4話
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かつて魔王ツメヲカームに支配された名も無き村、英雄スサンダの活躍により魔王の支配から解放され、引退した英雄スサンダとともに大きくなったスサンダ村は、人口の関係で町への条件が整っていないだけで、そこそこ栄えていた。
--スサンダ村 入口--
「やっと着いたぁーっ!!」
ニホンでぬくぬくと過ごしていたレイジにとって、この2日弱の馬車での旅は過酷だった。徒歩よりは全然マシなのだが。(お尻痛いざんす。 眠いざんす。 っていかん語尾が移ってた。)
昼はデパリーとの会話をしながら(幸い、異性を感じない、むしろ異形を感じたのでヘタレずに会話は出来た。)、また魔物が襲ってこないかと気を抜けず、夜はポットと交代で見張りをしていたため寝不足気味のお疲れであった。
《主よ、お疲れ様でした。 そのよれたシャツにジャージとサンダルの軽装で、よくぞここまで辿り着かれました。 今は昼過ぎです、お店も開いてるはずですし、金貨1枚あれば大抵の装備を整えることが出来るはずです。》
(元はといえば、女神が適当に転生させたのが悪いんだろぅがっ!)
きいっと顔をしかめた。そこにデパリーが音もなく近づいてきた。
「レイジ様、ここまで無事に来れたざんす。 あらためてお礼を言うざんす。 ミーはもう少しお話したいぐらい楽しい時間だったざんす。」
「いえいえこちらこそ、デパリーさんのような素敵な女性を護衛できたのは光栄ざん…でしたよ。(くっそ、静かに来るなよ。 カマキリ感出すなって!)」
「お上手ざんすぅっ!」デパリーは顔を真っ赤に染め、左手で前歯を隠しながら、「もうやだぁ~」っとおばちゃんよろしく右手を振り下ろした。(カマキリが鎌を振り下ろしてるようにしか見えない、デパリーすまぬ。 性格美人だからきっと良い人がいる! 俺以外で。)レイジは心の中で謝罪した。
《ちなみに、デパリーは主より2つ年下、彼氏募集中ですよ。》(うるせぇ、その情報はいらねぇ。)
「やはりっレイジ様もお嬢様の魅了されましたかっ! わかりますよ。」(ポット、お前もだまれっ!)
デパリーはポットの言葉に反応して更にくねくねと体を捻りだし、ポットはうんうんと頷く仕草をしている。(いや、マジでないから。)
《ちなみに、ポットは主と同じく成人になったばかりですよ。 さらに【ノンチェリー】です。》(うん、その情報もいらねぇね。 ポットがいつノンチェなのか微妙に気になるが。)
レイジは「では、名残惜しいですがここで。」おつかれっしたっと手を上げ入口へ向かおうとしたところで、「待つざんすぅっ!! あとでマンティス家別邸に来て欲しいざんす。」残念ながらデパリーに呼び止められた。
「レイジ様、護衛の報酬のお支払いもございます。 夕方には準備ができておりますのでお立ち寄りくださいませ。 別邸はここからまっすぐ行ったところにある大きな屋敷なので、すぐわかるはずですよ。」
「あっ! すっかり忘れていました。ははっ、ポットさんに旅の道中で、準備の大切さ、お金の大切さを教えてもらっていたのに面目ないです。」
「いえ! 教えるなんてそんな滅相もございません。 レイジ様の第一印象が薄れるくらいお話出来て良かったです。(俺、生きてて良かった。)」(えっ? 俺って第一印象が悪かったのか。 ポットさんからはこの世界の常識を学べて良かったから感謝しかないけど。 はは、地味に傷つくな。)
《黒い剣を振り回し、魔物が去ったあとは独り言(私との会話ですが)をぶつぶつと呟く姿は端から見れば異常者でしたから。》(まて、それ半分はお前も原因あるだろっ!)
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--スサンダ村 中央の噴水広場--
ポットが手続きをしてくれたおかげで、レイジは特に止められることもなく村へ入れた。
レイジは村のメインストリートを歩きながら、中央部の噴水広場に到着した。
(あ、この像って)
広場の中央には、威風堂々と直立した像があった。
じっくり見ると、モリマジロの鎧を装備しており(乱獲してたもんねっ)、両手を交差している姿はまさに(ウィッシ…)ではなく、何かに向かう構えのようだ(爪、長かったんだ)、そして、口から水を出していた。(あれやん! スマートラ島の王族のサン・ニラタマがとある島に向かう途中で遭難しかけた時に見かけた不思議生物の下半身が人間バージョンやっ!)
《はい、英雄スサンダの像です。 彼は獣人種の中でも最強格の獅子族の出で、両手には何でも引き裂く爪を持ち、どんな敵でも切り裂いたと伝わっております。》
(えっ、深爪が嫌で引退したんじゃなくて、得意の武器を封じられて引退したのっ!? てか、口から水を出してなければめっちゃくちゃ格好いいのにっ! 尊敬されてないの?ねぇ、絶対、尊敬してないでしょ? 村人おぉぉぉぉぅ!!)
レイジの心の叫びはコアにしか届かなかった。
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--スサンダ村 なんでもトラベラーズ~あなたの旅先を安心安全にプロデュース~ スサンダ店内--
「いらっしゃいませぇ~!!『なんトラ』へようこそ~」物まねあるあるのショップ店員のような甲高い声が店内に元気よく響きわたる。
店内には、一般的な衣類、ポットが使っていたポシェットやキャンプ用具など旅の必需品から武器や防具、果ては薬草や魔法書までなんでも置いてあるようだった。
ちなみに、魔法書は魔法の才能がある人が読むとわりとすぐに使えるようになる使いきりアイテムだ。
(ふーん、この値段なら、デパリーから貰った金貨1枚でかなり買えそうだな。 確かに二人分の命の値段だと考えると安すぎるかもな。
ちなみに、通貨の価値をニホン円の感覚でおさらいしよう。
・大金貨1枚が1000万円相当
・金貨1枚が100万円相当
・大銀貨1枚が10万円相当
・銀貨が1枚1万円相当
・小銀貨が1枚1000円相当 っとこんなとこだ。)
「いらっしゃいませぇ、お客様ー、そんな大金持ってたら危ないですよー!」ぱたぱたと駆け寄ってくる高校生くらいの可愛らしい店員が、見た目は怪しい格好のレイジが握っている金貨に気づいて話しかけてきた。
「あぁ、大丈夫だ。 俺は強いからな。」
「ツヨイ…(確かに黒い剣はなんか強そうだけど…) えー、ソーナンデスカー、スゴーイ」ショップ店員は感情を殺した。
レイジは店員の反応の変化にそっと目を伏せて、「それで、しばらくここを拠点にするんだけど、長旅に備えて準備がしたいんだよ。 この格好と剣しかないからな。ははは」と笑ってごまかした。
あー、「それならっ」とお店の奥から、ぱんぱんになっているリュックを持ってきた。
「これ、『旅の友達』シリーズでかなり人気なんですがー、このリュック一つで大抵の場所でも生活が出来るようになりますー。 着替えも一人用テントもついてますし、薬草等の回復系もここに入るんですー。」とサイドポケットから草の束がいくつか出てきた。
「へー、便利だな。 大銀貨1枚で丈夫なリュックに、ベルトにつけられるポシェット、着替えと防災グッズみたいなモノまで入っていて、マジてんこ盛りだなっ! で、閉じたリュックの上部にテントを乗せられるのか、うん、買った!! (さすが人気というだけあるわ。)」
「ボーサイグッズー? あっはーい、毎度ありー♪ こちら、抜き身の剣だと危ないので鞘をサービスで差し上げます。」
「あっ、助かるよ。 あ、そこの小銀貨1枚のベルトも貰える?」店員からベルトを受け取り、腰に巻いて剣をさした。
「あとは、魔法書あるなら欲しいんだけど。 大銀貨8枚だと何か買えるか?」
「そうですね、それでしたら初級魔法の書基本パックなら【火】、【風】、【水】、【土】、【便利魔法】が入っていて大銀貨8枚とお得ですよー。 バラ売りですと、一つが大銀貨2枚になってますのでー。 ただそのー、失礼とは思うんですが、お客様は剣士のようです、魔法は使えるのでしょうかー?」
「まだ使ったことはないけど、魔法の才はあるようですから大丈夫。 魔法剣士ってヤツだな。」
「えっ?、あっはいー。 才能があるんですか、ヘー、スゴイデスネー。カッコイーデスネー。(あー、自称の魔法剣士さんかなぁ)」
(あれっ? この対応は…)
《痛々しい目で見られてますね。》(だよねっ!)
「理解は早いほうだから、さ。(いかん、話せば話すだけ痛いぞ) それで、全部でいくらかな?」
「大銀貨9枚と小銀貨1枚になりますー、未来の英雄様♪」
嫌味ではなく、ホントに信じていますよ。と感じるように、ニコッと人好きのする笑顔で、かつ、速やかに金額を伝えた。クロージングまできっちり行う流れはまさにプロ店員のそれだった。
「おぅ、サンキュ。 はい、金貨1枚。」
「はい、お釣りがこちらですー。 この辺りの宿代は一泊銀貨1枚、食事代が一回につき贅沢な物でなければ小銀貨1枚でほぼ足りますので細めておきましたー。」
そして、お釣りを渡すときは下に手を添えて両手でレイジの手を包みこむようにふわっと返した。
「うわっ、気が利くなっ。 品揃え、店員の能力に接客態度、機転の良さどれをとっても最高のお店だなっ!」
ヘタレスイッチが入ったレイジは、少し顔が赤い。
「うふふっ♪ ありがとーございまーすっ♪ また来てくださいねー♪(チョロリピーターげとっ♪ 今月のノルマ達成だー♪)」
「おうっ、またなー!」
レイジは上機嫌でお店を後にした。
(なぁ、これがWIN‐WINってヤツだよなっ? なっ?)
若い店員とのやり取りで、心がぽっかぽかになった。
《あぁ、通貨の価値の説明回と魔法が使えるフラグ作りお疲れ様でした。》
(冷たっ!)レイジの心は急に冷え込んだ。
《……………(調子の良い主ですね。)》