やだ、やだ、やだ、
紂王伝 第66話 互いに胸の奥の澱おりを吐き出したことで、傷ついた叔父さんを慰めるつもりが、私自身の心まで救われていくようだった。「啓叔父さん、少しは心がマシになりましたか?」そっと顔を覗き込むと、その目元や鼻筋が、どうしても最愛の旦那様の面影を想起させる。だからこそ愛おしくなり、私は嬴風えいふうお姉様からしてもらった温もりを返すように、叔父さんの頭を抱え、その華奢な身体で包み込んであげた。この抱擁で、私たちの傷は癒える。そう信じていた。「妲だつ様……」低い掠れた声とともに、背中に回された叔父さんの両腕に、異常なまでの力がこもる。(周囲に、こんな風に寄り添ってくれる人がいなかったのかしら……)そんな純粋な憐れみと感傷を抱いたのも束の間、視界が激しく反転した。気がつけば、私は柔らかな寝台の上へと押し倒され、叔父さんの大きな身体に組み敷かれていた。「ちょ、啓叔父さん……っ?」声を上げようとした瞬間、叔父さんの理性を失った獣のような瞳が間近に迫る。ちょっと、何をしているの、本当にやめて――そう憤慨した直後、衣服が乱暴に引き裂かれる音が室内に響き渡った。「ちょっと本当にやめて! やだ、え、やだやだやだ!」言葉にならない悲鳴を上げる。しかし、私の拒絶は一切届かない。どうして。どうしてこんなことになるの。私はただ、傷ついたこの人を慰めたかっただけなのに。親愛を向けた結果が、どうしてこんな悍ましい暴力で返されなければならないの。のしかかる圧倒的な質量と、逃れられない絶望的な恐怖のなかで、私の心は急速に凍りつき、意識は暗転していった。 * * *次に意識が戻ったとき、部屋はしんと冷え切っていた。身体に残る生々しい違和感。それ以上に、私の胸を抉るのは、世界そのものへの激しいやるせなさと絶望だった。信じていた。救えると思っていた。そんな自分の浅はかさと、理不尽に踏みにじられた尊厳の痛みに、頭がおかしくなりそうだった。私の中で何かがぷつりと音を立てて壊れ、二度と戻らない何かが消えていく。私はもう、あの無邪気でいられた私には戻れない。涙で歪む視界の先で、私はただ、届かぬ救いを求めて、心の中で最愛の人の名を叫び続けることしかできなかった。……旦那様、助けて。




