第2話 依頼
「なんだあの馬車は?」
「なんでございましょう?」
冒険者ギルドの前に見慣れない馬車が止まっていた。
近づくと何か紋章が刻まれてる。
由緒正しい馬車のようだ。
まさか貴族でもギルドに来たのだろうか?
ギルドに入ってみるとそのまさかだった。
きらびやかな格好をした紳士が一人。
その傍らの執事と思われる老人が、大声を張り上げていた。
「公募依頼でございます! こちらにおられます、500年の伝統を持つ名門貴族アルフレッド家のご当主、ローランド・アルフレッド公爵からのご依頼でございます!」
その手には依頼用紙が掲げられている。
「アルフレッド公っていったら超名門じゃん」
「なんでそんな名門貴族がうちみたいなギルドに」
「食いつくのは早いぜ。金持ちほどケチっていうからな。報酬金額もしょぼいかも」
冒険者たちは思い思いを口にする。
ギルドには元パーティーの奴らもいた。
彼らも来訪者を注視している。
執事は続ける。
「依頼は帰らずの森に囚われている妖精女王の救出! 達成難易度はSランク! 報酬金額は白金貨20枚でございます!」
ドッと冒険者たちから歓声が湧く。
白金貨20枚は破格の報酬だった。
金貨3枚あれば成人男性が1ヶ月は食べていける。
その金貨100枚で白金貨1枚だ。
白金貨20枚なら贅沢をしなければ一生暮らしていける金額だった。
「その依頼、我らが黄金の翼が引き受けたぁ!!」
目を血走らせて守銭奴のラルフが宣言する。
「なんでお前らが!」
「俺達にも受ける権利あるだろうが!」
他の冒険者たちから抗議の声が上がる。
「うるせえ! このギルドで一番階級が高いのが俺たちA級パーティだ!! 文句あるやつは承知しねえぞぉ!!!」
ラルフはものすごい剣幕でまくしたてる。
下手に逆らうと殺されかねない。そう思わされるほどの剣幕だった。
他の冒険者たちは黙り込む。
「早速、依頼お受け頂き、まとこにありがとうございます。それでは詳細はカウンターで……あっ、後サポーターの依頼も承っております。それはこの後、また依頼させていただきます」
冒険者たちから喜びの声が上がる。
この分だとサポーター依頼の方も高報酬を見込めるだろう。
「……ラミア、どう思う?」
「話がうますぎますね……」
「Sランクの依頼でも白金貨20枚なんて滅多にない。それをこんな田舎ギルドでなあ」
「何か裏がありそうですね……調べさせましょうか? 魔王軍の連中に」
「……そうだな、お願いした方がいいだろうな」
「ご主人様の依頼……喜びますよ、みんな」
「あんまり無茶は……」
「はい、しっかり伝えておきます」
ほんとに大丈夫だろうか?
あいつらの辞書には、自重という言葉はないからなあ。
「それでラミア、俺の元パーティーの金髪のあの子。マルティンっていうんだがな。どうだ、あの子」
マルティンは中性的な見た目をしている。
最近成人の16歳になったばかりで、冒険者になってまだ半年もたっていなかった。
見た目だけでは彼がそうであるとは誰も気づけない。
「…………近くでみるのははじめてですが、これは……」
「やはり、お前も感じるか」
「はい、凄まじいポテンシャルを感じます。それこそ勇者レベルかと……」
「勇者なあ。勇者は魔王がいないと現れないんだよ。現れるのは魔王が先だ。それに勇者レベルのポテンシャルがあるということは、魔王レベルのポテンシャルもあるということだ」
「……つまり?」
「彼は魔王になる可能性があるということだ」
「そんなありえません! だって彼は人間ですよ?」
「やはり、知らないか。ラミア、俺は魔王になる前は人間だぞ」
「えっ?…………」
ラミアは固まる。
魔王だからといってすべてが魔族出身ではない。
これは魔族であってもなかなか知られていないことだった。
「し、失礼しました。ご主人様にそんな過去が……」
「それはまあいいんだがな。それで俺が魔王になる前だが、俺に接触してきた奴らがいたんだ」
「奴ら、といいますと?」
「その名を【昏き黄昏】という」
「【昏き黄昏】…………その名は確か昔……。魔王様から一度、殲滅指示があったような……」
「その通りだ。天界との戦争が終わった後、俺が次にターゲットにしたのは奴らだった。ろくでもない、残虐な行為を行っているという報告が入っていた。だがその時には時既に遅し。奴らは地下深くに潜っており、実態を掴むことができなかったんだ。俺はどうやって魔王になったかの記憶が抜け落ちている。魔王誕生に【昏き黄昏】が関わっているのは間違いない。前世の忘れ形見を片付けとこうと思ってな」
「【昏き黄昏】の奴らと決着をつけるのでございますね!」
「その通りだ。だがマルティンが魔王候補だというのは、今は予測に過ぎない。だからまだそんなに構える必要はない」
「承知しました」
今の所、俺が知る限りマルティンに妙な接触者はいなかった。
そこでカランとギルドのドアが開く音がする。
黒猫を連れた少女が一人、ギルドの中に入ってきた。
珍しい客なのでギルド内が少しざわつく。
少女はカウンターにいって受付と何かしら話す。
しばらくすると先程の貴族と同じように、依頼用紙を片手に呼びかける。
「私はイルマです。妖精女王様の救出を依頼します! 報酬は銀貨5枚です! 私が持ってるお小遣い全部です!」
ドッとギルド内から笑いが起こる。
「お嬢ちゃん。どこでその依頼聞いてきたか分からないけど、その数百倍、いや数千倍以上の報酬が偉い貴族から約束されてんだよ」
「ここはおままごとする場所じゃないから、早くお家に帰りな」
冒険者たちは笑って、誰も取り合おうとしない。
「むむむむむ…………おままごとなんかじゃありません! イルマは本気です!」
イルマはもう半泣きだ。
そのイルマの依頼用紙を俺は受け取る。
「ふむ、報酬は銀貨5枚か。大金だな」
「大金です! イルマはしばらくお菓子を我慢しないといけません!」
「よし、請け負った!」
ギルド内からどよめきが起こった。




