第14話 邪神封印依頼
「みんなも知ってる通り、世界は今、存亡の危機にある。各地で強力な魔物が発生している。このまま魔物が増え続けると、人類の未来はない。空に広がる暗雲。いつまで経っても訪れない陽の光。これらはすべて、邪神ジャミラスの復活によるもの、ということが判明した」
冒険者ギルドに冒険者が集められ、ギルドマスターによって説明がされている。
俺はラミアを連れて、その説明会に参加していた。
「冒険者のみんなには町の防衛に協力願いたい。ギルドが報酬を出す。後、中央の統括ギルドより特別依頼が届いている。依頼内容は邪神封印。請負可能ランクはAランク以上。報酬はSランク以上への昇格と白金貨100枚だ」
ギルド内がざわつく。
「すげー報酬白金貨100枚なんて聞いたことねえぞ」
「ばか、邪神封印なんて死ににいくようなもんじゃねえか。命あってのものだぞ」
「自殺願望があれば受けてもいいんじゃね」
冒険者たちの反応はおおむね否定的だ。
もっとも彼らはAランクに到達していないので、そもそも特別依頼を受けることはできないが。
「その特別依頼、我らが黄金の翼が受けます!」
ラルフが宣言する。
噂では資産をすべて失い、現状一文無しに近い状態だという。
元からいたメンバーはすべて去り、ラルフ以外のメンバーは総入れ替えとなっていた。
「おお黄金の翼が受けてくれるか。これは頼もしい、よろしく頼むぞ!」
懲りない男だ。
奴に呪いがかかっている限り、どんなに足掻いても無駄だというのに。
「ギルドマスター、その依頼、俺も立候補する」
「ザウス……でもお前、一人だけだろ?」
「それが何か?」
「我がギルドとしても、変なのを派遣するわけにはいかんのだよ。ギルドの沽券に関わるからな」
なんでラルフみたいな奴がよくて俺はダメなんだ?
こいつの目は節穴か?
「ご主人様、いって頂けましたら、あの男、すぐに抹殺してご覧に入れます」
「まあ待てラミア」
俺とラミアは周りに聞こえないように囁き合う。
「A級以上というなら、別にあんたに俺を引きとめる権限はないんじゃないか? 俺は勝手にいかせてもらうぞ」
「ぐっ……では我がギルドから監視員を派遣する。くれぐれも変な真似はするんじゃないぞ!」
やけに人目を気にする。
おそらく統括ギルドでの評価が、出世にでも影響するのだろう。
世界の存亡の危機というのに……つまらないことだ。
「勝手にしろ。ラミアいくぞ」
俺たちはギルドを後にした。
◇
「それでは只今より、邪神封印の作戦会議を開催いたします! 司会は私、中央評議会、議長のギナスが務めさせて頂きます!」
参加者の拍手とともに会議がはじまる。
会議場にはAランク以上の冒険者だけでなく、世界から主要な権力者たちが集結していた。
国王に教皇。ギルドのグランドマスターから有力商会の商会長など、二度と一同に介することはないかもしれない、というほどに豪華な面々だった。
俺とラミア、そしてその隣にギルドからの監視員の男ハイルが座っている。
「何か意見がありましたら、挙手の上、発言願います。それではまず最初は――」
俺は挙手をする。
会場中の注目が俺に集まる。
「お、おい! いきなり何やってんだ!」
ハイルは慌てて俺に小声で注意する。
俺はそれを無視する。
「冒険者の方ですね。ランクとお名前をお願いします」
「Aランクのザウスだ」
会場内がざわつく。
Aランク如きが、という声もちらほら聞こえてくる。
実際会場についてみると、Aランクの冒険者はほとんどおらず、Sランク以上の冒険者たちが集結していた。
「疑問なんだが、なぜ邪神討伐ではなく、封印なんだ?」
「おい、黙れ馬鹿野郎!」
ハイルは泣きそうになっている。
「一体誰が邪神を討伐できるというだね? こんな基本的なこともわからないとは……君、後で所属ギルドを教えてもらっていいかな?」
ハイルは真っ青になる。
「討伐ならできるぞ。俺がな」
またしても会場内がざわつく。
今度は笑い声も聞こえてくる。
「おい! つまらない冗談をいってるんじゃねえ! Aランク如きがもう座っとけ!」
筋肉の塊のような巨体の男がいってくる。
顔中に裂傷の痕がついている。
「おい、あいつ、パーティー【力の信望】のイーゴリだぜ」
「あれがSランクで凶暴危険だって有名な」
「あいつに潰された冒険者パーティーは10や20じゃくだらないって」
イーゴリというのか。
奴を一言でいうならゴリラヤクザだな。
「誰も冗談などいっていない。お前こそ邪神討伐できるのか? できないなら黙っとけ」
「おい、てめえ、もう冗談じゃ済まさねえぞ」
目を血走らせてイーゴリは告げてくる。
痛いやつと思われてるのか、他の冒険者たちからは嘲笑が上がる。
「頼む! 頼むからもう止めてくれ! なあ!?」
ハイルは俺の両肩に手をかけて、泣きながら懇願してくる。
まあ、しょうがない。本番になったら勝手にやろう。
そう決めて俺は席に座る。
「静粛に、静粛に! 邪神封印は確定事項です! その為に今回は【忘却の聖女】ダリヤ様に作戦部隊に参加して頂きます」
「誰だ忘却の聖女って?」
「そんなことも知らないのか?」
「悪かったな」
「稀代の聖女で、数百年に一人いるかいないかっていう程、すごい御方だぞ。特に封印魔法がすごいらしい。あそこにおられるのがそうだよ」
金髪の長髪に僧服を着ている。
かなりの美人だ。あれがダリヤか。
隣に子供を連れてるな。
「隣の子供は? 見た所、師弟には見えないけど」
「ああ、あれは……」
その時――
「そんなガキに聖女様をお守りできる訳がないだろ!」




