第一話 プロローグ
ドーモ、Яoseです。
第三章、開幕です。
今回は重い表現を含んでますので、苦手な方はご注意ください。
勇者とは、則ち無敵の英雄である。
一騎当千の力で混沌の軍勢すら退ける者。極まりし深慮遠謀で大局をひっくり返す者。女神より賜りし神器を用いて闇を祓う使命を負った者。あるいは愛する者の住まう村を守護り続けることに生涯を捧げる者。……あり方は様々なれど『勝利を導く強き者』という点は共通する。
御伽噺にも語られる不朽不滅の強者、それが勇者である。
だがしかし……勇者が皆、万夫不当の無敗の存在であるとは限らないのが世の常なのだ。
「はぁっ……はぁ……っ」
勇者は今、独り逃げていた。
見事な意匠の直剣を杖代わりに突きながら、最寄りの村に向かってひたすらに逃げていた。
勇者が挑んだのはゴブリン討伐。
駆け出し冒険者向けに斡旋される依頼ではあるが、油断や不運、あるいは群れの規模によっては熟練者でも足元を掬われ嬲り殺しにされる。
それがゴブリンという魔物だ。
そんなゴブリンを相手に勇者は負けたのだ。
生涯二度目の経験であった。
しかし、勇者は生きていた。何故か?
「ぅ、ぐっ……持って下さいまし……わたくしの身体……!」
──勇者は、女であった。
故に、ゴブリンにとって侵入者が外敵から獲物へと変わっただけのこと。そしてゴブリンが獲物を前にしてすることと言えば、二つに一つであった。
小規模の群れとはいえ、さしもの勇者も単独では数の暴力には敵わず、敢えなく捕らえられてしまう。
……その後は数週間に渡って彼らに囚われることとなった。
度重なる辱しめに幾度と無く心折れかけるも、女勇者は一抹の希望に賭けて耐え抜き、漸く小鬼どもの隙を突いて巣穴から逃げ出すことに成功し、今に至る。
長期間の監禁により醜く変わり果てた己の身体に、勇者は自分が女であることを嫌でも理解させられた。
──それでも勇者は今、生きることに必死であった。
漸く村が見え、女勇者は安堵した。
……しかし、緊張の糸が切れたのが絶望の始まりであった。
一際強い腹痛に顔をしかめる女勇者。生暖かいものが脚を伝い、足元に水溜まりを形成する。
遠くでは女勇者の姿を捉えた村人が周囲に呼び掛け、血相を変えた多数の村人がこちらへと向かって来ていた。
勇者は剣にしがみつき必死に堪えるも、最早無駄な抵抗であった。
「ひっ……ぃ、嫌っ……み、見ないで……わたくしを、見ないでぇぇぇ……! い……嫌あああぁぁぁぁっ!!」
大きな水音を伴ってこぼれ落ちた醜いものが、女勇者の足元で蠢めいていた。
「ヒッ……こ、こんなの……勇者様じゃない!」
──村人から放たれた心無い一言が女勇者を抉った。




