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期待を持つと上手くいかないらしい

「あの、緑スリッパの……」

 思わず呟くと、ダミーは片方の眉をつり上げた。

「ん? 精神制御装置のことか? ウィズ、あれを使ったのか?」

「ああ。前の出発からだと五つ使った」

 ウィズって外にいるんじゃね? って思っていたら本人が急に現れて、はじめからいたかのように話し始めた。

 ……何でもありなんですか、ここの人たちは!

「うわあ、作り直さねえと。おまえも手伝えよ」

「わかっている」

「他になんか必要なものはあったか?」

「そういえば、姫様が『エレベーターはないのか!』って怒ってたよ」

 ダミーの問いかけに、今度はラックが登場する。ウィズが出てきた時点でこっちも出てくるだろうと思ったよ!


「エレベーター?」

 聞き慣れない単語に首を傾げたのはロランドだった。

「ラシェル姫は魔法が使えないから、階層間の移動が大変なんだって」

「空間歪曲魔方陣の設置ってことか? 分かった」

 ラックの説明を聞いたダミーが即答する。

 ……かっっる! 塔の改造ってそんなにぽんぽんできちゃうもんなの!?

「各階層に魔方陣を設置するだけですので、そこまで大きな変化はありません」

 スーさん……心読みからの簡潔な解答ありがとうございます。


「あ゛? 他になんかあるんならさっさと言え」

「いえ、その魔方陣とやらを設置してもらえるだけでも十分なので……」

「そのくらいすぐ終わる。それよりも、この塔が不便とか言われたら俺の技術者としての威信に関わるからな」


 …………かっけえな、おい。

 やっぱり見た目って大事だよね。

 腕を組んで上から目線に言いきった俺様風イケメンだけど、さっきまではカタカタ動くホラーなからくり人形だったんですよ。

 そして制作チームよ。こんな裏設定があったなら本編に出してくださいよ。翠玉にはこんなのいなかったじゃん。そんなところまでオリジナリティー出さなくていいじゃん。ロランドと常に一緒にいるのがこれなら何周でも周回できたのに! ……あ、だめだ。そうなると男色疑惑とか生まれそう。


 …………いけない。混乱しすぎて我を失ってしまった。

 文句は目の前のきらきらしい二人に言ってくれ。イケメンを急に増やすな。ホラーとのギャップがえぐいんだよ。


「そういえばおまえ、精神制御装置が気になるんだろ?」

 ダミーは私の内心がお祭り騒ぎであることに気付くことなく、思い出したようにそう言った。

「なんだ、そこの性格悪いメイドに嫌気でも差したか?」

 ニヤニヤしながらそう言うダミー。やめた方がいいと思いますよー……。

「……………………」

「っ!? おい、無言で阻害結界張るのやめろ!」

「なんのことでしょう?」

 阻害結界ってあれかな? 対魔法使い戦で使うような魔力を働きにくくする結界かな?

 生命維持が魔力に依存している魔法生命体にとってはかなり嫌な感じがするらしい。

 ほら、やっぱり怒らせた。


「それで、その装置って誰にでも使えるものなんですか?」

「使えるよ。スーとラックは使用禁止されてるけどね」

「ロランド様、俺はスーみたいな酷い使い方しないですって!」

「お前は無駄使いするだろう……」

「おい、そこの四人……。目の前で弱ってるやつを助けるとか無いのか!?」

「えっ、だって自業自得ですし……」

「そうだね。今回は悪口を言ったダミーが悪いと思うよ」

「ダミーはよくスーにつっかかるよねー。俺はまねできない……」

こいつ(ラック)でも避けられる事態だぞ」

 全員から見捨てられたダミー。ロランド達は完全に面白がっている様子。

 私? 庇って巻き込まれたくない。スーさん恐い。

「ぐっ……! わ、分かった! 俺が間違っていた! おまえは優秀だ!」

「はじめからそう言っておけば良かったのですよ」

 スーが満足げに言うと、ダミーはほっと息を吐いた。結界解除されたんだね、よかったね。


「それで、あのスリッパの話なんですけど……」

「少しは労れよ……何なんだよこいつ……」

 いやー、すみません。でも、あれを見たときからずっと、作った人に聞いてみたくて仕方なかったんだよね。

「気になってたんですけど、あのデザインって何を参考にしたんですか?」

「は? 何をって……スリッパだろ」

 ダミーは何を言っているんだとでも言いたげな顔をしている。

「えっと、はい。そうなんですけど、どうしてスリッパにしたのかなあと……」

「いい音出そうだろ?」

「あっ、そうですか……」


 うん、この人転生者とかじゃないですね。


 転生者だったらこのタイミングでドヤ顔はしないと思う。

 というかこんなにあのデザインを気にしておいて日本人だと疑われない時点でこの人は日本人じゃない。

 当てが外れたなあ……。

 まあ、それはいいとして。


「ええとデザインのことは分かったんですけど……。そのスリッパ、誰でも使えるんですよね? 一つでいいので譲ってもらったりできますか?」

 見た目はあれだけど、スーが寄ってきたときの対策とか、慌てた人を落ち着けたりとか、スー対策とか、何より自分の精神を制御しなさいってね。……とにかく、便利そうなんだよね。


「……まあ、一つだけならいいだろ」

 ダメ元だけど一家に一台的な感じで頼んでみたら、あっさりと了承された……んだけど、ガッツポーズを取りそうになったところで、付け加えられた。


「ただ、使い捨てだぞ?」

「そんなっ……!」

 衝撃の事実に、私は崩れ落ちたのだった。




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