第十三話 不慮の事故
「……私の負け、ですね」
「……ふぅ、ありがとうございます。良い勝負でしたわ」
令嬢は武器を下ろし、へたり込む"白骸"に手を差し伸べ握手を交わす。
斯くして模擬戦は令嬢勇者の勝利で幕を閉じた。
結果だけを見れば令嬢の勝利ではあったものの、実力そのものは拮抗しており、どちらが勝ってもおかしくはなかった。
2人を労うべく"鬼謀"が駆け寄る。
「お2人とも、お疲れ様でした! 回復の水薬をどうぞ。いやぁ、それにしても素晴らしいものを見せていただきました。戦術のプランが広がりますな! "白骸"も惜しかったですねぇ、もう少しだったのですが……」
「ぐぅ、判断をミスりました……まさかホブまで打倒されて、尚且つそれに残存戦力を巻き込むなんて……うぁーっ、悔しいなぁっ!!」
"白骸"は頭を抱えて悔しがった。己に有利な状況で負けたのだから悔しくて当然である。
「危ないところでした……"白骸"さんがもっと単純な方でしたら、上手くは行ってなかったでしょう。貴女の優秀さに賭けて正解でしたわ」
そう、勝敗の分け目は、紙一重の賭けであった。
令嬢の行動を"白骸"が深読みし、彼女を追い詰めるべく全軍の統制に力を注ぎ込んだ結果、不意討ちの直剣投擲により意識を乱され包囲網の突破を許してしまったのだ。そのまま自動操縦で令嬢を追わせておけば、先に消耗するのは令嬢の方であった。令嬢は賭けに勝ったのだ。
とはいえ令嬢の方もかなりギリギリであり、ホブを倒した最後の一刀に関して言えば、下着鎧の部分のみを残して手甲や具足をも魔力に変換し注ぎ込んだ、まさしく渾身の一撃であった。
最早令嬢はこの細剣を除いて武器を生成することは叶わず、仮に"白骸"が戦力を温存し自身の周りに数体侍らせていれば、結果は変わっていたかもしれない。
「ンだよ、お前ら中々やるじゃねぇか! 今度俺とも闘ろうじゃねぇか、なぁ?」
"暴勇"が楽しそうに笑いながら2人の背中をベシベシと叩いた。加減はしてくれてるようだが、元々手が大きいのでそこそこ痛い。"白骸"は衝撃で水薬を吹き出しそうになり噎せた。
その時、"暴勇"の手が下着鎧の紐に触れてしまった。なけなしの魔力で編まれた下着鎧は、一瞬で光の粒となって霧散し、令嬢の豊満な姿態が露になる。
「……ぇ? き……きゃあああぁぁぁっ!!?」
パァンと、頬を打つ音が林中に響いた。
「……その、何だ……すまんかった」
「いえ、こちらこそ……不慮の事故なのはわかりましたので……」
頬に真っ赤な手形を付けた"暴勇"と、マントを羽織った令嬢が互いに頭を下げた。
「ふむ……しかし、どうして急に鎧が消えてしまったのでしょうか? 耐久性だけの問題とは思えないのですが……」
"鬼謀"が疑問に首を傾げる。
「……もしかしてなんですけど、"暴勇"さんって魔法に対する耐性持ち、ですよね?」
「あ? なんだそりゃ?」
"暴勇"は何のことかわからないという顔をするが、"白骸"には心当たりがあった。
かつてゴブリンジェネラルと死闘を演じた際、瀕死の"暴勇"に回復魔法をかけようとして弾かれる感覚があったことを"白骸"は皆に伝えた。
また、直撃すれば火達磨になる程の魔法を受けても軽症で済み、あまつさえ飛来する魔法を弾き返すなど、思い当たる点は枚挙にいとまがなかった。
「……以上のことから推察すると、"暴勇"さんは魔法耐性を持っていると考えて差し支え無いかと」
「お前……"鬼謀"みたいなこと言うようになったな……」
「き、恐縮です……そして、その耐性の発生源は恐らくですけど、その大剣かと……」
「こいつがかぁ?」
"暴勇"は背中の大剣に手をかけ引き抜いて見せる。禍々しい黒い刀身が、見る者全てに威圧感を感じさせた。
すると"白骸"の推察を肯定するかのように令嬢の首輪がブルブルと震えた。
「あ、あの、改めてお会いした時も聞きましたが、その剣は一体……? 何と言うか、その、首輪から畏れや不安のようなものが伝わって来てまして……」
「こいつぁ、俺が若輩ェ頃に何とかってクッソデケェ悪魔とタイマン張ってブッ殺した時の戦利品だ」
「あ、悪魔の剣……!? それでは"暴勇"殿は悪魔殺しだったのですか……!?」
令嬢勇者は目を丸くした。
「おうよ! ……まぁ、死に物狂いで戦ってたんで、よく覚えちゃいねぇんだがな。んで、その時倒した悪魔がそのまま大剣に化けやがってよ、それ以来の付き合いだ。コイツスゲェんだぜ? どんだけ斬っても刃毀れ1つしねぇんだ!」
いや、それよりもあんたの方がスゲェよ……と、3人の勇者は異口同音で内心ツッコミを入れていた。
「……ところで"鬼謀"さんも見ましたよね?」
「んん? 何のことですかな? 私には何も心当たりが……ははは、あ痛っ、脛を蹴らないでください!」




