第十一話 指名依頼
所変わって"白骸"と"鬼謀"の2人は、消耗品の買い出しを済ませ酒場で"暴勇"師弟を待っていた。
テーブルの上に書類を広げながら、"鬼謀"は何やら難しい顔をしていた。
「どの依頼にするか迷ってるんですか?」
「ん? あ、いえ、これから行こうと思ってる依頼は概ね決まってます。ですが……これを見てください。ここ数週間以内に発生した動屍体討伐の依頼報告の写しです」
"鬼謀"が資料を時系列順に並べて見せる。
しかし、何故報告書の写しがここにあるのだろう? "白骸"は訝しんだ。
「なぁに、我々の日頃の行いが報われてるだけですよ。ほら、ここ最近ギルドでも不人気な依頼を多くこなして来たでしょう? それで我々を信用して特別に、ということで指名依頼が来ましてね。いやぁ、善行はするものですね」
"鬼謀"はにこやかにそう言うが、"白骸"は面倒事を押し付けられたように感じてしまった。
冒険者ギルドでは一党の活動実績に応じて、より専門的な依頼を発注することがある。
その条件といえば、特定の魔物の討伐数が多かったりだとか、あるいは護衛依頼の達成率やギルドへの貢献度等々、様々な要因がある。
そんなこんなで【追放勇者同盟】もどうやらギルドのお眼鏡に叶ったようである。
「それでですね"白骸"の、是非貴女の意見も聞かせて欲しい。この資料を見て何か思うことや感じたことなどありませんかな? 指名依頼の内容は、ここ最近の動屍体異常発生の原因究明でして……」
"白骸"は資料に目を通す。"鬼謀"の言う通りここ数週間で4件ともなると些か異常だ。最新の日付は先日自分たちが受けたもののようだ。
「……うーん、率直な意見なんですけど、北西部に集中してませんか? 単純にここが郊外で、尚且つ墓地が多いだけにも思いますが……」
「ほほう、良い着眼点だと思います。私も同じ考えに至りました。では次に、何故動屍体が発生したと思いますか? この前のお復習ですよ」
「ええと……動屍体の発生する要因は主に2つで、屍体に瘴気が蓄積することによる自然発生か、魔法による蘇生です。瘴気の蓄積する原因は、墓所や戦場跡などの瘴気の溜まりやすい場所の管理を長年怠ったことで瘴気が澱み蓄積する、あるいは付近に新たなダンジョンが生成されるとそこから漏れ出る強い瘴気によって動屍体が発生します。一方、魔法による蘇生……これはリッチか死霊術師の関与が考えられます」
"白骸"の答えに満足したかのように"鬼謀"は頷く。
「その通りです。流石は"白骸"の、よく勉強してますね」
「それにしても……死霊術師、ですか……」
"白骸"は自分の同業者が関わっている可能性を考え目を伏せた。
呪いや死霊の使役などは所謂『闇魔術』などと呼ばれ、非常に強力である反面、究めようとして深淵を覗き過ぎると魂まで腐敗し堕落してしまう危険性がある。
死霊魔術も闇魔術の一種であり、屍体や霊魂を弄び不死者となって永遠の命を得ることを生涯の目標にする冒涜的な魔術……という偏見を持たれることも少なくない。──実際"白骸"にも覚えがあった。
かつて"暴勇"も、一時期闇魔術師と組んだことがあった。大層優秀な人物であったとされるが、曰く『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな?』という状態になってしまい、自らの立場を危ぶんだ"暴勇"は難癖付けて彼を追放してしまったという。
優秀過ぎて他人の仕事まで奪ってしまうというのも、些か考え物である。
"白骸"がそんなことを考えていると"暴勇"と、新しい装備に身を包んだ獣人勇者が酒場に入ってきた。
背中には斧ではなく大剣を担いでおり、さながら"暴勇"とペアルックに見えた。
「よう、待たせたな」
「いえいえ、丁度これから昼食にしようと思ってたところですよ」
"鬼謀"がそう言うと、まるでタイミングを見計らったかのように料理が運ばれて来た。
彼らの到着を読んでいたのか、先んじて多めに注文していたのだ。流石の抜け目の無さである。
「んじゃ俺たちも飯にするか! 修行は腹が満たされてからだ!」
「はい師匠!」
そう言うやいなや"暴勇"師弟は、運ばれて来たばかりの羊肉の香草焼きに食らい付いた。




