ばかやろう
「なぁなぁ、おヒメサマ、すっげぇ美人だったな!」
「……そうだね、天使みたいだったね」
リッツのばか。屈託なく笑顔全開であたしに同意を求めるの、止めてくれないかな。
「いやー、俺見蕩れちゃったよ、あんな人いるんだなぁ」
「惚れたんだろー! マジでお前ならさぁ、魔王討伐したら褒賞でおヒメサマ、嫁さんに貰えるんじゃねぇ? よっ勇者サマ!」
「は⁉ いや、そんな大それた事考えてもないって」
「だってよぉ、おっぱいもバーン! でさ、優しそうでさ、金髪キラッキラ、お目目ぱっちりブルーアイズの生粋のお姫様だぜ⁉ お前だってトローンとした目で見てただろ」
「いや、そりゃ見蕩れはしたけど、違うから!」
「照れるな照れるな、お前ならいける! 巨大な悪を倒して麗しの姫ゲットは男の夢だろー!」
「お前が言うとなんでそんなに安っぽいんだろうな、しかし確かにお綺麗な方だった」
宿屋に帰って来てから興奮しきりの男性陣。盗賊ニルスのストレートな感想に、リッツは困ったように、アーチャーのエルンストは呆れたように返すのは、嫌って程見慣れたいつもの光景。
さすがに今回魔王討伐の一助になるように、って旅の仲間として紹介されたお三方がいたらもうちょっとは大人しくしてるんだろうけど、これまでの旅の中で慣れ親しんだメンバーしかいないもんだから、そりゃもう盛り上がる盛り上がる。
なんだか居心地悪いあたしは、その場をフェードアウトしようとさりげなくドアへ向かった。心狭いけどさ、やっぱり聞いてたくないじゃない。パーティーメンバーはあたし以外男ばっかりなもんだから、尋常じゃなく盛り上っちゃってるし。
ふん、リッツのばかやろう、人の気も知らないで。
でも確かにお姫様はマジ天使だったよ、それだけは同意だよ……!
「あっ、ミリア! どこ行くんだ?」
くぅ、リッツに見つかってしまった。こんな時ばっかり、目敏いヤツめ。
「魔法屋さん」
とりあえず、行こうと思ってたのは本当だから。
「へ? なんで」
「一週間もしない内にまた旅立つんでしょう? ここって、珍しい事に魔法を教えてくれる魔法屋さんがあるみたいなの。もしかしたら聖属性も教えてくれるかも知れないから」
「へぇ、すっげぇなぁ! さすが王都だよな!」
「ああ、それは行った方がいい。智識は宝、ってね」
ニルスもエルンストもごく普通に会話に入ってくる。本当に気のいい仲間達なんだ。二人は諸手を上げて賛成してくれたのに、なぜかリッツだけは少し渋い顔をした。ただ、何がひっかかってるのかは分からないけど、少し考えた後、結局口に出したのはこれだけ。
「じゃあ俺もいくよ」
いつだってジェントルマンなリッツは、こんな時だって優しい。本当はパーティーで色んな人に囲まれて質問ぜめにあって、あたし達よりずっと疲れてる筈なんだ。出来れば部屋でゆっくりしていたい筈なのに、こうして周りを気づかってくれる。
そしてあたしはいつだってそれに甘えてきた。でもあたしも大分大人になったし、それじゃダメだって事くらい、いい加減分かってるんだ。
ねぇリッツ、あたし、強くなりたいんだよ。
お姫様が綺麗だって話も、リッツならお姫様でも狙えるって話も、本当の事だ。悲しくなる要素なんかない筈なのに居心地悪く感じてしまうのは、自分に自信がないからだ。どうしても自分と比べちゃって負けてる感が否めない……っていうか、同じステージに立つことすら出来てない感がハンパない。
新しく仲間になる人達が立派そうでついていけるか不安になるのも理由は同じ、自分に自信がないからだ。
リッツの優しさと強さに頼りきりで自分を高めて来なかったツケが、今ここに来てあたしに自分でもよく分からない壁を作らせてる。
「大丈夫。魔法屋さん、この宿のすぐ裏なんだって」
「そうか、でも明日でもいいんじゃないか?ずっと旅してきてからの連日魔物討伐からのパーティーだろ、少しは休まないと身がもたないぞ?」
「そうだよね、皆はゆっくりしててよ。あたしも今日は無理しないでちょっとだけ、覗くだけにするから。これまでちゃんと習ったことないんだもの、楽しみでしょうがないんだ」
「そう、か……」
しぶしぶながら首肯いてくれたリッツにニッコリ笑ってから、素早く部屋を後にする。自分の自信のなさなんて、自分で努力して克服するしかないんだもん。
少しでも役立たずな自分から脱皮したい。
その思いを胸に、あたしは宿屋の裏手にあるという、魔法屋さんに向かった。




