり!」
俺はネックレスを持ち、しょんぼりしているアリスの首に付ける。そして顔を上げたアリスに言った。
「今回はそれで我慢してくれないか?金が溜まったらもっと良い物プレゼントするからさ」
「––––!!」
「うをぁ!!」
うをおおおおお!鎧邪魔!鎧邪魔だぁああああ!!あれだ。抱き締められた。すっげ笑顔で抱き締められてるんだが!鎧邪魔なんだが!わかるだろ!?このやましい感情!わかってくれよ!!
「––––––––!!」
『少しだけ通訳しましょうか。約束ですよ!ありがとうございます!……だそうですよ』
「サリアさんナイス!そしてアリスちょっと迷惑になってるからそろそろ、やめような!?」
「––––」
あぁっ再び表情が!!も〜。
「よし!今度はアリスの服買おう!なっ?なっ!?」
「––––!」
『ふふ。他のプレイヤーの皆さんも、同じような方なら良いのに……』
俺とアリスが店の前でいちゃついて、おっちゃんが迷惑そうに顔をしかめる中、サリアさんがなんか呟いていた。楽しみ方が違うのかね?まぁ俺の目的は半分くらい達してるようなもんだから、気楽なもんよ。
あれから大体二時間。アリスの服買って、飯食って、広場で二人座って、話(かなり一方通行というか最早ジェスチャーで会話)をしていると、ポーンと最早恒例の音が頭に響いた。
『GM様からの御言葉です』
なんだ?メンテナンスか?急な放送に周りもがやがやし始めてる。
「––––?」
「なんでもないよアリス。ただ、この世界の神様みたいな人から連絡が入ったんだよ」
「……」
「あれ?どうしたんだ?」
アリスが一瞬顔をしかめた。そこで、衝撃の一言がGMから発せられた。
『このFSOは、俗に云う、デスゲームとなりました。嘘ではありません。このゲームをプレイ中のプレイヤーの方はもう元の世界に戻ることはできません。このゲームは元々、生きるということを知るために作ったゲームです。プレイヤーの皆様には生きる喜びや幸せを存分に噛み締めて生活して頂きたい。また皆様の身元は各自調べて、病院へ送らせて頂きました。なので当分死ぬことはありません。安心して下さい。ちなみに、このゲームをクリアするには、二種類の方法があります。他人を殺して、プレイヤーを十人まで減らすか、FSO最終ボスを倒すかです。何を選ぶかは貴方方次第。では引き続き、FSOをお楽しみ下さい』
ふーん。デスゲームかぁ。アレだろ?ログアウトできなくて、尚且つモンスターに殺られると、現実でも死んじゃうってやつ。ログアウト……あ、ほんとにできねぇじゃん。
「このこと、わかってたんだな?アリスは」
「––––」
コクンと一回、頷いた。その横顔はとても辛そうで、本当に悲しそうだった。妖精は元々知ってて、騙してたって感じなのかな?
「気にしなくて良いよアリス。俺は、この世界で君と生きるって決めてたんだ。デスゲームになろうがそんなのはどうだっていいんだ」
「––––!?」
アリスが驚愕し、その後に疑問を浮かべるように、首を捻った。
「今日会ったばかりでわからない事だらけだろうけど、俺は、君が大切で……本当に幸せにしてあげたいんだ」
それが俺の自己満足だろうと。
「アリス?」
今度は優しく抱き締められた。鎧が硬いのは悲しいが、触れている手が暖かくて、どことなく幸せな気分になった。
が……。
「超!!うるっ!せぇ!な!お前らぁ!!!!」
周りは阿鼻叫喚の地獄絵図である。
「ログアウトできねぇ!やべぇ!」
「やだやだやだやだぁ!私、こんな所で死にたくないよぉ!」
「ざっけんじゃねぇよ!!俺には三つの娘と嫁がいるんだぞ!?どうしてくれるんだ!!」
でもま、それが普通か。
これがFSOが始まって一週間。そして、俺のFSO初日の出来事である。