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微子の憂鬱外伝 紂王伝  作者: 日和見


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添寝

紂王伝 第91話 ――九侯きゅうほうの娘を側室に迎える。その突如としてもたらされた婚姻の打診は、一国の王たる私一人の胸三寸で決めて良いものではなかった。私はまず、我が血脈たる氏の一族を招集して内々に意見を募り、その上で朝廷の重鎮らと本格的な合議に臨んだ。下された審判は「受諾」の一手。我が後宮においては、未だ風が実質的な唯一の妻であり、妲己は名目上の側室に過ぎない。朝廷の門閥らからは、王朝の未来のために早く次の妃を娶るべきだと、平素から強烈な圧力をかけられ続けていたのだ。王嗣(後継者)は多すぎれば禍根を遺すが、寡少かしょうに過ぎれば国家の根幹を揺るがす。(王としての義務、か。ならば、甘んじてその重荷を背負おう)私は為政者としての覚悟を新たにし、今日の政務を早々に切り上げて奥(後宮)の邸宅へと足を向けた。門をくぐれば、いつもと変わらぬ最愛の家族たちが、私の帰還を出迎えてくれる。「風、禄父ろくふ、妲己。――今夕は、皆に伝えておかねばならぬ重大な決定がある。だが、まずは風が屋敷に用意してくれた温かい茶を頂こう。それが済んだ後、私の屋敷へと集まってくれ」彼女が真心を込めて調えてくれた出迎えの時間を、政治の都合で無下に潰すような無粋はしたくない。いつも通りに憩いの茶を嗜み、他愛のない世間話で心を解きほぐした後、私は皆を自らの屋敷へと伴った。手ずから淹れた茶で家族をもてなし、一息ついたのを見届けてから、私は厳かに本題を切り出した。「これは、すでに朝議にて裁可を下した決定事項なのだが……近々、我が後宮に新たな側室を迎えることとなった。有力諸侯たる九侯の愛娘だ。一ヶ月後には、この朝歌の宮廷へと舆入れしてくる」あえて淡々と告げ、皆の顔色をそれとなく観察した。最初に沈黙を破ったのは、王后としての度量を持つ正妻・風であった。「あら、陛下。それは何より素晴らしい決定ではありませんか。これまでも周囲の臣下たちから、早く次の御妃をと散々突き上げられておいででしたもの。私は全面的に賛成いたしますわ」風は柔らかな微笑みを浮かべ、少しだけ頬を染めて私に視線を送ってきた。「ただし、王后として一つだけ我が儘をお許しください。新婚の最初の半年は大人しく我慢いたしますけれど……それ以降は、これまで通り、私のこともお相手してくださいますね?」「――ああ、勿論だとも。約束しよう」私の孤独を知り、支え続けてくれる愛しい妻。心の中で彼女への深い愛を再確認していると、今度はその傍らで、妲己が小さな拳を握り締め、もじもじと身を震わせながら可憐な声を絞り出した。「あ、あの……! 私がまだ幼く、旦那様が夜の本当のお相手をしてくださらない理由は、ちゃんと理解しているのです。……ですが」妲己は白皙はくせきの頬を林檎のように真っ赤に染め上げ、必死に私を見つめてくる。「ぞ、添い寝だけで構いません……っ! 私も、ほんのたまにで良いのです。旦那様の傍らで眠るお許しを……どうか、お願いいたします……!」そのあまりに悲痛なまでに健気な請願に、私は思わず風と視線を交わした。風は私の意図を察したように、隣で優しくこくこくと首を縦に振っている。大人の男性(私)に対するトラウマが未だ癒えきらぬ中で、それでも私の温もりを求めてくれるまでに心が回復したのか。「……本当に、添い寝だけだぞ、妲己」私が声音を和らげて念を押すと、彼女はパッと視界が開けたような満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに謝辞を述べた。一ヶ月もの間、自室に引き籠もらせてしまったのだ。彼女がどれほど寂しい思いを抱えていたか、己の配慮の至らなさを深く反省せざるを得なかった。その後は張り詰めた空気も消え去り、私たちは夜が更けるまで和やかに言葉を交わし続けた。今夜は家族の絆を深める特別な夜。私は久方ぶりに、我が私邸の厨房で調えさせた豪勢な料理を家族に振る舞い、その賑やかな笑顔に、一日の政治の疲れをそっと融かしていくのだった。

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