出迎
紂王伝 第43話 西方の雄であり、私の従兄弟でもある周の君主・姫昌を、この王都の羑里に幽閉してから、早くも三ヶ月の月日が流れていた。そんな折、西の国境から一つの報せが私の元へ飛び込んできた。姫昌の長子であり、我が妹の息子でもある『伯邑考』が、こちらに向かって進軍しているというのだ。いや、進軍という言葉は正しくない。彼は、周国内のありとあらゆる財宝を、文字通り集めに集めて、こちらへ向かってきているらしかった。その必死さは容易に想像がつく。だが、政治はそれほど甘くはない。姫昌という男の持つ底知れぬ器、周の急速な勢力拡大を考えれば、どれほどの財宝を積まれようとも、ここで彼を易々と解放するわけにはいかないのだ。だが、はるばる朝歌までやってくる伯邑考は、私にとっては可愛い甥でもある。父親を解放することはできずとも、命がけでやってくる彼に対して、叔父として多少の便宜を図ってやるくらいの度量は持ち合わせているつもりだった。(……ただし。もしもあの若き伯邑考の『器』が、父親である姫昌に匹敵する、あるいはそれ以上のものであったなら――)そこまで考えて、私は思考を打ち切った。いや、止めよう。まだ見ぬ若者の才を今から警戒しても始まらない。全ては、実際に会って、その目を確かめてからだ。それよりも、今は目先の現実的な問題を処理せねばならなかった。彼が携えているのは、一国を傾けかねないほどの莫大な財宝だ。そんなものが無防備に街道を進んでいれば、道中の諸侯や賊どもが邪な牙を剥くのは火を見るより明らかだった。我が商の領内で、周からの貢物が奪われるなどという不名誉は絶対に許されない。「崇の国境から、ここ朝歌までの街道を綺麗に『掃除』させておくか……」私は即座に、崇侯の治める国境から王都までのルートに潜む不穏分子を排除するよう、裏で手を回すことにした。さらにそれだけでは足りない。伯邑考の一行が商の領内に入った瞬間から、我が直轄の親衛隊から一隊を割き、彼らの『護衛』として直々に付けることを決めた。これは財宝を守るための実利的な措置であると同時に、王太子である彼を国賓として手厚く迎えるという、私からの最大限の「歓迎」の意思表示でもあった。西からやってくる若き血筋が、私にどのような顔を見せるのか。私は冷徹な統治者としての仮面を被り直し、まだ見ぬ甥の来訪を、静かに待ち受けることにした。




