第十ニ話 勘違いをしてました
「始めッ!!」
号令がかかると同時に令嬢は再度双剣を生成し骨ゴブリンに肉薄する。初めて使うはずの得物にも関わらず、その動きはまるで歴戦の双剣士のそれであった。
令嬢は自分でも驚いていた。何故こんな動きが出来るのだろうか? 理屈はわからぬ。ただ、知っているという確証だけがあった。
次々と骨ゴブリンを斬り捨て突き進む。
ある程度斬り進んだところで手応えの違和感に気付く。──双剣が刃毀れしている。
以前の宝剣でもそうであったが、如何なる名剣であろうと数多の敵を斬れば付着した血や脂で切れ味は鈍り、骨を断てば刃毀れもする。そのまま無理を続ければ、最終的に折れてしまうことだろう。当然の摂理だ。
──しかし、今の令嬢にとってそれは些細な問題であった。
令嬢は切れ味の鈍った双剣を投げて2体を屠ると、お次は斧槍を生成し、群がる骨ゴブリンどもをまとめて薙ぎ払った。開けた戦場であれば、斧槍の広いリーチは非常に頼りになる。大振りの薙ぎの隙間を縫って1匹の骨ゴブリンが懐に飛び込む。が、令嬢は咄嗟に円盾を生成し受け止めると、そのまま盾で殴打し頭蓋を砕いた。
このまま令嬢の快進撃は止まらないかと思った、その時である!
一際大柄な骸骨が立ちはだかり、棍棒で令嬢の槍を受け止めたのだ。
「これは、まさか上位種の骨ですの……!?」
骨格からもわかる凶悪な人相はまさしくゴブリンの上位種のそれであった。
それだけではない、先程までは骨ゴブリンだけで構成されていた集団は、元は冒険者か無法者であったのだろう朽ちかけた装備を纏った骸骨にいつの間にか置き換わり令嬢を取り囲んでいた。
「私だって、やられっぱなしじゃないんですよ……!」
──模擬戦が始まる前に"白骸"が勝利を確信するには理由があった。この林には"白骸"が依頼の度に使役してきた魔物や人骨を集めた骨塚があり、また不死竜の牙から削り出した短剣を触媒にしたことでその能力は力を増し、今やこの林全域が彼女の支配領域と化していた。
始めは打ち倒される傍から骸骨を組み直し戦力を補っていたが、数多の武器を巧みに扱う令嬢を相手に骨ゴブリン程度では歯が立たず、また組み直すのも効率が悪いと気付いた為、念のため自衛用に控えさせておいた虎の子のホブゴブリンと骸骨を繰り出すに至ったという訳だ。
元となった生物の体格と知能の差であろう。骨ゴブリンの時と比べ数こそ半分以下に減ったものの、戦力の質で言えば先程とは比べ物にならない程向上している。実際、先程までは一方的な蹂躙に近かった戦況が既に"白骸"の有利に傾き始めていた。
一方の令嬢勇者はと言えば、新手の登場に合わせて武器を盾と直剣に持ち換え堅実に立ち回っていた。──が、先程までの快進撃とは打って変わり、今度は令嬢側が徐々に押されていた。
令嬢の額に冷や汗が滲む。先程から疲労感が増しており、肩で息するようになり始めていた。それもその筈、令嬢は度重なる武器の交換に魔力を費やしてしまい、所謂魔力欠乏の初期症状に陥っていたのだ。
このままでは持久力の差で押し負けるのが目に見えていた。何とかこの状況を打開すべく、令嬢は軽い頭痛のする頭で必死に考えた。
『双方、相手を追い詰めた方の勝ちです』
ふと、"鬼謀"の提示した勝利条件が頭を過る。
"白骸"側の勝利条件は簡単だ。令嬢を打ち倒すか、反撃できない状態にすればよい。では、令嬢側の勝利条件は……?
『集団戦じゃ、後方に居る魔術師や弓兵を狙うのは常套手段だ』
"暴勇"の教えが答えを導き出した。しかし、そんな卑劣な手段が許されるはずが──いや、答えは既に"暴勇"が示していたではないか。今更何を迷う必要があろうか?
令嬢は踵を返し、骸骨の包囲を抜けると一目散に逃げ出した。
骸骨が自動でそれを追う。当然のように足並みが揃わず突出する骸骨が居るが、それらを一体ずつ令嬢が振り向き様に砕くと、再び逃げに走る。それを何度も繰り返した。
「(さてはこちらの消耗狙い? いえ、あれは何か誘ってる動きですね。残念ですけど、その手には乗りませんよ)」
令嬢の行動を訝しんだ"白骸"は骸骨の動きを統制し、一塊となって令嬢勇者を追い詰めにかかる。
自動操縦と違いかなりの集中力を要するものの、彼女の的確な指揮により令嬢勇者の思惑を崩し再び取り囲み込むことに成功する。
すっかり疲弊した令嬢を前に、勝利を確信した"白骸"は小さく笑みを溢した。
追い詰められた令嬢は剣を大きく振りかぶり骸骨に斬りかかる……と、見せ掛けて、突如"白骸"に向けて思い切り剣を投げつけた!
「……へ? うわ危なっ!?」
骸骨の群れの隙間を縫って飛来した剣は"白骸"のすぐ横の木に突き立った。
勿論、こんな雑な投擲が決定打になるとは令嬢は微塵も思っていない。ただ、この一投で骸骨の統制が一瞬乱れた。それだけで充分だった。
「おおおぉぉぉっ!!!」
令嬢は即座に突撃槍を生成し構えると、骸骨の集団に全力で吶喊した。金属の盾と大槍に肉体と脚力を乗せた質量の弾丸が、密集した骸骨の群れを砕きながら一直線に駆け抜ける!
大柄なホブスケルトンが迫り来る令嬢の前に立ちはだかり、棍棒を振るい迎撃する。令嬢は瞬時に得物を仕舞い、振るわれる棍棒の隙間を転がり込むように潜り抜けると、今度は身の丈程もある大剣を生成し勢いを乗せてホブの片足に叩き込んだ!
片足を切断されバランスを崩したホブは、数体の骸骨を巻き込みながら前のめりに倒れ込んだ。
「嘘ぉ……!?」
「っ、はぁ、はぁ………っ、わたくし、とんだ勘違いをしてました。何も『全ての骸骨を撃破する』必要なんてなかったんですわ。『"白骸"を追い詰めること』それこそが、わたくしの勝利条件ですわ」
"白骸"の首に細剣を突き付けながら令嬢勇者は言い放った。




