第四十一話 王女さまのおやすみの日
朝のネコネコランドは、やわらかな日差しに包まれていた。
花壇には色とりどりの花が咲き、小鳥たちの歌が風に乗って聞こえてくる。
広場では、チャイが元気いっぱい走り回っていた。
「今日も遊ぶにゃーーー!」
その声に、シロップが駆け寄る。
「鬼ごっこする?」
「するにゃ!」
そこへリオン、ルナ、マロン、インクも集まってきた。
リオンは辺りを見回した。
「あれ? ミルクは?」
いつもなら、朝一番にみんなへ笑顔であいさつをしてくれるはずだった。
チャイはお城の方を向いて胸を張る。
「ぼくが呼んでくるにゃ!」
勢いよく走っていったものの、しばらくすると慌てた様子で戻ってきた。
「大変にゃ!」
「ミルクがいないにゃ!」
「えっ?」
「お城にもいなかったにゃ!」
みんなは思わず顔を見合わせる。
王女さまがお城にいないなんて、めったにないことだった。
「探しに行こう。」
リオンのひと言で、みんなは町へ向かった。
パン屋さん。
魚屋さん。
月のしずく図書館。
にぎやか通り。
会う猫みんなに聞いてみるけれど、誰もミルクを見ていない。
チャイは耳もしっぽも、しゅんと下がってしまった。
「どこへ行ったにゃ……」
そのときだった。
「……あそこ。」
インクが町はずれを見つめる。
視線の先には、小さな花畑。
大きな木の下で、白い猫が静かに座っていた。
「ミルク!」
チャイが駆け出そうとした瞬間、リオンがそっと肩に手を添えた。
「待って。」
ミルクの向かいには、一匹のおばあさん猫が座っていた。
おばあさん猫は、ゆっくりと昔話をしている。
若かったころのこと。
大好きだった家族のこと。
もう会えなくなった友だちのこと。
今日は、亡くなったおじいさんの命日だということ。
ミルクは何も話さず、ただ優しくうなずきながら耳を傾けていた。
風が花を揺らす。
鳥のさえずりだけが静かに響き、そこには穏やかな時間が流れていた。
やがて、おばあさん猫は少し照れくさそうに笑った。
「ありがとう。」
「今日は誰かに聞いてもらいたかったんだ。」
「話していたら、おじいさんがすぐそばで笑っている気がしてきたよ。」
ミルクも優しく微笑む。
「また、いつでもお話を聞かせてくださいね。」
おばあさん猫は何度もうなずきながら帰っていった。
その姿が見えなくなってから、みんなはミルクのもとへ歩いていく。
チャイが首をかしげた。
「今日はお休みじゃなかったの?」
ミルクはふんわりと笑う。
「そうだよ。」
「でもね。」
「王女さまのお仕事は、お城にいることだけじゃないの。」
「悲しい気持ちの子や、さみしい気持ちの子のお話を聞くことも、大切なお仕事なんだ。」
リオンは、その言葉を聞いて胸がじんわり温かくなった。
王女さまは、立派なお城にいる人だから愛されているんじゃない。
誰かの悲しみに寄り添い、誰かの笑顔を願える人だから、みんなに愛されているんだ。
夕焼けがネコネコランドを優しいオレンジ色に染めていく。
チャイがミルクの手をつかんだ。
「お仕事終わったなら遊ぶにゃ!」
ミルクはくすっと笑う。
「うん。」
「今日は鬼ごっこに参加するね。」
「やったにゃーーー!」
チャイは大喜びで駆け出した。
そのあとを、シロップもマロンもルナも追いかけていく。
インクも少しだけ笑って歩き出した。
リオンは楽しそうに走るみんなを見つめながら思った。
王女さまにも、お休みの日はある。
でも、その優しさは、お休みにならないんだ。
ネコネコランドには今日もまた――
誰かを思いやる優しさが、静かに咲いていた。




