久々の散策
紂王伝 第64話 あの血塗られた会議室の惨劇から一週間、そして、私の浅はかな怯えによって最愛の旦那様を深く傷つけてしまったあの日から、三日の月日が流れていた。沈み込んでいた私の心が何とか前を向くことができたのは、偏に嬴風お姉様や禄父くんが注いでくれた無償の愛の賜物だった。ここ数日、ずっと奥の屋敷に閉じこもっていた私は、気分転換を兼ねて外の空気を吸いたいと思うようになった。「嬴風お姉様、少し街を散策し、買い物に行ってまいりますね」「ええ、妲ちゃん。ですが決して無理はせず、護衛の言うことをよく聞くのですよ」お姉様は柔らかな微笑みで私の背中を押してくれた。頼もしい我が息子・禄父は、中庭で飛廉叔父さんの手ほどきを受け、熱心に武芸の訓練に励んでいる。その微笑ましい姿にそっと手を振ってから、私は歩みを進めた。宮殿の玄関口には、すでに私のために豪奢な馬車が控えていた。本音を言えば宮殿から徒歩で赴きたかったのだが、あまりに広大な敷地であるため、市街地へ辿り着く前に日が暮れてしまう。そのため、貴族街と一般市街を隔てる大門までは、大人しく馬車に揺られることにした。門を抜けて一歩足を踏み入れれば、久しぶりに目にする朝歌の市街は、以前と変わらぬ圧倒的な活気と賑わいに満ちあふれていた。並ぶ露店を眺め、何か心惹かれる品はないかと吟味しながら、そぞろ歩きを楽しむ。「……こんにちは、妲様。お久しぶりです」雑踏の中から、私を呼ぶ力ない声が聞こえた。視線を向ければ、そこに佇んでいたのは、すっかり影の薄くなった啓叔父さんの姿だった。頬はこけ、目元には濃い隈が浮き出ている。「こんにちは、啓叔父さん」声を弾ませて挨拶を返したものの、その衰弱ぶりは一目瞭然だった。あの夜、旦那様から突きつけられた「死の警告」と生首のトラウマから、叔父さんは未だに抜け出せずにいるのだ。伯邑考を拉致し、殺害するという暴挙を企てたのは、確かに啓叔父さんだ。けれど、その狂った計画に深く考えもせず賛同し、手助けをしてしまったのは私でもある。罪の重さは、私にとっても他人事ではない。(……少し、慰めて差し上げよう。お姉様たちが私にしてくれたように)どんなに愚かな過ちを犯したとしても、見捨てずに寄り添ってくれる人がいる温かさを、私は知っている。それに、何だかんだ言っても彼は、大好きな旦那様のたった一人の血を分けたお兄様なのだ。「もしお時間が許しますなら、少し場所を変えて雑談でもいたしませんか?」私からの予想だにしない温かい提案に、啓叔父さんは目を見開いて硬直した。まさか自分を糾弾するのではなく、案じる言葉をかけられるとは思っていなかったのだろう。呆然とした後、叔父さんは観念したように小さく息を吐き、「それならば」と、私を自身の邸宅へと誘うのだった。




