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そのとき不思議なことが起きるから、ぼっち様にはどうやったって勝てないのです。  作者: yatacrow


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5話


□□□



--スサンダ村 宿屋獅子のもふもふ 受付--



「獅子のもふもふへようこそいらっしゃいました、お客様はお一人ですか? 休憩ですか? お泊まりですか? 何泊されますか? 食事はこちらで用意しますか? お召し物の洗濯サービスを利用されますか? なお、料金表はこちらです。 ご覧ください。」


「一人です、泊まりです、五泊です、食事は結構です、洗濯お願いします、料金表を拝見します。」


「ありがとうございます、銀貨2枚です、2階奥の部屋の鍵はこちらです、外出される際は受付に預けてください、洗濯サービスの説明や料金、当宿の諸々の説明はこちらです。 ご覧ください。」


「はい、銀貨2枚です、そんじゃどうも。」


(ふうっ、仕事はそこそこ出来るけど、言われたことだけやってますって感じだよな)


レイジは先ほどの忙しいやり取りと、いかにも堅物といった受付のメガネをかけた女性を階段からちらりと一瞥した。

ロボットのようにピシッと伸びた背筋のまま、じっと次のお客を待っているようだった。



□□□



2階の奥にあった部屋は四畳ほどの広さで、光を入れるための窓が一つあるだけの殺風景なものだった。


「これで、一泊小銀貨4枚ってどうなん?」


《この世界では、鍵付きの部屋で、荷物と命が守れるなら安いほうですね。》


「ふーん、結構物騒なんだな。 鍵がついてない部屋だと泥棒し放題ってとこか」

ぱらぱらと受付ロボ娘から貰った施設ガイドを読んでいると、『当宿では窃盗、強盗、殺人等のトラブルによる損失等は一切責任取りません。』がでかでかと書いてあった。


そのままレイジは、剣を置いてリュックの中身を確認し、ボロく薄汚れたシャツとジャージ上下、サンダルを洗濯サービスに頼んだり、魔法書を読んだりわりと忙しく夕方まで過ごした。


ちなみに、一張羅のため、洗濯に出すときはパンツ1枚だったため、受付娘からあわや警備員を呼ばれるところをなんとか土下座で乗りきった。



□□□



レイジは冒険者ギルドで、登録と一通りのルール説明を受けた。


クエスト(花形は魔物退治、ダンジョン潜り、その他雑用等もある。)をこなしていくと、冒険者のランク(信頼のようなもの)が上がり、より難易度の高いクエストが任されるようになる。


レイジは一番下のZランクからだった。


(いや、説明下手くそかっ! 冒険者ギルドの登録するシーンって異世界あるあるのキラキラ宝箱やん。 絡まれる俺パターンは定番、絡まれるヒロインを助けるパターン、マッチョなギルマスに一目おかれると、C級のくすぶり冒険者達のヘイト集めるとかさー。 だいたいZランクってファイナルやん、強い表現のやつぅ!! 26段階評価も半端っ! 8段目にSランクっ!!軽く通過しちゃうよっ!!)


《ちょっと何を言ってるか分からない。》


(いや分かるだろう! 傍観系敬語キャラどうしたっ!)


《そもそも主の以前にいた世界では冒険者ギルドはなかったはずでしょう? それに、スサンダ村の冒険者ギルドは小規模ですし、登録者も少ないです。

 主は冒険者が8段上のSランクになるためにどれだけの時間と労力がかかっているのかご存知ないはずです。 ちなみに、Sランクの冒険者は過去に1名いたぐらいです。その名は--》


《英雄スサンダ》(英雄スサンダァーッ!! 知ってたーっ!!)

レイジとコアの言葉が重なった。




---そのとき、不思議なことが起こった---


《主、たった今ですが、冒険者ギルド『キングダム王国総本部』がランクについて最低Zランク~最高Sランクの8段階にする。との通達が出されました。》


(スサンダ、キングダム王国、ランクの数え方……)

ツッコミどころが多すぎてレイジは吐きそうになった。

コアとの心の距離感は狭まった気がする。


《そろそろマンティス家に行ったほうが良い時間です。》


(ざんす女子を掘り下げるより、ギルドじゃね? うん、行くけどさ。)

ヒロインキャラと出逢えずに終わったレイジはかなりやる気がなくなった。



□□□



--スサンダ村 マンティス家別邸--


「ちーーーーっすぅ…」力なく手を上げながらレイジはデパリー達に挨拶をした。


「レイジ様、ようこそ来たざんすぅ♪ って元気ないざんすね?」とレイジを気遣う。


レイジが顔を向けると、そこには白いランが装飾されたふわりとしたドレスに身を包まれたデパリーが首を傾けていた。(さながら花カマキリのように…露出している色白の細い腕が余計に…)

レイジに見つめられて、頬が紅潮するのをデパリーは感じた。


「お嬢様、レイジ様はスサンダ村に来たばかり、荒くれ者揃いの冒険者ギルドでもしやトラブルに遭われたのかもしれません。」


「あぁ、あのとき先に[マンティス家の指輪]をお渡ししておけば良かったざんす。 まさかこの短時間でレイジ様にご不快な思いをさせてしまうとはざんす。」


「あ、いえ買い物して宿を探して、冒険者ギルドの登録と少し疲れたのかもしれません。(コアとの会話で疲れただけ) デパリー様、その指輪を私に?」


「えぇ、この指輪があればマンティス家の領地でレイジ様に無礼を働く者はいないざんす。 身分証明にもなるざんす、それとポット、レイジ様にざんす。」

(レイジ様にざんすって無理ねぇか?)


はい、ただいまとポットは懐から、じゃらりと袋を取り出した。

「スサンダ村まで護衛していただきましたので、その報酬の金貨10枚をお受け取りください。」


「いやこんな…「失礼ですが、レイジ様も冒険者。 冒険者がクエストをこなしたのです。これは当然の報酬にございます。」(ポットの目を見ると、こりゃ命の恩も含めてるから断るなってとこか。) えっと、では遠慮なく。」


それでいい、とポットは頷いた。「金貨よりも小銀貨や銀貨が使いやすいと思いますので、少し細かくしております。」


「偶然の出会いで、ここまで過分なお返しで恐縮です。」レイジは素直に頭を下げた。


「デパリーちゃん、ポットっ、長いざんす! 待ちきれないざんすぅ!!」ドパーンっと奥の扉が開いた。

(紫色のオオカマキリがあらわれた レイジはみがまえた)


「ママざんす!」「奥様!」二人は振り向いたため、レイジの様子に気づかなかった。


「まーっ!!、まぁまぁまぁっ、貴方が娘を、デパリーちゃんを救ってくれた恩人ざんすぅ!! なんとお礼を言ったらよいざんすぅ。」感謝感激が溢れたマンティス夫人、そのままレイジを抱きしめた。


《まるで頭から食べられているようです。》(だ、だまれ)

ちょうどレイジの顔がオオカマキリの胸に包まれているため、レイジは固まっている。ちなみに、オオカマキリは見た目と違ってふかふかだった。


「ちょっ、ママ、近いざんす、離れるざんすっ!」デパリーが間に割って入る。


「主人に先立たれてからは、久しぶりのたくましいお方ざんす。 ついざんす。 デパリーちゃんの前で恥ずかしいざんす。(これは当ててるざんす。)」そう言いつつも、レイジに腕を絡ませた。デパリーはさすがにそこまで出来ないため、レイジのジャージの裾を引っ張った。


《エサの取り合いに見えます。》(マジでやめろ、失礼すぎ!)


さりげなく腕を抜き取り、「えっと、すみません、私は冒険者になりたてのレイジと言います。 こちらこそデパリー様とポットさんにはお世話になりましたし、お礼もこれ以上ないくらい貰ってしまいました。」とマンティス夫人に頭を下げた。


「まあ、謙虚なところも好印象ざんす。 私は、キングダム王国公爵家の当主で、デカリー・マンティスざんす。 レイジ殿は、うちのデパリーちゃんの命の恩人ざんす。 さらにはモリマジロの三位一体を軽々といなす実力者、本当ならデパリーちゃんのお婿さんになってほしいところざんす。」(公爵家ってトップクラスの貴族じゃん、マンティス家と縁が出来たことはラッキーだったな。 デパリーは無理だけど。)レイジはしみじみ思った。


「ママっ、レイジ様のことはさんざん説明したざんすっ!」


「ふふ、婿の話はレイジ殿の人となりを見て、つい言ってしまったざんす。 それより、いつまでも命の恩人を立たせたままではダメざんす。 レイジ殿、夕食を用意させたざんす。 ご一緒するざんす。」


こちらへどうぞ、とレイジは有無を言わさず奥へと通された。


さすが上位貴族、本邸がどれだけのものかも分からないが、別邸の食堂は広々とした空間にシャンデリアがキラキラと揺らめいており、壁には歴代カマキリ夫人の絵が飾られている。レイジが部屋を珍しげに見回しながら入ってくるところを使用人達は暖かく出迎えた。


「お、おー、こちらに飾られている絵は素敵ですね。」


「ああ、歴代の当主を高名な画家に描かせたものざんす。 レイジ殿もすでにお気づきかもしれないざんすが、なぜかマンティス家では娘しか生まれず、いつも婿養子を迎えているざんす。 そして、代々、婿は短命なのざんす。」

マンティス夫人は少し悲しげに視線を落とした。


「ママ、その話は暗くなるざんす。 レイジ様、こちらの食事がお口に合えばいいざんすが、当家の料理人が腕によりをかけたざんす。 さぁ、食べるざんす。」


レイジはすすめられるまま椅子に座り、目の前の料理を眺めた。ごくっと喉が鳴るほど、そこにはニホンでもお高いレストランで通用するレベルの料理達が並んでいた。(コオロギとかバッタじゃなくて良かった。)


《主もたいがいですよ。》


マンティス夫人が向かいに、デパリーが隣に座り、食事が始まる。「いただきまーすっ」レイジは手を合わせた。


「レイジ様に教えてもらった食材に感謝する言葉ざんす。 ミーもいただくざんすぅ。」デパリーが手を合わせ、マンティス夫人もいただくざんすとそれに続く、マンティス領にニホンの文化が受け入れられた瞬間である。


--余談だが、手を合わせて『いただくざんす』、『ごちそうさまざんす』はキングダム王国全土に次第に拡がってゆくことになる。


(なんか惜しいよねっ!!)





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