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  作者: kikuna
2/18

②恋なしでは生きられない

さあコイバナのはじまりはじまり。

 あまり待つこともなくホームに入って来た電車に乗り込んだわたくしは、派手な格好をした御婦人の隣が空いているのを見つけ、座りました。

 立ったり座ったりが億劫だから、一駅ぐらいは座らずにとも思いましたが、癖なんでしょうね。

 わたくしも相当めかし込んでいますが、チラリと横目で隣の方を見ました。

 完璧にわたくしの負けでございます。

 赤いリボンをつけ、水玉模様のワンピースは、胸元が大きく開いたもので、うっかりすると、胸の谷間が見えてしまうのじゃないかと、思わせるほど開いています。それにメイクも、大したものです。ピンクの頬紅に真っ赤な口紅。マスカラでしっかり持ち上げられたまつ毛。眉だって綺麗に一本線で書かれています。これで若ければ、言うことないのでしょうが。おそらく、わたくしぐらいじゃないかしら。

 通勤時間を少しずらして来たのに、降りてみると、かなりの人が階段に向かって歩いて行きます。膝が悪いわたくしです。転ばないように手すりを使って慎重に下りて行かないといけません。

 あら、追い越して行く人の姿にわたくしは目を細めました。

 隣り合わせた方も、同じ駅だったんですね。後ろから見れば何歳だかわかりませんね。

少し腰が曲がっているのは、いただけませんがね。


 さて、食欲がない雪乃さんに、何を買って行ってあげましょう。ゼリーなら、口当たりがいいから入るでしょうか。あれこれ悩んで、ようやっと買い物を済ませたわたくしが、病院のロビーに入って行きますと、あらっと足を止めてしまいました。

 先程のご婦人がいるじゃありませんか。

 矢張り、あのお洋服では目立ってしまっております。

 つかつかと歩いて来た看護師さんが隣に座り、ご婦人に何か話しかけています。

 いけません。また、わたくしの悪い癖です。

 ご婦人の後ろ、空いている席に座って、聞き耳を立てます。


 「丸川さん、院長先生は今日は居ません。いくらそうやって待たれても、診察は出来ませんから、お引き取り下さい。あと、院長先生から、ここに来る道中に何かあっては大変なので、お近くでかかりつけの病院をお探しくださいとのことです。もし、分からないとおっしゃるなら、こちらで紹介状をお書きしますので、そちらで診てもらってください」

 ご婦人、最後まで聞いてから、きつい目つきで看護師を見返します。

 帽子に三本線が入っています。きっとここの婦長さんなのでしょう。

 「アンタ、上手いこと言って、私と幸成さんを引き離そうとしているね。わたしゃ、そんなのに騙されて堪るか。幸成さんと会わせておくれ。会って話せば分かるんだ。一度は愛し合った二人だからね。あんたなんかに割り込ませないよ。早く幸成さんに合わせなさいよ」

 「ですから、あなたと院長先生は、もう何もありません」

 「ああ、煩い。私は具合が悪いんだ。幸成先生の診察を受けて、何が悪い?」  

 水掛け論が続き、周りの方も聞き耳を立てて聴いているのがよく分かります。流石のわたくしも、これ以上聞いているのは心苦しくなり、席を立ち雪乃さんの病室に向かうことにしました。

 エレベーターを待っていると、ロビーの方が一段と騒がしくなって来ている様子に、わたくしの視線は、自然とご婦人がいた方へと向けられたのでございます。

 どうやら、ご婦人は強制退去をさせられえてしまったようでございます。

 

 その話を、ベッドに横たわる雪乃さんに話してやりますと、ああと頷き、かわいそうな方なのと言って、起き上がろうとしている雪乃さんに手を貸し、背中に枕を当ててあげます。

 顔色が優れません。息も苦しそうで、余計な話をさせてはいけないと思いながらも、つい、まぁそうなのと、相槌を打ってしまいました。

 「彼女は、わざわざ横須賀からやって来るのよ。以前、院長先生が勤めていた病院の患者さんだったらしいんだけど」

 急に、せき込み始めた雪乃さんの背中を摩ってやりながら、わたくしは目を細めます。

 「ごめんなさい。もう大丈夫。ありがとう」

 息、絶え絶えの雪乃さんに、話さなくっていいからと言ったのですが、大丈夫と言って、話を続けようとしています。

 「彼女、もとは良い所のお嬢様だったみたいなの。戦争で、何もかも失くしてしまい、一人ぼっちになってしまった彼女が、生きるために選んだのが、女を売ること」

 「パンパン」

 ふと口を衝いて出てしまった言葉でございます。

 雪乃さん、一度、目を瞑り、にこっとしました。

 何て悲しいそうな笑顔なんでしょう。

 「頼れるところは、頼って行ったみたいだけど、お金が無くなると、途端にみんな、手のひらを返すように冷たくされちゃったみたいね。気が付いたら、米人が自分の上に乗っていたって」

 「雪乃さん、ずいぶん、詳しいのね」

 「外来で行き会って、すっかり意気投合しちゃって、私の担当医が院長先生だった関係で、聞かせて貰っちゃった」

 雪乃さんのことだから、院長先生に何とか取り継いであげるとでも、言ったのでしょう。そして、約束通り、会わせてあげたに違いありません。

 「その内ね、彼女の中に、誰が父親か分からない子が宿ってしまって、産めないと思った彼女は、無理に自分でおろしちゃったんだって。それが、いけなかったのね。気が付いたら、病院のベッドの上に居たって言っていたわ。そこで担当医だったのが、院長先生。若い頃の院長先生は、手が付けられないほどの女ったらしで、あっちにもこっちにも女がいたらしいの。患者さんにも、普通に手を付けていたし、ましてや若くてきれいな彼女に目がくらまない訳がない。あっ、ここは婦長さんの話の受け売りよ。私が彼女を、自分の付添人だって言って強引に診察室へ入れようとしたら、逆に彼女を説得してくれって、頼まれちゃったの。そん時に話してくれたんだけど」

 ここまで話して雪乃さん、気分が悪そうで、目を閉じてしまいました。

 無理は禁物でございます。

 「看護師さんを、呼んできましょうか」

 「大丈夫だから、ここに居て」

 とても話せる状態だとは思えません。息をするのもようやっとなのに、どうしたことでしょう。



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