魔法屋さん
ひとことで言うと、宿屋の裏手にある魔法屋さんでは教えてくれなかった。
でもそれで良かったのかも知れない。魔法屋の人達はなかなかにキツいキャラだったからだ。あたしには無理だ。
宿屋の裏手に回った途端、なんだか異様な気配を感じて見回すと、いきなり、でっかくってゴッツいおっちゃんと目があった。
「おう、そこのヒョロッこい嬢ちゃん! 魔法か⁉」
なんという、無駄にデカい声。あたしは危うく腰を抜かしそうになった。なんてったって圧がスゴい。完全に仕上がった感のある格闘家レベルのゴツさ。まさか魔法の先生なんだろうか、いや、用心棒……用心棒に違いない。
おどおどしていたら、おっちゃんがズズイっと顔を寄せてきた。
「火か! 水か! 風か⁉ まさかの土か‼」
「あ、あ、あ、あの、聖属性……」
「聖⁉ んなレアもんは教えてねぇ!」
一刀両断。
容赦ないお答えとおっちゃんの圧のスゴさも相俟って、思わず後ろに一歩下がってしまった。
「大丈夫か! 貧血か! ハラヘリか⁉」
あ、いや、別によろけたわけでは。
おっちゃんが怖過ぎて一瞬心が萎えかけたけど、あたしだってそう簡単に諦めるわけにもいかない事情がある。
頑張らねば。
「あ、あの、大丈夫です。その、せめて魔法の基本とか教えて貰えませんか? あたし、完全に独学で」
「無理だ!」
くぅ……またもや一刀両断。ま、負けないぞ。せめてなんか1つでもこのおっちゃんから有益な情報を引き出すんだ、あたし!
「あのっ」
「なんだ!」
いちいちムダに声がデカい!
と思った瞬間だった。
バチーーーーーーーン‼‼
と、景気のいい音が鳴り響く。
グオオォ……と、地響きのような呻き声をあげて、おっちゃんが地に伏した。
「あ、あの、大丈夫ですか」
しかし、その答えは貰えなかった。
「ゴイル! アンタ外に出るなっつったでしょ! 客が逃げる!」
という、至極もっともな怒鳴り声と共に目の前で土くれが盛り上がり、おっちゃんをドーン!と突き飛ばして、魔法屋さんの中にあっという間におしこんでしまったからだ。
もはや声も出せずに目を真ん丸にしていたら、中からとっても普通の可愛らしいポニーテールのお姉さんが出てきた。
「ごめんなさいね、怖かったでしょう? あなた、魔法を習いに来たの?」
どう考えても、さっき怒鳴ってたのと同じ声だ。本当はこのお姉さんの方が絶対に怖い。ただ、とりあえず話は通じそうだし、背に腹はかえられない。あたしは、おっちゃんとのやり取りを、改めてこのお姉さんに話してみる事にした。
「なるほどねぇ、残念ながら確かにゴイルの言う通り、うちでは教えてあげられないわねぇ」
そう言ってお姉さん……土属性の使い手だというダイアナさんは申し訳なさそうに笑った。
「うちで教えてあげられるのは、四大属性のみなのよ。火、水、風、土……これはそれぞれの精霊の力をかりて魔法を発現するの」
「精霊……」
「そう。今、あれ?って思ったでしょう」
あたしは思わず首肯いた。
いまだかつて、精霊とやらに力を貸して貰った覚えはない。もしかして、知らない間に勝手に力を借りていたんだろうか。それって相当失礼なんじゃない?
精霊を怒らせて国が滅んだという、笑えない逸話が頭を過る。
「あはは、そんな青くならなくても大丈夫よ。聖属性と闇属性は何から力を得てるのか、実はあまり研究が進んでないらしいの。どうやらその顔じゃ実際魔法を使ってるあなたにも分からないみたいね」
「はい、何から力を得てるとか、意識したこともありませんでした」
「聖属性なんて1000人に1人っていう珍しい属性だし、さらにその中でも魔法として発現できる程魔力がある人なんて、これだけ生きててもあなたでやっと3人目よ。滅多にお目にかかれないんだから」
どれだけ生きて来たのかはあえて聞かないけど、なんか思ったより聖属性が異質で珍しいって事だけは分かった気がする。ゴイルさん(なんと火属性の使い手らしい)が言った通り、普通の魔法屋さんや魔導師さんじゃ無理だってのも理解した。
それでもなんでも、あたしにはどうしたってやっぱり先生が必要だ。力を高めるために何が必要なのか、せめてヒントだけでも……!
「あのっ、あたし、どうしても強くなりたいんです。ご存知な聖魔導師の方、紹介していただけませんか? お、お願いしますっ!」
必死に食い下がったら、ダイアナさんは仕方ないなぁって少し笑って「すんごいお婆ちゃんだけど、腕は確かだから」と、一人の聖魔導師を紹介してくれた。
ダイアナさんの書いてくれた大雑把な地図に迷ったりしながらも辿りついたのは、宿屋からは結構離れた場所にある爽やかな丘の上の一軒屋。
一目見た感想は「わぁ、童話みたい」だった。
丘の上には赤いお屋根の可愛いおうち。風見鶏に煙突、庭には花が色とりどりに咲いていて、なんとも可愛い。近付いていくと、パンの焼けるいい匂いまでする。
平和でのどかで、なんだか幸せな気分になるおうちだなぁ……なんて顔をほころばせたまま、ドアをノックしようと右手をあげたら、見ていたみたいなタイミングでゆっくりとドアが開いた。
「ミリアちゃんかねぇ、よぅ来たねぇ」
なんという、可愛いお婆ちゃん!




