表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/21

アイドル記者②

ライブから戻ったカケルは自席できらりのSNSのアカウントを開いていた。ミコトとシュウが後ろからその様子を見守ってる。


「観客がいきなり消えるなんて、にわかに信じられないけど」


「いや、それが本当なんだよ」


 一瞬にして会場の温度が消え去った体験を思い出して、思わず身震いする。


 一方のミコトは疑いを隠そうともせず、


「幻覚を見たんじゃないの?」


「いや、どんな幻覚だよ」


 ミコトが目を細めながら首をかしげてシュウを見る。


「本当?」


「ああ、確かに。曲が終わって暗転から戻った時には、会場は空になっていた」


「そっか……じゃあ、間違いないね」


(そこはすんなり納得すんのかよ)


 カケルは返事をせずに、ワンヴォイスの流れ星きらりのSNSを開く。最新の投稿に目的のものはあった。


 クリックすると、動画が流れ出す。


「何これ、新曲?」


「ああ」


 音声をオンにして3人でその曲に耳を傾ける。きらりの澄んだ歌声と切ないメロディに、会場で聞いた時の感動が鮮やかによみがえった。


「別に、なんの変哲もない曲だと思うけど」


 ミコトの無遠慮な一言に苦笑いをしつつ、本文をクリックすると歌詞が現れた。一度聞いただけだったが、不思議とあの時の歌詞だと分かった。


 しかし、ミコトの言う通り、あのライブ会場で起きた現象を説明するものはなかった。歌詞の内容に目を凝らしても、違和感のようなものは見つけられなかった。


 続けて、コメント欄を開く。


 その瞬間、カケルはこの曲がもたらした影響を思い知る。


 投稿日時は数時間前だというのに、既にコメント数は数万に上っていたのだ。


 その内容には、特徴があった。


『「あの日見た空」ってことは、過去に何かがあったってことだよね』


『「白い箱」って、薬のことじゃない?』


『「誰かの願い」……きらりちゃん本人の可能性もあるよね』


『「名前も知らない星」って、たくさんの赤の他人のことなんじゃない?』


 コメントは、きらりの歌詞を分析する者ばかりだった。


「なるほど、報道の一つの在り方かもしれないな」


 それらを見たシュウが感心したようにうなずいた。


「ファンに議論させて注目を集め、さらに多くの人を巻き込んでいく。結果、記事の影響力はすさまじいものになる」


 話してる間にも、コメントはどんどん増えていく。ついには、具体的な地域や企業名なども挙げられるようになっていった。それらに対して、さらに賛成や反対の意見が交わされる。


「もう、みんな好き勝手しゃべってて、収集付かないよ」


 ミコトの恨み言を聞きながら、カケルはコメントの奔流を見つめていた。


 シュウの言う通り、きらりの報道の形は非常に現代的で、記事を見てもらうのにはとても有効な戦略だと感じる。


 だが、同時に危険さもはらんでいるように思えてならない。


 多くの意見が乱立することの危険さ。意見の相違は時として、大きな争いを生む。実際に、過去に情報の氾濫による大災害が引き起こされたのだから。


「ん?」


 思案していると、シュウが何かに気付いたように声をもらした。


「なんかやたら同じ名前の企業が出てくるようになってないか?」


「確かに」


 ミコトは携帯端末を取り出して、画面に指を躍らせる。


「メディホールディングス……医薬品の卸会社みたいだね」


「医薬品?」


「ざっと見た感じ、過去の不正もないし、監査もしっかり行ってる。まっとうな企業っぽい」


「ふむ」


 シュウが考え込む。


「そもそも、あの歌詞からどうやって、この会社にたどり着いたんだ?」


 シュウに応えるように、カケルはコメントの流れを辿る。


 すると、奇妙な点を見つけた。


 カケルは、該当の箇所を表示させる。


『白い箱って、メディホールディングスの物流倉庫のことじゃない?』


『確かに』


『前から怪しいと思ってた』


『やっぱりそうだったんだ』


『きらりちゃんは真実を伝えてる』


「初めてメディホールディングスの名前が挙がった投稿を境に、まるで示し合わせたように、意見が一方向へ流れ始めてる。それまで、多くの企業や地名が出ていたのに関わらずだ」


「なにそれ。ファンだけがわかる暗喩みたいなのが歌詞にあったってこと?」


 ミコトは携帯端末に指を滑らしながら言う。


「どうだろうな。どちらかというと、何らかの意思が働いているように見えるが、ここからでは断定できないな」


「っぽいね」


 議論が一段落して、カケルの頭の中では、別の問題が浮かんでいた。


「それに、肝心なことがわかってない」


 ミコトとシュウがカケルを見た。


「会場から人が消えた現象が何一つ分かっていないんだ」


 改めて言葉にして、その異常さが身に染みる。


 同時に、カケルの胸の中を支配していたのは、ライブで知り合った一人の青年の顔だった。きらりのことを熱弁する、きらきらとした相貌。


 平田はいったいどこへ行ってしまったのか。


 オルビスに戻るまでの間に連絡を入れてみたものの、現在まで返信はない。


「まあ、ここで考えていても仕方ない」


 シュウが手をパンと叩いた。


「この企業と周辺の地域を取材するぞ。俺は企業に直接あたってみる。カケルとミコトは周辺の住人に聞き込みを行ってくれ」


「わかった」


「頼むぞ……っておい。ミコト、聞いてるのか」


 ミコトはスマホを熱心に眺めていたまま、返事をしない。


「みこ……」


「見つけた!!」


 まん丸に目を開いたミコトが叫んだ。


「は?」


「すごいもの、見つけちゃったんだよ!」


 興奮交じりでミコトが携帯端末を渡してきた。画面上では、きらりが化粧品を手に取って、一生懸命口を動かしている。


 しかし、特に異常は見当たらない。


「この動画がどうしたんだ」


「ここだよ、ここ」


 目元と顎のあたりを指し示す。


「だから、なんだよ」


 カケルの問いかけに、ミコトはもったいぶったように息を止めてから、


「こいつ、顔加工してるんだよ!」


 カケルとシュウはがくっと頭を下げた。


「お前、そんなのSNSだったら誰でもやってることだろうが」


「何言ってんのさ!これも立派なフェイク。オルビスとしてしっかり追求していかないと!」


「ははん、お前……」


 息巻くミコトにシュウが、からかうように笑みを浮かべた。


「やきもちやいてんだろ?」


「は、はあ!?」


 ミコトの声が1オクターブ高くなった。


「なんであたしがこいつにやきもち焼かないといけないの!」


「気にすんなって。ミコトだって捨てたもんじゃないぞ」


「その慰められる感じすごくむかつくんですけど!あたしはオルビスとして」


「はいはい、わかったわかった。とにかくメディホールディングスを調べないとな」


「ちゃんと聞けー!」


 2人のやり取りに苦笑しながら、カケルは携帯の画面を見つめる。


 楽し気にこちらに向かって語り掛けるきらり。


 彼女はアイドル記者という形を通して、人々に何を伝えようとしているのか。


 画面からでは、きらりの瞳の奥の光の色を推し量ることはできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ