第三十九話 今日はみんなでおそうじにゃ!?
朝のネコネコランドには、澄んだ光がやさしく降りそそいでいた。
窓から入る風が白いカーテンをふわりと揺らし、木々の葉は朝日に照らされてきらきらと光っている。
どこかで小鳥が元気よくさえずり、遠くのお店からは朝の支度をするにぎやかな音が聞こえてきた。
そんな気持ちのいい朝。
広場の真ん中で、ミルクがぴしっと背筋を伸ばして立っていた。
いつもより少しだけ真剣な顔。
しっぽも、きりっとまっすぐ。
みんなが自然と集まってくる。
ミルクは一度みんなを見渡して、凛とした声で言った。
「今日は――大そうじにゃ」
そのひと言に、みんなの目が丸くなる。
でも次の瞬間。
チャイがぴょんと飛び上がった。
「やるにゃーーー!」
シロップも前足をあげる。
「……がんばる」
マロンも胸の前で小さくこぶしを握る。
「ぼ、ぼくも」
ルナはやさしく微笑む。
「きれいになるの、好き」
リオンも笑ってうなずく。
「よーし、頑張ろう」
……そんな中。
少し離れた窓辺にいたインクだけが、静かに空を見ていた。
そして、ぽつり。
「……嫌な予感がする」
その低い声は、風に乗って小さく流れていった。
でも、その予感は――
見事に当たることになる。
「まずは片づけるにゃ!」
ミルクの合図で、一斉に大そうじが始まった。
ところが、開始してすぐ。
「あーーー!」
チャイの大きな声が響く。
みんなが振り向くと、古い箱の前で目をきらきらさせていた。
「宝物発見にゃ!」
箱の中から出てきたのは、きらきら光るビー玉、古いリボン、小さな鈴、どこかの鍵、それから、なぜか片方だけのくつした。
チャイは大興奮。
「すごいにゃ! 宝箱にゃ!」
「それ、片づけるものだよ」
リオンが言う。
でもチャイは聞いていない。
「次の宝を探すにゃーーー!」
掃除が、宝探しになった。
その横では、シロップが舞い上がるほこりをじっと見つめていた。
光の中で、ふわふわ舞う小さな粒。
目がきらりと光る。
「……いた」
次の瞬間。
ぴょん。
ぱしっ。
ぴょん。
空中を追いかけて飛び回る。
でもつかまえられない。
さらに、鼻先にほこりが入って――
「……はくしょん」
小さなくしゃみ。
でも、その勢いでまたほこりが舞う。
「……増えた」
また追いかける。
終わらない。
マロンは一生けんめい片づけていた。
本をきれいに並べる。
小物もそっと並べる。
花びらまで飾る。
ていねいに。
やさしく。
でも――
「……あれ?」
片づけたはずなのに、なぜか飾りが増えている。
「こっちの方がかわいいかも……」
さらに並べる。
また増える。
「もっと並ぶかも……」
増える。
結果――
棚が、ものすごくにぎやかになった。
「増えてる!」
リオンの声が響く。
ルナだけは、本当に掃除していた。
床をふき。
棚を整え。
窓をみがく。
ぴかぴか。
きらきら。
ひとりだけ、見事に進んでいる。
「すごい……」
リオンが感心する。
ルナは静かに微笑む。
「……きれいって、気持ちいい」
その言葉の直後。
天井裏から、どさどさどさっと音がした。
見上げると、高い場所を掃除していたインクが、静かに何かを下ろしている。
古い帽子。
見たことのない地図。
大きな羽。
なぜかスプーンが三本。
そして――
木でできた、よくわからない置物。
みんな、見つめる。
チャイが首をかしげる。
「……これは何にゃ?」
インクは静かに答える。
「……わからない」
「わからないの!?」
さらに。
大きな箱を運んでいたリオンが、足元のビー玉を踏んだ。
ころっ。
「あ」
つるっ。
どしゃーん。
箱がひっくり返る。
中身が飛ぶ。
帽子が飛ぶ。
羽が舞う。
スプーンがからんころん。
置物がころころ。
花びらまで舞う。
部屋じゅう、また大混乱。
ミルクが、ぽかんと立ち尽くす。
しっぽが、ぴたりと止まる。
目の前には――
山。
山。
また山。
掃除前より、明らかに増えていた。
ミルクは遠くを見る目になって、小さくつぶやく。
「……どうして増えるにゃ」
そのひと言に、みんなが吹き出した。
笑い声が部屋いっぱいに広がる。
夕方。
へとへとになったみんなは、床にごろんと寝転がっていた。
でも、その隅には――
ルナがきれいにした、小さなぴかぴかの場所が残っていた。
そこへ、みんなが自然と集まる。
ぎゅう。
ぺたり。
ごろん。
少し狭くて、でも落ち着く。
ミルクはみんなを見て、やさしく笑った。
「全部終わらなくても――」
夕陽が、あたたかく差し込む。
「みんなでやると、楽しいにゃ」
その言葉に、みんながうなずく。
片づかなかった。
むしろ増えた。
でも、笑い声も、思い出も、そのぶん増えた。
ネコネコランドには今日もまた――
にぎやかで、ちょっと散らかっていて、とてもあたたかな一日が流れていた。




