呂望
紂王伝 第62話 ある日の政務の合間、私は箕子叔父上から、個人的に紹介したい人物がいると声をかけられた。「ふふ、私の最年少の友人だ。こんなに小さな頃から面識があってな。受にもいつか紹介しようと、ずっと思っていたのだよ」叔父上はそう言って、自身の腰のあたりで楽しそうに手をひらひらと動かしてみせた。我が商王朝において一、二を争う卓越した智者である箕子叔父上。その厳しい眼鏡に適った人物とは、一体どのような傑物なのだろうか。私はにわかに俄然興味を覚え、叔父上の邸宅にて、内密にその人物と面会することにした。「お初にお目に掛かります。私、氏は呂、名は牙。字を望と申します」丁重に一礼したその人物を見て、私は微かに目を見張った。「ほう……。貴殿があの、巷で噂の有名な占い師か」的確な人物評と、恐ろしいほど的中する情勢予測が得意な占い師が朝歌の市井にいる。そんな噂を、かつて家臣や諸侯からの報告で耳にしたことがあった。だが、まさかこれほどまでに若い青年だとは思いもしなかった。ふむ、と私は胸中で顎を引く。「呂望殿。天帝の御前に誓おう。今は公務の場ではないゆえ、何を語っても罪には問わぬ。……この私の『人物評』と『功罪』を、忌憚なく語ってはくれまいか」私の突飛な要求に、隣にいた箕子叔父上が苦笑しながら視線を向けてきた。「受よ、あまり無理を言うな。いくら誓われたところで、王を前にしてその罪を堂々と口にできる者などおらんよ」しかし、叔父上の心配を余所に、呂望と名乗った若者は臆することなく真っ直ぐに私を見据えた。「――では、申し上げます。王をお側で拝見し、一言で表すならば、大王は『改革者』にございます。それから功罪については……どちらも数え切れぬほどにございますな」「はは!」思わず快い笑い声が漏れた。王たる私を前にして、恐怖の欠片も見せずにのたまうとは。なるほど、あの箕子叔父上がわざわざ「友人」と呼んで私に引き合わせただけのことはある。「ならば、その功罪を順番に挙げてくれ。どちらかに偏れば、ただの追従か、あるいは私への嫌がらせと思って気分を悪くするからな」「畏まりました。では、まずは私の『予測』からお話しいたしましょう。もし間違いがございましたら、その場でご指摘を」呂望はそう前置きすると、私のこれまでの治世と、その大枠における改革の本質を、淀みなくスラスラと口にし始めた。「第一に、神権政治からの脱却と、それに代わる絶対王政の確立。……大王は、とりわけあの『生贄』の祭祀がお嫌いなご様子だ」心臓の奥を冷たい刃で突かれたような感覚がした。まじか、この男、そこまで見抜いているのか。「第二に、徹底した物流改革。街道の整備と貝貨等の導入。それらによって民の生産性と国家の税収が跳ね上がり、さらなる整備と増産を生み出す好循環が完成しつつあります。市井を流れる品々の豊かさには、店を経営する私も大いに恩恵に預かっておりますよ」呂望の朗々とした声は、なおも続いていく。これほど正確に言い当てる若者を前にして、私の胸の内はかつてないほどの高揚感で満たされていた。




